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全ビジネスマンに捧ぐ!ルーベンス先輩に学ぶ「仕事の流儀」 - フォーサイト編集部

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 現代と同様にグローバル化と成果主義が進んだ17世紀ヨーロッパを巧みにサヴァイヴした画家ペーテル・パウル・ルーベンス。国立西洋美術館で開催されている「ルーベンス展―バロックの誕生」(2019年1月20日まで)でもわかるように、ルーベンスはフランドル絵画の巨匠と呼ばれる人物だ。しかし、実は、5カ国語を操るマルチリンガルの外交官としても輝かしい実績を残している。彼は技術と教養と人柄の合わせ技で、ヨーロッパの美術界に君臨した超ハイスペックの画家だったのだ。

『芸術新潮』2018年11月号 新潮社/1440円
『芸術新潮』ではこのほかにも、父親のスキャンダルから画家の地位向上へのアグレッシブな姿勢、高いパフォーマンスを支えたプライベートの充実っぷりまで、現在のビジネスマンも参考にできる(?!)ルーベンス的「教訓」が余すところなく紹介されています!

 1577年、ドイツ中西部の小都市ジーゲンに生まれたルーベンスだが、中産階級の父母はネーデルラントのアントウェルペン生まれ。幼少期を異国で過ごし、12歳で帰国子女となったのには、ネーデルラントの反スペイン独立運動や父の不倫スキャンダルなど複雑な事情が絡んでいた。ともあれ1589年、ルーベンスは両親の故郷の地に戻るとラテン語学校に入学し、ラテン語やギリシャ語を学び始めた。が、1年ほどで中退。それでも、語学はもちろん、生涯興味を持ち続ける古典文学や文化の土台を充分に育んだという。

 学校を中退したのち、3人の師について画家となるべく修業を始め、ルーベンスはなんと、わずか21歳でアントウェルペンの画家組合に親方画家として登録することができた。23歳になるとイタリアに留学し、マントヴァ公爵ヴィンチェンツォ・ゴンザーガに仕える。そしてこのころから、政治の表舞台にもたびたび顔を出すようになった。1609年、32歳のときにはブリュッセル(当時スペイン領南ネーデルラント)のアルブレヒト大公夫妻の宮廷画家に就任。

 人気画家への階段を着実に上がる一方、各国の王室を飛び回り、高い教養と温厚で社交的な性格を活かして、政治交渉を行う外交特使としても活躍していた。そんなルーベンスの最大の功績が、1629年、スペイン国王フィリペ4世の命でイギリス国王チャールズ1世と和平交渉にあたり、三十年戦争で敵対していた両国間の和議を成立させたこと。かくしてルーベンスの名声は、ヨーロッパ中に轟くことになったのである。

 バロック最大の巨匠が数多の“クライアント”を籠絡していったコミュニケーション力はどのようなものだったのか。彼の華麗にして、情熱的なビジネス術を『芸術新潮』11月号「ルーベンス特集」より、いくつか抜粋しよう。

セルフブランディングが一流のリーダーへの道

 「私のもとにはあらゆる方面から申し出が届いています。なかには私の工房の空きを待ちながら、数年間、他の親方画家のもとにいる若者たちもいます。(中略)これは誇張ではなく、妻や私の親戚をふくむ、百人を越える者をこれまで拒絶せねばならなかったのです」――ルーベンスが、弟子の受け入れを依頼した知人へ宛てた手紙である。

 一見丁寧な断りの文面に、「圧倒的人気の俺」や「他の親方画家へのマウンティング」、「コネ入社はさせない高いプロ意識」を巧みにまぶすテクニシャンぶりはさておき、イタリアからアントウェルペンへ戻った画家のもとには、その名声を聞きつけて弟子志願者が殺到した。

 当時、一人前の画家になるには、親方画家に指導料を払い、絵画理論と模写を学び、絵具の準備などの下働きを通じて基礎を身につけた後、別の工房でOJT、すなわち助手として制作に関わり経験を重ねるのが通例だった。ゆえに2番目の工房選びは、親方画家の専門や様式を考慮して選ぶ必要があり、神話画や宗教画という王道を押さえ、人脈もあるルーベンス工房が人気を集めるのは必然だった。

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 前掲の手紙から、ルーベンスは他の工房で基礎をすでに学んだ“即戦力”を弟子に選んでいたと推測できる。工房訪問者の記録によれば、弟子たちはチョーク素描や油彩スケッチに従って制作し、最後にルーベンスが仕上げを施し自作とする、分業システムが確立されていたようだ。

 時に彼の直筆は署名のみともいわれるその体制は、今なら偽造だ、ブラック企業だと叩かれそうだが、当時のギルドの規則(コンプラ)的にもなんら問題なし。それでも発注主(クライアント)はルーベンスの手の割合を気にし、画家自身が描く部分を契約に盛り込んだり、その多寡に応じて価格も上下した。画家本人も「自筆」の価値には自覚的で、交渉に活かしていた節もある。

 親方画家こと工房経営者としては、品質管理に目を光らせながら、生産性を上げるのがつとめ。ルーベンスは、弟子それぞれの実力や得意分野に応じて仕事を振る必要があっただろうし、的確に見極めてもいただろう。しかし、優れた芸術家が優れた指導者であるかは別問題でもあるわけで、実のところ門下で現在でも広く知られるのは、肖像画家としてブレイクしたアンソニー・ヴァン・ダイク(1599~1641)くらい。

 そんなヴァン・ダイクでさえ独立後は国外へと活躍の場を求め、師匠の代打仕事は断った形跡があるなど、独自の地位確立には苦闘したようだ。また、ルーベンスは助手の見えざる手に頼るだけでなく、名のある画家との共作もしばしば行なった。

 先輩ヤン・ブリューゲル(父)や、動物画の名手スネイデルスなどと得意分野を持ち寄るように組み、自らの表現の幅を広げたのである。ワークシェアリングと、コラボレーションによるダブルネーム商法の積極的導入。ここまで自らの名前(と自筆)を、慎重かつ柔軟に操りながら、存在感を強めた画家がかつてほかにいただろうか。

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