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「痩せなくては」と自分を追い込むスポーツ選手たち~次々と明らかになる女性アスリートの摂食障害、どう向き合うか~

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「デブ」の一言がきっかけに

摂食障害の発見が遅れる原因には、コーチと選手のジェンダー的な問題もある。

「女子選手は、男性コーチに身体のことを話しづらいですよね。コーチと選手の関係はとても強いものですが、体のこととなるとコミュニケーションが難しい。女子選手が体重を落とし、無月経になっても運動をやめさせないコーチもいます。選手が骨折して受診した際に骨粗しょう症がわかり、やっと摂食障害に気づくということも珍しくありません」(西園氏)

3才から器械体操を始め、現在は講師として活躍するH.Yさん(35)が摂食障害になったきっかけは、19歳のときだった。

「大きな国際大会の代表選考を春先に控えていた大学1年の冬、コーチに『体重を減らしなさい』と言われました。全寮制の大学だったので、高校時代までのように親が食事を作ってくれることはありません。ハードな練習のあとにも関わらず、寮にある電子レンジでもやしをチンして食べるだけであったり、カロリーメイトのような栄養補助食品だけにしたり。

練習の前には、毎日プールとサウナに入って、とにかく体重を100グラムでも減らそうとしていました。拒食症のような状態だったと思います」

目標としていた国際大会の後は食事制限をゆるめた。しかし3ヵ月後の試合会場で他クラブのコーチから「太った」と言われ、ストレスから過食嘔吐になってしまった。

「大きな大会の後、他クラブのコーチに『デブ』と言われたとき、私の中で何かがパーンとはじけたような気がしました。当時、周りの選手には過食嘔吐(注2) をして体重を保っている人もたくさん知っていたのですが、私は食事制限だけで、嘔吐はしていなかった。小学校の頃から『今日は体重を計るから』と給食を減らすような、厳しい食事制限をしてきたんです。

そういう努力の経過を知らない先生が、何気なく放った『デブ』の一言で、糸が切れたんですね。

周りで嘔吐して体重を落としている選手たちを知っている中ずっと食事制限でコントロールしてきた自分は『太っているからだめなんだ』と人格否定されたように感じました」。

そこからは、むちゃ食いと嘔吐がやめられなくなった。吐くために食材を買い込み、吐くために食べる。多いときには1日10回も過食嘔吐を繰り返した。

どんな食事も「いつ吐こうか」と考えながら食べる毎日。食べ物の味も感じなくなった。24才で体操をやめ、27才で妊娠するまで、8年以上にわたって過食嘔吐に縛られる生活が続いた。

まずは指導者の意識改革を

現在は摂食障害を完治し、国体のアドバイザーも務めるH.Yさんは、まず指導者が変わるべきだと考えている。

「コーチと選手は親子よりも長い時間を過ごすことがあります。指導者の人間性や言葉、態度ひとつひとつが選手にとってどれだけの影響を与えるか?指導者はしっかりと考える必要があります。

選手ひとりひとりの体型、個性、性格等、選手の未来を見据えながら、向き合っていく指導が必要だと思います。

正しい知識を持った指導者が増えてきている中で、数字ばかりを重視する指導者もまだまだ多い。私自身も現役時代に、体調の変化や不安など、数字に表れない悩みも信頼して相談できる女性コーチの存在があるとよかったと思います」

もちろん女性のコーチも完璧ではないというが、まずは指導者の意識を変える必要がありそうだ。

「摂食障害になった選手の食事への思いは、なったことのある人にしか分かりません。『痩せたいなら食べなきゃいいじゃん』とか、『吐くくらいなら食べなきゃいいじゃん』ではない。細かな意識の変化を伝えるのは難しいので、コーチは栄養指導も含め、個々人の選手をよく見てほしい。そして、親に働きかけてほしい。

『食事、ちゃんと取れてますか?』という一言で、何かが変わるかもかもしれません。私もジュニアから大学生までの選手指導もしていますが、指導者がどういう考えで、子供と親御さんに発信していくかというのがすごく大きいなと感じています」

「見守る」だけでは足りない

西園氏は摂食障害の影響を少しでも減らすために、「とにかく早期発見と早期治療が大切」と主張する。

BLOGOS編集部

摂食障害の特徴のひとつに、「本人の病識がない」というものがある。自分が病気だと認めたがらず、「ダイエットをしているだけ」と言い張ったり、隠れて嘔吐したり。だからこそ摂食障害の発見は難しく、治療を始めた頃にはもう重症というケースも多い。

「治療には部活のコーチや家族、養護教諭、医師などの連携が必要ですが、家族が異変に気づいても、コーチと本人が休みたがらない場合もあります」

スポーツ界には「健康第一でいなくては」というイメージがある上、好成績へのプレッシャーがのしかかる。頑張っている選手ほど、病気の存在を否定してしまうのだという。

「最近では発達障害などについて、『個性のひとつとして見守る』という考え方も浸透していますが、摂食障害は見守っているうちにどんどん悪化することがあります。症状が軽いうちに、適切な治療を受ければ摂食障害は治るので、積極的な介入が必要なのです」。

日本摂食障害協会では昨年度から、治療のガイドラインを作って無料配布している。摂食障害が疑われる場合に何をどうすればよいのか、何ヶ月ごとに経過観察するのかなど、非常に細かい内容だ。逆に言えば、摂食障害はここまで細かく対応しないと危険な病ということだろう(参考資料:「摂食障害に関する学校と医療のより良い連携のための対応指針」)。

「対応指針」はウェブ上で誰でもダウンロードできる。西園氏は「広く教育機関で活用してほしい」と話す。

ごく普通に「食べる」ことができないつらさ

実は筆者も、学生時代から10年以上、拒食症を患っている。ごく普通に「食べる」ことができないつらさを、インタビューしたスポーツ選手たちの姿に重ね合わせた。もっと早くに周りが気付いてくれたら、自分を含め学生時代に摂食障害を経験した者の未来は変わっていたかもしれない。

そもそも、健康であることを犠牲にしてまでするスポーツとはなんだろうか。若い選手の記録や活躍だけをもてはやすメディアにも、責任の一端はある。最も弱い選手は、自らの身体をいじめることで救われようとする。スポーツ選手たちの摂食障害は、個々人の悲劇として片付けられるべきではない。

スポーツ選手の未来を変えてしまう、摂食障害。指導者側の意識改革に加え、実態調査やメディアでの周知など、課題はまだまだ山積している。

(注1)正しくは「神経性やせ症」という。摂食障害のひとつで、極端な食事制限を徹底する「制限型」、むちゃ食いをともなってもそれに対する排出行為で代償しながら低体重を維持している「過食排出型」がある。

(注2)摂食障害の症状のひとつで、食べたものを意図的に嘔吐すること。はじめは食事を取ってしまったことへの罪悪感から嘔吐する人が目立つが、そのうち「吐けば太らない」と思い、嘔吐が習慣化しまうこともある。嘔吐するために大量の食事を摂取するようになり、慢性化する症例が増えている。

(文:北条かや、写真撮影:島田健次)

本人が告白しないとわかりにくい一方で、重症の場合は死に至るリスクを持つ摂食障害。日本財団は、一般社団法人・日本摂食障害協会とともに摂食障害の当事者や家族の支援や啓発活動に取り組んでいる。

日本財団ソーシャルイノベーション本部の武藤正浩さん

2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと2年を切り、アスリートのトレーニングにも力が入るが、摂食障害に罹患する選手の増加も懸念される。日本摂食障害協会は日本財団のサポートのもと昨年からアスリートのトレーナーを対象にした勉強会を開催。

今後、女子アスリートの健康問題に関する連絡会の立ち上げの準備も行っていくという。日本財団の担当者でソーシャルイノベーション本部の武藤正浩さんは「重症化すると命を落としかねない病気にもかからず、まだまだ知られていない。様々な機関と連携し、普及していきたい」と話している。

[ PR企画 / 日本財団 ]

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