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NTTの株価総額が世界一だった時に、Microsoftに転職した理由

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その新聞記事を読み、すぐに(日本法人の社長をすることになった)古川さんに電話をしました。私が「誘ってくれないなんて、水臭いじゃないの」と言うと、「お前はNTTで頑張ると言っていたじゃないか」と言う返事が返って来ます。

古川さんによると、私はなんと生意気にも「もう一度あなたの下で働いてあげても良い」と偉そうなことを言ったそうですが、そんな感じで、マイクロソフトへの転職が決まりました。

すぐに辞表を書いて室長に提出したところ。「親には相談したのか?教授に話をしたのか?」と問い詰められます。「誰にも相談せずに決めました。マイクロソフトの日本法人に行くことにします」と正直に話したところ、それからが大変でした。

大学の教授からは、いきなり「私に推薦状を書いてもらいながら、なんて不義理なことをするんだ!」と怒鳴られるし、隣の研究室の室長、大学の隣の研究室の教授、などが入れ替わり立ち代わり私のところにやって来て、説得工作にかかります。

研究室の室長からは、「こんな事は、会社始まって以来のことだ、最悪の場合、君は解雇される」とまで言われました。「辞表を提出した私を解雇するって何?」と言う感じでしたが、解雇は記録に残るため、私を解雇することにより罰を与えようとと言うアイデアもあったようです。

後から聞いたことによると、NTTを辞める場合には、まずは教授に相談し、「一度学校に戻る」と言う形でNTTの顔を潰さないように辞めるのが筋だったそうです。それを知らずに「いきなり外資系ベンチャーに転職」というのは、あまりにも礼儀知らずだったのです。

結局、1ヶ月ほど待たされて、最終的には研究所長との1対1の面接の後、解雇されずに辞めることが出来ました。所長との会話は覚えていませんが、彼が私との面接に資料として持って来たバインダーの背表紙に「新人類」と書いてあったことだけは、鮮明に覚えています。

彼らの常識から考えて、全く理解できないような行動をする若者を「新人類」と呼び、私は、その最先端にいたのだと思います。

ちなみに、これも後から聞いたのですが、1ヶ月も待たされた理由は、NTTがマイクロソフトに圧力をかける口を探していたからだそうです。NTTぐらいの大きな会社になると、ほとんどの会社が何らかの取引をしているので、そのチャンネルから引き抜きを思いとどまらせよう試みたようですが、当時のマイクロソフトは小さすぎて、それが出来なかったようです。

以上が、私が32年前にNTTからマイクロソフトに転職した経緯です。

ちなみに、その後、日本のマイクロソフトに3年勤めて、シアトル本社に移籍し、2000年の初めまで勤めました。興味がある人もいるだろうから書いておきますが、辞めた時の基本給は14万ドルでした。これにキャッシュのボーナスが10%と、ストックオプションが毎年のようにもらえていました。それも管理職ではなく、バリバリとコードを書く、純粋なソフトウェア・エンジニアとして、です。

ストックオプションによる報酬は、株価によっても大きく左右されるので、なんとも言えませんが、参考までに言うと、私が辞めると宣言した時に、会社が私を引き留めるために提示したストックオプションは $4 million 相当でした。$4 million の現物株ではなく、「$4 million の株を当時の価格で将来買う権利」です。10%値上がりして40万ドル、100%値上がりしたら $4 million のキャピタルゲインが得られる計算になります。

ストックオプションがあるため、会社が上場したり、(当時のマイクロソフトのように)業績が順調に伸び続けると、ストックオプションから得られる報酬の方が、給料よりも多くなるのが普通です。

日本では、ゴーン氏の報酬10億円が多すぎるかどうか、と言う話をしていますが、米国では、会社が上場した結果、働いていたエンジニアが持っていたストックオプションから得られるキャピタルゲインが10億円を超えてしまうことなどが、普通にあるのです。

こんな仕組みを使って、マイクロソフトは数千人のミリオネア(日本語で言うところの億り人)を生み出したのです。それは、Google、Facebook、Apple、Amazon のいずれにも当てはまる話で、業界全体では、少なくとも数万人(ひょっとすると数十万人)のミリオネアを生み出しているのです。サンフランシスコやシアトルの家の価格が高騰するのも当然です。

それぐらいソフトウェア・エンジニアは貴重で、優遇されるべき存在なのです。 それを理解せずに、せっかく採用した理系のエンジニアにコードを書かせず、早々に管理職にしてしまう日本企業が、まっとうな戦いが出来るわけがないのです。

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