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北方領土、日本の「一本勝ち」であるべき - 樫山幸夫 (産經新聞元論説委員長)

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 マルクス、エンゲルスの「共産党宣言」を模倣して「北方領土問題の現状を形容すると、こうなるだろう。「妖怪が日本国内を徘徊している。2島返還論という妖怪が」―。

 11月14日にシンガポールで行われた安倍首相とロシアのプーチン大統領との会談、日本の各紙は「〝2島先行〟軸に」(朝日新聞、15日朝刊)、「確実な2島返還狙う」(読売、同)などなど大見出しで、「4島一括返還」から首相が方針を転換したと伝えた。変更はないと政府は説明しているが、首相発言などを聞く限り、額面通りに受け止めることはできない。

 新しい方針での交渉の行く末は予断を許さないが、少なくとも、過去60年にわたる交渉を通して、わが国が旧ソ連、ロシアにじりじりとつめ寄られ、気がついたら土俵際まで追い詰められてしまっていたということはいえるだろう。プーチン大統領はかつて、「引き分け」という表現を用いたことがある。2島返還がそれにあたるか判然としないが、領土問題は絶対に日本の「一本勝ち」でなければならない。

「方針に変化なし」というが

 日ロ両首脳の合意は、1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させるという内容。首相は会談後、「戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つという強い意志を完全に共有した」(朝日新聞)と説明した。

 「日ソ共同宣言を基礎」がなぜ、2島返還につながるのか、すぐに理解できない向きもあろう。

 共同宣言は歯舞、色丹2島の引き渡しだけに言及、国後、択捉については触れていないから、それを「基礎」とすることは、とりもなおさず2島返還を意味する。しかも、国後、択捉を含む4島の帰属協議が明文化された東京宣言(1993=平成5=年、当時の細川護煕首相とエリツィン・ロシア大統領)、同じ内容の「イルクーツク声明」(2001=平成13=年、当時の森喜朗首相とプーチン大統領)は無視されている。

 政府は、「領土問題を解決し平和条約を解決するという方針に変わりはない」(菅官房長官、11月15日午前の記者会見)と説明しているが、首相自身会談後、4島の帰属については何ら言及しなかった(朝日新聞)ことや、「自らの手で」と期限を区切ったことなどを考えれば、2島先行返還」に傾いていると判断せざるを得ない。

長い困難な交渉にもあきらめず

 1956年の日ソ共同宣言が領土問題の解決を見ずして終わって以来、いつの日か4島返還を勝ちとるというのは、日本政府、旧島民を含む国民の悲願だった。

 宣言での明文化こそ逃したものの、これにあわせて、「正常な外交関係を再開した後に領土問題を含む平和条約交渉を継続する」という松本俊一全権とグロムイソ連外務次官(いずれも当時)による書簡往復にはこぎつけた。歯舞、色丹は解決されたのだから、領土問題は国後、択捉以外にはあり得ず、日本はこれによって、交渉の足がかりを何とか維持することができた。

 その後、日米安保条約の改定1960(昭和35)年を契機に、ソ連は合意している2島引き渡しについて「外国軍隊の日本からの撤退」という条件をも持ち出し、交渉を困難な状況に陥れてしまった。その後は長く「解決済み」などと不当な主張を繰り返してきたが、日本側は粘り強かった。1973(昭和48)年には、田中角栄首相(当時)がブレジネフ書記長(同)との会談で、「未解決の諸問題には4島の問題が含まれる」という言質をとることに成功、その後長い曲折を経て、東京宣言などにつながっていく。まことに困難な道のりだった。

方針転換は「竹島」「尖閣」に悪影響

 しかし、そうした努力にもかかわらず、当初の主張であった「4島即時一括返還」から「即時」が消え、「一括」も失われた。そして今また、「4島」がなくなるのだろうか。

 2島返還で解決をはかるとなれば、国を挙げての過去の血のにじむ努力が無駄になるだけでなく、60年間の長い交渉は〝虚構〟だったということになりかねない。強硬姿勢を継続していれば、日本は結局あきらめる――という誤ったメッセージを各国に送る結果にもなる。尖閣諸島、竹島などの問題に大きな影響をもたらすことになろう。

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