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日産の独立には「ルノー株増資」しかない

■日産・三菱自動車がルノーに飲み込まれてもいいのか

11月22日、日産自動車は取締役会を開き、全会一致でゴーン氏の会長職及び代表権を解き、グレッグ・ケリー氏の代表権を解くことを決めた。今回、ルノーから派遣されたフランス人取締役の賛同を得て全会一致で決定されたことが重要だ。ルノー側も、ゴーン氏の不正行為に目をつぶることはできなかったと見られる。

ただし、取締役会の決定は、独立性を保ちながらルノーとのアライアンスを維持したい日産にとって、ようやくスタート台に立ったことを意味する。今後、ルノーやフランス政府との厳しい折衝が待っているからだ。

AFP/時事通信フォト

11月8日、北フランスのルノー工場を訪れたマクロン大統領(手前左)とカルロス・ゴーン同社CEO。(写真=AFP/時事通信フォト)

自動車産業は主要国にとって“虎の子”の産業だ。電気自動車(EV)の普及促進など大きな変化が進む中、フランス政府は株を保有するルノーと、ルノーの子会社の位置づけにある日産、三菱自動車の経営を統合する圧力をかけ続けることが予想される。

わが国としては、むざむざ日産・三菱自動車がルノーに飲み込まれることを静観することはできない。これから、厳しい折衝が行われることになるだろう。今のところ、その落としどころが見えてこない。

■3社の経営統合を目指すフランス政府

これまでフランス政府はルノーと日産自動車の経営を統合したいと考えてきた。2014年にはオランド政権(当時)のもと、“フロランジュ法”が定められた。これは、政府が2年以上保有する株に関して、その議決権を2倍にするというものだ。

その目的は基本的に雇用対策だ。フランス政府は株を保有する企業への影響力を強め、国内生産拠点などを維持させることで雇用を支えようとした。2015年にフランス政府は日産の経営への介入を強めようとした。この時、フランス政府の経済・産業・デジタル大臣を務めていたのが現マクロン大統領だ。

マクロン大統領は、ルノー・日産・三菱自動車の経営統合を目指している。2015年にできなかった日産との経営統合を実現し、後戻りができないようにしたい。産業政策のプロとして評価を集めてきたマクロン氏にとって、それは悲願達成といってよい。

■マクロン大統領にとって3社統合は「大きな果実」

当初、日産トップのゴーン氏は、経営統合に反対だった。その最大の理由は、フランス政府主導で経営統合が進められると、アライアンス体制の最高意思決定権者であるゴーン氏自らの影響力が低下することを恐れたのだろう。また、同氏は企業文化の異なる自動車企業同士の経営統合はうまくいかないとの考えも持っていたといわれている。

ただ、今年に入って、ゴーン氏のスタンスは少しずつ変化してきた。最近では従来の考えを変え、経営統合を重視し始めたとみられる。ゴーン氏は2022年までルノーのCEOを務める。それまでに経営統合を実現するよう求めるマクロン政権の意向が従来以上に強くなったことが影響したものと考えられる。

マクロン大統領にとって、3社の経営が統合されるメリットは、喉から手が出るほど欲しい果実だ。経営統合は、ルノーの技術力に加え、日産の技術力もフランスのものとなることを意味する。それによって、ルノーがEVなどの開発をより効率的に進め、トヨタ、独フォルクスワーゲンを上回る世界最大の自動車企業になる可能性は高まる。

英国のサンダーランドにある日産の工場をフランス国内に移転させることも行いやすくなるだろう。組み立て型産業の代表格である自動車の製造拠点が国内にできれば、マクロン氏は雇用面で大きな成果を示すことができる。

■3社アライアンスの販売台数の50%超は日産

日産は独立性を確保するためにも、ルノー・日産・三菱自動車の経営統合を避けたいと考えているはずだ。足元のアライアンス全体の販売台数の50%超は日産が占めている。そのため、日産内部でもゴーン氏の権力が強まることへの不満は相当に高まってきたようだ。

日産の43.4%の株式を保有するルノーが経営統合を実現した場合、日産も三菱自動車もわが国の企業ではなく、フランスの自動車メーカーになる。その2社が生み出してきた付加価値が、わが国からフランスに移転する可能性が高まる。わが国のGDP(国内総生産)や自動車産業の競争力を考えた時、そのマグニチュードはあまりに大きい。

20日、世耕弘成経産相は、3社のアライアンスの維持が重要であり、今後はガバナンスの在り方への議論が深まることを期待すると述べた。さらに22日、フランスのルメール経済・財務相と同氏は、アライアンスの関係が安定的に続くことが重要であることを確認し、発展には関係者の納得が欠かせないとの見解を出した。

これは、ルノーの筆頭株主であるフランス政府が経営統合への取り組みを進めることへの牽制と解釈できる。世耕経産相の発言から、わが国政府が想定する今後の展開を考えると、次のような流れが考えられる。

■ゴーン氏の解任が決議されたことは重要

重要なのは、日産のガバナンスだ。まず、日産主導で同社のガバナンス体制を強化する。その上で、当局も関与しつつ、企業統治が期待された通りの機能を発揮しているかを客観的にモニターする。

この点に関しては、金融庁からもコーポレートガバナンスコードに沿った形で企業統治が実際にワークしているか、厳密に確認していく必要があるとの見解が示されている。その上で、資本上のアライアンスを維持しつつ、日産の経営基盤を強化することが重視されるだろう。

この点で、22日の日産取締役会にて全会一致でゴーン氏の解任が決議されたことは重要だ。それは、フランス政府の意向を反映したルノーが、ゴーン氏の責任を認めたことの表れであるからだ。

■逮捕後もゴーン氏がルノーCEOにとどまる背景

ゴーン氏逮捕を受け、アライアンス体制の今後の展開は読みづらくなった。今すぐに、フランス政府が日産自動車の株式を買い増して、強引に経営統合を目指す展開は考えづらい。当面は、捜査の進展などを見守る状況が続くだろう。

気になるのは、足許、マクロン大統領の支持率が低迷していることだ。また、マクロン大統領はゴーン氏逮捕に関して、「情報を満ち合わせておらず、意見を述べるのは時期尚早」との立場だ。フランス国内では、ゴーン氏の逮捕を批判的にとらえる報道が多いとも聞く。日仏の担当閣僚からアライアンスの安定を重視するとの見解が出されはしたが、それがフランス政府の公式見解であり、今後もその立場が続くとは限らない。

逮捕後もゴーン氏はルノーのCEOにとどまる。その背景には、フランス政府にとってゴーン氏以外に3社の経営統合を進める資質を持つ適当な人物が見当たらないという事情があるだろう。その点で、フランス政府の基本的な姿勢に変化はなく、マクロン政権は今後も経営統合を目指すだろう。状況によっては、フランス政府の意向をくむ人物がルノーを経由して日産に送り込まれることもあるだろう。

■出資比率を25%に上げれば、ルノーの議決権は消滅する

現状、日産自動車がフランス政府の意向をくんだルノーの要請を断ることは困難だ。ルノーは日産に43.4%出資して議決権を持っている。一方、日産はルノーに15%出資するが議決権はない。だが日本の会社法では日産が出資比率を25%に上げればルノーの議決権は消滅する。日産がルノーの株を買い増し、ルノーの議決権を消滅させるためには、日産が成長戦略を利害関係者に示し、納得を得る必要がある。

何の予告もなしにルノーの株を買い増すことはできないだろう。それは、ルノーと日産の対立が深刻化するとの懸念を市場参加者などに与える恐れがある。また、日仏政府の利害対立を鮮明化させる恐れもある。

日産にとって、ルノーは経営危機を救った恩人であり、43.4%の株式を持つ筆頭株主だ。過半数を保有してはいないものの、事実上ルノーの意向が日産の経営を左右する。ルノーの筆頭株主であるフランス政府が経営統合を重視していると考えられるだけに、3社のアライアンス体制がどうなるか、不透明感は高まったと考える。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

法政大学大学院 教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=AFP/時事通信フォト)

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