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『最新科学にもとづく「食と健康の正しい知識」』⇒ 一部「不正確(レベル2)」、一部「正確(レベル0)」~SFSSがNewton(2018年12月号)をファクトチェック!~

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今回SFSSがファクトチェックを実施する対象記事は以下の通りです:

◎最新科学にもとづく「食と健康の正しい知識」
 健康食品,サプリ,添加物からグルテンフリー,ビーガンまで

 Newton 2018年12月号(10/26発売)p32-p61

 執筆 松田壮一郎(編集部)・板倉 龍(編集部)・島田祥輔
 https://www.newtonpress.co.jp/dcms_media/image/newton1812_032-033.jpg

本記事において語られている「食と健康の正しい知識」を疑義言説としてピックアップし、ファクトチェックを実施したので以下をご一読いただきたい。なお、SFSSによるファクトチェック運営方針/判定レーティングはこちらをご参照のこと。

<疑義言説1>
「Q:「加熱調理で発がん性物質ができる」は本当か? A:加熱で生じるアクリルアミドに発がん性がある。できる範囲で低減を。」p50~p51

<ファクトチェック判定> レベル2(不正確)


<基本情報>

  • アクリルアミドとは
    アクリルアミドは、⾷品中のアスパラギン(アミノ酸の⼀種)と果糖・ブドウ糖などの還元糖が、揚げる、焼くなどの120℃以上の加熱調理されることにより⽣成されます。(メイラード反応)⾷品中のアクリルアミドの多くは、焼いたり揚げたりする調理の最終⼯程で⽔分が減少し、表⾯の温度が上がることで⽣成されます。

この食品の加熱調理や加熱加工によって生じるアクリルアミドが、2002年に欧州より発がん物質の疑いありと報告されたことで、日本のリスク管理責任者(行政機関や食品事業者)もリスク評価/リスク低減策に動き出し、いまに至っているということだ。

<エビデンスチェック1>
食品中のハザードに関するリスク評価に関して、科学的・中立的に実施している国の機関は内閣府食品安全委員会である。食品の加熱時に生じるアクリルアミドに関しても、食品安全委員会が「自ら評価」で実施してきたのだが、その最終評価書に基づくQ&Aが食品安全委員会のホームページに掲載されているので、まずはこちらを参照するのが適切であろう:

 ・「加熱時に生じるアクリルアミド」評価書に関する情報(Q&A)―食品安全委員会
  http://www.fsc.go.jp/osirase/acrylamide1.data/acrylamide_QA.pdf

この中で最も重要な質疑はQ2の健康影響評価であろう:「Q2 アクリルアミドは健康へどのような影響があるのですか?アクリルアミドを摂取しても大丈夫ですか?」

この質問に対する回答も、BMDLやMOEなど食品中ハザードのリスク評価用語があり一般消費者にはわかりにくいところだが、要はアクリルアミドの発がんリスク評価に関して、動物実験では発がん性の疑いが認められたということだ。

しかし、ヒトでの観察研究(疫学調査)において、これまで食品からのアクリルアミド摂取量とがん発症に関して一定の相関は認められていない(一部相関が疑われるとの論文もあるが、大半の論文では相関なしとの結論)ため、Newton記事にも記載されているとおり、国際がん研究機関(IARC)はそのエビデンスの強さとしてアクリルアミドをグループ2a(ヒトに対しておそらく発がん性がある(Probably Carcinogenic))に分類している:

 ・IARC発がん性リスク一覧(ウィキペディア)
  https://ja.wikipedia.org/wiki/ IARC発がん性リスク一覧

この「IARC発がん性リスク一覧」を見ていただいて、まず気づくことは科学的エビデンスの強さによってヒトへの発がん性リスクをグループ分けしていることであって、たとえばアフラトキシン、アスベストなどの猛毒の発がん物質だけでなく、われわれが普段摂取しているアルコール飲料や主食のコメに混入している無機ヒ素などもグループ1(ヒトに対する発癌性が認められる (Carcinogenic))に区別しているということだ。

ここで混同してはいけないのは、IARCが「Probably Carcinogenic」とエビデンス評価したのは、あくまで「アクリルアミド」という化学物質単体のことであって、加熱調理や加熱加工した食品中に生じた野菜類/植物原料由来のアクリルアミドではないということだ。

動物を用いた毒性試験でアクリルアミド単体を高濃度で投与し、180μg/kg/日で生涯発がん確率が10%上昇するとの推測をされたわけだが、本当に現在の日本人が食品中のアクリルアミドを低濃度で摂取(0.2μg/kg/日程度)している状況で、動物実験データから外挿した直線関係の発がんリスク予測が成り立ち、1万人に1人程度の発がん性リスク上昇がヒトでもあると結論付けてよいのだろうか?

しかも、ヒト疫学調査においても加熱調理食品からのアクリルアミド摂取量とがん発症に関して一定の相関は認められていないのだから、この動物実験におけるアクリルアミド単体の過酷な投与条件のデータが、単純にヒトでの食品中のアクリルアミドの発がん性リスク評価に外挿できるかどうか大いに疑問だ。 (*動物を用いた毒性試験データを外挿して、ヒトでの発がんリスクを評価する手法が誤りだと主張しているわけではない)

ちなみに、本Newton記事のp56-p57では「野菜・果物は死亡リスクを減らす」とのデータを紹介しており、これは野菜類の加熱調理したものや野菜類・植物原料を用いた加工食品もがん発症のリスク低減効果が期待できるのではないか。だとすると、微量に含まれるアクリルアミドの発がん性リスクの可能性(しかも動物実験データのみからの外挿による推測)のみを一面的にとりあげて、コーヒー・お茶・ポテトチップス・フライドポテトなどのイラストとともに「発がん性がある」と明言することが、本当に科学的に正しい知識を消費者市民に与えていると言えるのだろうか?

これら加工食品中のアクリルアミドの健康リスクをどうとらえるべきかについては、山崎の過去ブログでも考察しているので参照されたい:

・食のリスクは多面的に評価しないと見誤る?!
 ~スタバ:LA裁判所の理不尽な判決に当惑~

 BLOGOS-山崎 毅(食の安全と安心)- 2018年04月21日
 https://blogos.com/article/292129/

さらに本Newton記事のp60-p61では「食や健康の情報と上手に付き合うためには?」と題して、「科学的な根拠(エビデンス)の強さ」に注目し、これを海底火山にたとえると、食品成分の生体影響に関する科学的根拠は、海上に出た部分「人でのエビデンス」に乏しいとしている。だとすると、海上に見えているヒトでの観察研究でのネガティブな結果についてはあえて記述せず、海底に位置する動物実験データのみをもって「発がん性がある」と断じる結論はミスリーディングではないのか。

上述の食品安全委員会の健康影響評価の結論でも「公衆衛生上の観点から懸念がないとは言えない」という表現になっており、「発がん性がある」といった断定的な表現を控えているように見える。

<疑義言説1に関する事実検証の結論> レベル2(不正確)
 疑義言説1で引用された文献情報は事実に反しているとまでは言えないが、言説の重要な事実関係について科学的根拠に欠けており、不正確な表現がミスリーディングである。

本疑義言説において、コーヒー・お茶・ポテトチップス・フライドポテトなどのイラストとともに「(食品中に)加熱で生じるアクリルアミドに発がん性がある」とする表現は事実に反するとまではいえないが、ヒトでの疫学研究におけるネガティブな科学的根拠に言及していないことも含めて不正確であり、最低限「おそらく発がん性がある」などの表現にしない限り、消費者市民の不安を煽るミスリーディングな言説といわざるをえないと考える。

また「できる限りの低減を」という文言も、食品事業者に対してアクリルアミド低減化の努力をうながすのはよいとしても、消費者市民に対しての提言としては野菜類の死亡リスク低減効果を考えると不適切であろう。

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