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「相談」と「元弁護士」をめぐる事情

 ラジオ番組の「テレホン人生相談」を聞いていると、弁護士回答者が、法律相談と人生相談の境目を意識し、しばしばあえてそれを明確にして話を進める場面を耳にします。「これは法律家としてではなく」などと断ったうえで、法律的にはこういう結果になるだろうけど、それ以前に相談者にできること、つまりは考え方であったり、心構えであったりを指南する。

 言ってみれば、基本的な法律相談と、それに加味して必要な人生相談を行える相談者ということで、この番組にとって弁護士は有り難い存在であるととれます。ただ、いつもここで別のことも頭を過ります。この番組は、あくまで「人生相談」という枠組みなのだからいい。しかし、この弁護士回答者の対応を聞いている人のなかには、まさにこうした対応を弁護士の業務としてイメージしてしまう人はいないだろうか、と。

 もちろん、出演者はそうなる危険性があるからこそ、ここからは「人生相談」と前置きしているともとれるわけですが、果たしてそれがラジオを聞いている人に、ここから先は普段の弁護士の仕事でない、と、伝わっているのかどうか。

 「人生相談に応じている時間はない」。こうしたことが、弁護士のなかでかつてより言われるようになりました。弁護士がやるべきなのは法律相談だけで、人生相談に踏み込む領域に付き合っている暇はないし、筋違いであるとの意識。この強まりは、今の弁護士の余裕のなさだけでなく、かつてよりもその点で「勘違い」した相談者が法律事務所の門をたたいているということもいわれるだけに、これもまた二重の意味で「改革」の影響といえなくはありません(「『厄介な方々』と向き合う弁護士」 「法律相談無料化の副作用」)

 そして、もう一つ、この番組を聞いていて、頭を過ったことがありました。「人生相談」の回答者が「元弁護士」であったならばどうなるのか――。おそらく弁護士であれば、弁護士法72条の規定をもとに、少なくとも前記番組のなかの弁護士回答者のような対応はできない、一も二もなくやればアウト、と言うでしょう。同条から相談者本人からではなくとも、局からの報酬があれば、対価性が認められ、「法律相談」に当たる部分が、弁護士以外には禁止されている行為を、報酬を得る目的で行った、として違法だと。

 もっとも、「人生相談」の場を設定している側からすれば、前記したように、「人生」「法律」の両領域にまたがって回答できるメリットがあっての起用であれば、わざわざ「元」付きを使わなければいいだけのことなので、それほど問題はありません。しかし、仮に有償の「人生相談」を「法律相談は行わない」と宣言して「元弁護士」が行うとしたらば、それはどうなるのか。前記した最大のメリットを活かさない「相談」を行う、という言を信じれば足りるという話なのか――。実際、最近、こうした問題と関連して、業界関係者をざわつかせたケースもありました。

 この問題に関しては、「一も二もなく」とはいかない、二つの点を抑えておく必要があります。一つは、こういった「元弁護士」のケースが増える可能性があることです。弁護士が経済的な問題から、いろいろな生き方を模索するなか、「元弁護士」もこれからさらに社会に放出される。そのなかで、その経験を引っ下げて「相談」に当たるという場面が増えることは十分に考えられ、その度にここは論点になりかねない。弁護士72条による「自制」が働くのか、働くほどこの規定が「元弁護士」の中に存在しているのかが問題になるということです。

 さらに根本的な問題は、このケースで72条の制約が果たして社会に対して説得力を持つのか、という点です。「元」と括られる人材のなかには、もちろん冒頭の「人生相談」に登場するようなベテランも含まれるかもしれません。そうした人材が、弁護士登録を外した瞬間に、弁護士としての経験や知識を活かした冒頭のような広がりをもった「人生相談」に応じることができない、しかも「法律相談」に当たる部分は内容いかんにかかわらず、一律にできないということに、社会はより不合理、無駄を感じ出す可能性があります。

 もちろん、対価性を伴わなければ、法律を勉強した人材や元法律家であったとしても、弁護士法の問題にはなりません。ただ、目を離して、あえていえば法的なリテラシーの社会的な有効活用という視点が強まるほど、安全だけで語られる弁護士の「独占」の意味は、問われることになるはずです。

 一方、「元弁護士」が72条を踏まえて、自制的に「人生相談」をやるというのであれば、とりあえず「元弁護士」を表明すべきではない、という意見も聞かれます。ただ、それはいうまでもなく、相談場所設定者がそれを前提に相談者を集めたり、相談者自身がそれを前提に、その知見を期待してやってくるということは防げても、内実において対価性がともなう「人生相談」のなかで、「元弁護士」経験と知識がいかされた、実質「法律相談」が行われるのであれば、何の意味もなくなります。

 しかも、前記したような、「制約」に対する必ずしも社会的なコンセンサスがないなかで、要は「それが許されても、弁護士以外、誰からも文句はでないはず」という意識のなかで、「元弁護士」に何らかの「自制」が働くのか、という問題にもなってくるのです。

 弁護士が業務のなかで、いわばサービスとして人生相談にわたる部分にも対応する形は、社会のなかに仮にそうしたものへの期待感があっても、「改革」が生み出している弁護士の現実は、そういう方向にはありません。いまやそれが業務としてふさわしい形とみる弁護士も圧倒的に少数派のはずです(「弁護士の『人生相談』」)。その一方で、「元弁護士」の存在は、いずれ弁護士会として、なんらかの新たな対策を考えなければならない、あるいは根本的にこれまでの対応を考え直さなければならないテーマになるかもしれません。

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