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排ガス規制を乗り越えSR400が復活 バイク離れの時代にヤマハが考える「バイクの生きる道」とは

苦境が叫ばれて久しい日本のオートバイ市場。2017年の国内新車販売台数は35万7千台と、ピークだった1982年の328万8千台からおよそ9割も減少している。だが、日本のオートバイメーカーの技術力・ブランド力は高く、現在も世界シェアの上位を占めている。

各メーカーが生き残りのために試行錯誤を進めるなか、ヤマハ発動機は2017年に一旦生産を終了したロングセラーモデル「SR400」の2018年モデルを発表。11月より販売を開始する。

復活したヤマハSR400。こだわりの詰まったルックスは健在だ 写真提供:ヤマハ発動機

SR400は1978年に最初のモデルが販売され、年々厳しくなる排ガス規制や騒音規制などによって近年2度の大幅なリニューアルを経験したバイクだ。最大の特徴は単気筒としては大排気量の400ccエンジン。また、「ザ・オートバイ」とでも呼びたくなるようなレトロなルックスには根強いファンも多い。

世代を超えて愛されるSR400の復活にヤマハが込めた意味、そして難しい局面を迎えた国内オートバイ業界のこれからについて、日本国内のマーケティングを担当するヤマハ発動機販売株式会社の早田和正氏に話を聞いた。

「SRの歴史=ヤマハの歴史」日本人に愛され続けるバイクがついに復活

—— 昨年の販売終了から1年弱、SR400が復活しました。待ちわびていたファンも多いと思いますが

SR400は元々ロングセラーモデルで、ライダーの中には「SRの歴史=ヤマハの歴史」というイメージを持っている方も多いと思います。私たちもそれは同じで、やはりSRはヤマハの中でも特別な存在です。

SRは過去には500ccのモデルも含めて様々な国に投入していました。しかし、海外ではそれほど大きなヒットをしたわけではなかった。でも、日本では安定して根強い人気がある。そういう意味では、SRというのは不思議なオートバイですね。

—— 誰もが想像する「オートバイ」のイメージに近いのかもしれません

SRは子供が描くオートバイの絵のような、普遍的なデザインですよね。ティアドロップ型のタンクがついていて、タイヤがあって、という。

1978年に発売された初代SR400。普遍的なデザインはこの時点で完成していた 写真提供:ヤマハ発動機

その中に、ヤマハの先人達が機能美だったり、デザインだったりという、こだわりを詰め込んだ。シリンダーひとつとってもすごく"らしい"デザインで、エンジン単体だけでも絵になるし、タンクのカーブも計算し尽くされている。フェンダーもあえてスチールメッキを装備している。本当に、どの角度からみても絵になるモデルだと思います。

もしかすると、この細かなこだわりは「わびさび」とでも呼べるかもしれません。だからこそ、日本人の心に響くんでしょうね。

「妥協はしない」ヤマハのものづくりを支える開発陣のこだわり

—— SRは排ガス規制に対応するため、近年2度の大幅なリニューアルをおこなっているモデルです

排ガス規制は発売以来、幾度となくありましたが、その時でもSRというモデルを廃止するという話にはなりませんでした。私たちにも「SR=ヤマハ」という意識があったので、継続は当然だと思っていた。その上で、どう時代にマッチさせていくかという議論をしていました。

振り返ってみれば、FI化(FI:フューエルインジェクション。燃料噴射装置。排ガス規制に対応するため、SRでは2009年に導入された)で価格を上げざるを得なかったときなど、難しい時期はありました。でも、SRはそういう困難を乗り越えてきた。

今回は平成28年排出ガス規制への対応がメインでしたが、SRのような空冷の単気筒エンジンで規制に対応するというのは、結構大変なんです。でもヤマハのノウハウと、現在のテクノロジーでやってできないことはない。もうひとつ見落とせないのが、ライダーの乗り味や単気筒エンジンならではのパルス感みたいなもの。これらを両立させるために、全力で開発に取り組みました。

ヤマハ発動機販売でマーケティングを担当する早田和正氏

—— 「SRならでは」と呼ばれている部分へのこだわりですね

開発陣の「妥協はしない」という思いは強いですからね。ヤマハのものづくりって、モノがダメだと絶対に出さない。排ガス規制に対応しながら、スペックで前モデルを超えるというのはさすがに難しいんですが、いいものを作るために開発ライダー含めてテスティングを徹底的にやっています。彼らがGOを出さないとプロジェクトも進まないし、商品として世に出ない。そこはヤマハの1番のこだわりだと思います。

今回のSRも見た目はあえて変えていませんが、ノウハウは相当詰まっている、そういうバイクに仕上がったと思います。

—— 近年、規制対応などによりオートバイの値段は上昇傾向にありましたが、今回のリニューアルでは2万円の上昇にとどめています

SRって、これに乗りたいから免許を取ると言ってもらえるモデルでもある。生産終了にはなってしまいましたが、2000年代前半に人気のあったクルーザータイプのドラッグスターもそうでしたね。そういう意味では、少年少女達にとってバイクに対する憧れの受け皿になりうる。だから価格面もできる限り抑えました。

排ガス規制に対応することはできるんですが、コストがどうしてもかかってしまうので、そこのバランスは常に考えています。

ヤマハは便利な乗り物ではなく、楽しい乗り物を作る会社

—— SRといえば、エンジン始動はいまだに足でキックペダルを踏み込む「キックスターター」のみです。ボタンひとつで始動できるセルスターターを望む声もあったのでは

セルスターターは、付けないと思います(笑)。簡単にエンジンをかけることができるので便利ですし、つけたことで選んでくれる人もいるとは思います。でも、SRというバイクが好きで選ぶ人の中には、ガッカリする人も必ずいるはずです。

「儀式」とも呼ばれるキック式のエンジン始動。ここから右足を勢いよく踏み込んでエンジンをかける 写真提供:ヤマハ発動機

SRは「キックが儀式」だと言われるように、それがなくなってしまうとSRではなくなってしまうと僕らも思っています。ヤマハは便利な乗り物だけではなく、楽しい乗り物も作る会社なので、そこはブレずにいたいですね。

—— ライダーがヤマハのバイクに求めていることはなんだと思いますか

やはりヤマハに求められているのはデザイン。社内ではヤマハらしさと言っているんですが、やはりどこか他社とは違う部分がある。音楽のイメージもあるのか、繊細でオシャレというイメージを持たれているんですよね。

ブランド面でも、「Two Yamahas, One Passion」をテーマに共同で取り組みを続けていて、例えばヤマハ発動機が楽器をデザインして、楽器のヤマハがバイクをデザインするというような取り組みも行いました。

SR400 40th Anniversary Edition 隣にあるのは、YAMAHAのアコースティックギター「LJX26C ARE」だ 写真提供:ヤマハ発動機

実際の商品でも、SR400の40周年記念限定モデルは、ギターにも施されているサンバーストカラーですし、楽器のヤマハが販売している「REVSTAR」という、カフェレーサースタイルのバイクのデザインから着想したエレキギターがあります。

「バイク離れ」の影響はほぼ原付? 251cc以上の保有台数は年々増加

—— 業界全体の展望について教えてください。全盛期に比べると、オートバイの販売台数は約9割減少しています。バイク離れという声もありますが

販売台数が激減しているのは、50ccの原動機付自転車の影響が大きいです。重要なカテゴリではありますが、そこは時代の流れとともに電動アシスト自転車などに代わってきている。

一方251cc以上のオートバイについては、新車の販売台数は確かに減少傾向ですが、保有台数は年々増加しています。


また近年、自分の欲しい、個性的なバイクを購入できる中古市場は活発ですね。今の若い人は中古車でも気にしなくなったのも大きい。我々としては、「中古は安くていいんだけど、これが欲しい」と思ってもらえるような魅力的なモデルをいかに作るかが、これからの腕の見せ所になってくると思います。

移動手段からコミュニケーションツールに変わっていくバイク

—— 世代によって、バイクの楽しみ方が変わってきたり…

それは変わりましたね。バイクに元気があった80年代は「レプリカ世代(若い頃にレーサーレプリカと呼ばれる、レース仕様に近いモデルが流行した世代)」というんですが、その頃は峠を攻めたり、走ることそのものが目的だった。

でも今の若い人には色んなライフスタイルや価値観がありますよね。その中でバイクを選んでもらうためには、「バイクのある生活ってこんなに豊かで楽しいんだ」ということをアピールしていく必要があると思っています。

バイクに乗るにしても、一人ではなく複数人でインカムを使ってワイワイ話しながら走ったり、きれいな景色を見たりとか、バイクは若い人にとって、単なる移動手段からコミュニケーションツールになってきているのかなと。ツーリングに便利な用品やライディングウェアなどがよく売れていて、時代の変化を感じますね。

荷物を載せてゆっくり走るツーリングも人気だという。(写真はイメージ)

—— サービスエリアに立ち寄ると、グループで走っている年配のライダーも多いですよね

リターンライダーはやっぱり多いですね。子育てもあって、なかなかバイクに乗れなかったんだけど、子供が大きくなってある程度余裕が出てきて、また乗ろうかな、という方。

中には奥さんと2人で行くという方もいますが、やっぱりバイク乗りは孤独が好きなのか、一人バイクでフラッと走りに行く人が多い。早朝バイクでひと走りして、そのあと家族と過ごすとか。だから、ライダーって意外と健康的な生活をしている人が多いんですよ(笑)。

エンジンのエキサイトメントこそが「バイクの生きる道」

—— 原付で人気のVinoをベースにEV化したE-Vinoや、NIKENのような三輪モデルなど、ヤマハにも新たな技術が出てきていますが、これからオートバイ業界が存在感を示すためにはどのようなことが必要だと思いますか

業界全体で若い人にどんどん乗ってもらうための取り組みをやっていく必要はあると思います。うちのYZF-R25やカワサキさんのNINJAなどの250ccスポーツバイクが出た時に、若いライダーが増えたんですが、それを一過性のものにしないよう業界全体で取り組んでいく必要があります。

大型バイクでのフロント二輪が話題を集めたNIKEN。乗り味はスポーティかつ、安定感の高い走りが特徴だという 写真提供:ヤマハ発動機

ヤマハでは先日レンタルバイクの事業を始めたのですが、これを2020年までに国内70店舗まで増やす予定です。業界主導でレンタルバイクを始めたのは初なのですが、将来的には駅チカや空港近くにも展開して、車じゃなくてバイクがあればという時に使ってもらいたい。

EV化が進むのは避けられないと思いますが、一方でガソリンで走るエンジンのエキサイトメントも求められています。モーターでもスピードやトルクは出せますが、エンジンならではの振動や音、パルス感、そういうものは電気じゃ代替できないんじゃないかなと。SRなんかは、まさにそれを感じやすいバイクですよね。

また、車と違うところとして、肌寒かったり、雨が降ると濡れたり、あるいは夏は暑かったりということがあります。一見するとデメリットのようにも感じますが、それもバイクの良さなんです。遮るものがない状態で風景の中を走れたり、ニオイを感じたりもできる。それこそがバイクの生きる道だと思っています。

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