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現代の魔女狩りは誰の手によるものか―アフリカで広がる福音主義

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・アフリカでは性的少数者への取り締まりが強化されていて、襲撃や殺人に発展するケースもある。
・その大きな原動力になっているのは、保守的な宗教的価値観の普及を進めるキリスト教福音主義の影響である。
・福音主義のグローバルな展開は、アフリカに限らず各地に分断を促す一因になっている。

 アフリカではLGBTなど性的少数者への規制が広がっており、国によっては氏名を公表され、嫌がらせや襲撃を受けたりするだけでなく、最高刑で死刑が求刑される国さえある。中世の魔女狩りやゲシュタポのユダヤ人狩りを思い起こさせる同性愛者狩りの大きな理由には、アメリカでトランプ政権を支えるキリスト教福音主義がアフリカでも普及していることがある。

タンザニアでの同性愛者狩り

 筆者の個人的感想でいうと、アフリカ東部のタンザニアは周辺の多くの国と比べて人々が穏やかで、総じて居心地のいい国の一つだ。最大の街ダル・エス・サラームはキリスト教会とモスクがすぐそばに並ぶといったコスモポリタン的雰囲気もある。

 ところが、そのダル・エス・サラームのポール・マコンダ市長は10月30日、同性愛が「タンザニアの道徳的価値観とキリスト教とイスラームという2つの宗教を踏みにじるもの」と断じ、ゲイを特定して逮捕するための特別チームの発足を発表した

 もともとタンザニアでは、1998年の「性的攻撃に関する特別法」で男性の同性愛を禁じていて、特に幼児が対象の場合は最高で終身刑もあり得る。また、2017年10月には「同性愛を奨励した罪」で2人の南アフリカ人を含む12人が逮捕されるなど、決して同性愛に肯定的ではない。



 しかし、魔女狩りとも呼ばれるダル・エス・サラーム市の決定が報じられるや、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど国際人権団体や欧米諸国の政府から批判が噴出したことを受け、タンザニア政府は「政府の方針とは異なる」と距離を置いた。

 これに対して、マコンダ市長は「わずか5日間で市民から5700以上の通報を受け、100人以上を特定した」と発表し、譲る構えをみせていない。そのため、身の危険を覚える同性愛者や人権活動家ら数百人が、アムステルダムで隠れ暮らしたアンネ・フランクのように、知人などに匿われているといわれる。

アフリカで広がる法規制

 これはタンザニアに限った話ではない。

 国際レズビアン・ゲイ協会によると、2017年段階でアフリカ大陸全体の54カ国中32カ国で同性愛が違法になっている。このうち、最高刑が死刑の国は4カ国にのぼる。


 死刑まで導入されているのはスーダンなどムスリム人口の割合が高い国だが、刑の重さはさておき、取り締まりはキリスト教徒が多い国でも珍しくない。ピュー・リサーチ・センターによると、例えばタンザニア人口のうちムスリムは約35パーセントにとどまり、約61パーセントはキリスト教徒で、ダル・エス・サラーム市長もキリスト教徒である。

 ただし、一口にキリスト教といっても同性愛の扱いは教派ごとに大きく異なり、ダル・エス・サラーム市長は信者数が最も多いローマ・カトリックではなく、福音主義の信者である。



 同様に、例えばタンザニアの隣国ウガンダでは2011年にタブロイド紙が主な同性愛者のリストを公表し、同性愛者の運動家デイヴィッド・カト氏が殺害される事件が発生したにもかかわらず、政府がこうしたヘイトを積極的に取り締まらず、2013年暮れには議会が最高で終身刑もあり得る反同性愛法を成立させ、再び同様のリストが公表されたが、この国のヨウェリ・ムセベニ大統領も福音主義者だ。

 福音主義の普及はアフリカにおける性的少数者取り締まりの一因になっているのであり、ダル・エス・サラームの同性愛者狩りはその一つの表れに過ぎない。

福音主義とは

 それでは、福音主義とは何か。

 福音主義は大きな区分けでいうと、キリスト教のプロテスタントに属する。しかし、プロテスタント各派のなかでも教派ごとに離婚、中絶、婚外子、同性愛などに対する態度が分かれ、このうちアダムとイブにさかのぼる「伝統的な家族」イメージや「生命重視(プロ・ライフ)」を強調するペンテコステ派や聖公会などの総称が福音主義で、「福音主義」という一つの教派があるわけではない。

 帝京大学の藤本龍児准教授の言葉を借りれば、「保守的な信仰理解を共有する教派横断的集団」なのである。



 これが特に目立つのはアメリカで、福音主義の聖職者によるテレビ説法も珍しくなく、救いを求める失業者や低所得層を吸収して何万人も信者を抱える「メガ・チャーチ」と呼ばれる巨大教会もある。

 トランプ大統領がその組織的な支持を受けているように、保守的な宗教的価値観で社会を建て直そうとする福音主義は、世俗主義や個人主義へのリバウンドとして、その発信力、動員力、資金力を背景に、アメリカ政治で無視できない勢力となっている

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