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日本にも押し寄せつつあるポリコレの波<ハイスペック女子のため息> - 山口真由

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SLphotography/iStock

 防弾少年団のメンバーの一人が、原爆投下を模したキノコ雲が描かれたTシャツを着て、物議をかもした。過去には、ナチスのマークを模した帽子を着用していたと、ユダヤ人団体から抗議もされた。続いて、日米野球で広島を訪れていたヘクター・ベラスケス選手は、原爆ドームに照準を合わせて、ご丁寧に“Atomic bomb!”とメッセージを添えたインスタグラムで、こちらも炎上した。「(出身地の)メキシコにたくさんいる知り合い、友達に広島で起きたことを伝えようと思ったが、伝え方を間違えた」ってさ。ほんとかね?

 とにかく、原爆のキノコ雲とか、ナチスのハーケンクロイツとか、全く意味が分からない人からすれば、どうしてこれが問題なるのか分からないかもしれないが、歴史的に特定の意義を持つ表現というのがある。特にそれが被爆者の方々とか、ホロコーストにあった民族とか、虐げられた人々に関連している場合には、細心の注意を払ってそれらの人々の心の傷を思いやり、間違ってもさらに傷つけるような表現を用いてはならない。

 これは昔からある種の「常識」である。

1. ポリティカル・コレクトネスってなに?

 ところがこの常識が「ポリティカル・コレクトネス」という概念とくっついて、より強固な形でアメリカで再構築され、それがうねりとなって日本に押し寄せようとしている。こういったら黒船来航みたいでちょっと大げさなのかな? 今日は、久しぶりにまじめにポリティカル・コレクトネスについて考えてみたいと思う。

「ポリティカル・コレクトネス」をそのまま訳すと「政治的正確であること」――要するに「どんな立場の人も(特に長らく弱い立場に置かれてきた人を)決して傷つけないという思想を、表現の面に及ぼしたもの」がポリティカル・コレクトネスという。

 具体的に見てみると、例えば、私が小学校のころにはあった「肌色」のクレヨン。今の小学生は、これを「うすだいだい色」とか、もうちょっとこじゃれて「ペールオレンジ」なんて習うらしい。だって、肌の色は人それぞれでしょ。この色が「標準的な肌の色」ってされることで、「えっ、私の褐色の肌は普通じゃないの?」って思う人がいたら困るじゃない?

 あと、「スチュワーデス物語」は今や「キャビン・アテンダント物語」(いや、さすがに「スチュワーデス物語」とか、私も同時代じゃないですよ、念のため。)。だって、スチュワーデスの語尾は女性名詞のそれで、男性だったらスチュワードにしなきゃいけないはず。男か女か分からないものをまとめて女性形であらわすと、スチュワーデスさんは女性なのね、逆にパイロットは男性なのかしらねっていう、ステレオタイプを世の中に振りまく。他に、看護婦さんが看護師さんになったのも同じ理由ってこと。

2. ここまでいっている欧米のポリティカル・コレクトネス

 さて、このポリティカル・コレクトネスというのが、アメリカでは重要なキーワードになっている。例えば、今年9月、全米オープンでの大坂なおみ選手とセリーナ・ウィリアムズ選手との一戦。コーチから試合中に指示を受けたと審判に警告されたセリーナは、ラケットをほぼ叩き潰してポイントを奪われ、「私のポイントを奪った!! 泥棒!!」と抗議してゲーム・カウントを奪われた。

 さらに、このセリーナ劇場の顛末を戯画化したオーストラリアのヘラルド・サン紙をめぐる騒動は、以前、この連載で書いた(「シャラポワの悪口は言えるけど、セリーナは文句も風刺もしちゃダメなのか問題」)とおりだ。戯画でのセリーナの描き方を批判されたヘラルド・サン紙は、問題の部分をさらにでっかくして一面に載せ “ Welcome to PC World ” と見出しで皮肉った。PC=ポリティカル・コレクトネス。つまりこの問題の争点もポリ・コレだったのだ。

 このポリ・コレをめぐる賛否は中間選挙の隠れた争点にもなった。11月5日、応援演説でクリーヴランドを訪れたトランプ大統領は、壇上に上がる娘イヴァンカを聴衆に紹介しようとした。「彼女はとてもとても……」美人と続けようとしたトランプはその言葉を飲み込み、代わりにこう言う。「女性について『美人』という言葉を使うことはできない」――手入れの行き届いたブロンド、整った目鼻立ち、こういう女性の容姿を「美人」と評価するのは、「女はこうあるべき」という、特定の枠組みに多様であるべき個人を押し込めること。これもポリ・コレ違反となる。

 目の前のかわいい娘に、美しい恋人に「君は綺麗だよ」と言ってはいけない。こんなせちがらい世の中を許していいんですかというのがトランプの主張の骨子である。「あんたの時代はよかった 男がピカピカの気障でいられた」と歌った沢田研二を思い出してしまいそう(いや、だから、これも私の同時代じゃないって!!)。ポリ・コレによる過剰な建前論の横行で窮屈になったアメリカの鬱憤に、「本音トーク」で切り込み、多くの共感を得たのがトランプ大統領だった。

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