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焦点:合意なき英EU離脱の回避へ、頼みは市場暴落か


[ロンドン 23日 ロイター] - メイ英首相の欧州連合(EU)離脱素案に反対する英議員に再考を促したいなら、最高の妙薬は金融市場が暴落することだ。ポンドや株価がどの程度下落すれば、英議会が素案を拒否して合意なき離脱(ハード・ブレグジット)に突き進むのを回避できるだろうか。

議会は12月半ばに離脱案の採決を行う見通し。離脱案への反対は与野党を問わず強く、否決されればハード・ブレグジットが現実味を増す。投資家はポンドの下落やボラティリティー(相場の変動率)の上昇から身を守るため、オプション取引などで備え始めている。

ただ今のところ、金融市場が暴落して離脱素案に反対する議員を転向させる兆しは見えない。

つまり投資家は依然、合意に基づく円滑な離脱の可能性が最も高いと考えているようだ。

スミス・アンド・ウィリアムソンの債券ディレクター、ロビン・マーシャル氏は「政治家を真剣にさせるには、資産価格がもっと大幅に下落する必要がある」とし、ポンドと株価が5─7%急落すれば政治家も腰を上げると予想した。

<TARPシナリオ>

12月の採決でメイ氏の離脱案が否決された場合、市場が暴落して議員らはすぐに転向し、小幅な修正を加えた離脱案が再投票で可決される──。ブラックロックのポートフォリオマネジャー、ルパート・ハリソン氏は、こうしたシナリオを「TARP」モデルと名付けた。

TARPとは2008年の世界金融危機時に米政府が打ち出した銀行救済策「不良資産救済プログラム」の略称。当時、米下院がTARPを否決すると米国株は10%近く暴落し、4日後に下院が方向転換した経緯がある。

こうした事例には事欠かない。例えばギリシャでは2015年、EUに課された緊縮策の撤回を公約したチプラス氏が首相に選出されたが、市場の暴落でギリシャ銀の経営が危うくなると公約を撤回した。

英国は1992年、投機筋のポンド売りを防衛し切れず欧州為替レート・メカニズム(ERM)を離脱し、その後大幅な利上げを余儀なくされた経験がある。いわゆる「ブラック・ウエンズデー(暗黒の水曜日)」だ。

ハード・ブレグジットになれば、英国経済は当時と同様に悲惨な状況に陥るかもしれない。UBSの試算では、この場合、英国の国内総生産(GDP)は10%減少する。もっとも、合意に基づく離脱でも6%減少するという。

<ショックが不十分>

ただ、EU離脱の是非を問う2016年6月の国民投票で離脱派が勝利し、ポンドが急落したにもかかわらず、議員は離脱への見解を変えていない。

ロンバード・オディエの首席投資ストラテジスト、サルマン・アハメド氏は「ポンドがもっと強い売り圧力にさらされなければ、混乱状態には陥らない」と指摘。ギリシャの場合は銀行セクターの悪化がチプラス首相に妥協を促したが、「英国はショックが足りないので、そうした事がまだ起こっていない」と言う。

アハメド氏は、合意なき離脱になればポンドはさらに10─12%下げて過去30年強の安値である1ポンド=1.13ドルに近付くと予想した。

議会が12月に離脱案を否決するとの見方が強まり、市場への織り込みが進んだこと自体が、TARPシナリオの可能性を遠ざけている面もある。

12月にいったん否決されても、最終的にはハードブレグジットよりも円滑な離脱、場合によっては国民投票の再実施に至る可能性の方が高いとの認識が広がっているようだ。そうなればポンドは急反発する可能性があるため、投資家はポンドを裸で売るのを怖がり、代わりにデリバティブを利用している。

本当に厳しい状況になれば、ポンド以外の資産にも影響は広がりそうだ。閣僚の間で「メイおろし」の機運が高まった今月半ばには、英国株とポンドの逆相関が崩れ、ポンドと株がそろって下落する珍しい事態となった。

不動産株や銀行株も急落し、経済全般に混乱が広がる兆しも垣間見えた。

BNYメロンのストラテジスト、サイモン・デリック氏は、離脱案が否決されそうな12月から、議会が再採決を試みそうな1月までの期間は、年末年始で流動性が薄くなると指摘。こうした時期に英国市場が混乱すると、世界的に余波が伝わりやすいと警告を発した。

(Tommy Wilkes記者 Dhara Ranasinghe記者)

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