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EUの著作権法改正案「第13条」はミュージシャンの味方か? YouTubeと音楽業界の見解

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今年の7月4日、ポール・マッカートニーはYouTubeに果たし状を叩きつけた。

「今日、ユーザーがコンテンツをアップロードできる一部プラットフォームは、自分たちの利益追求のために音楽作品を搾取する一方、作品に対する適切な対価をアーティストや音楽制作者へ補償することを拒否している」
マッカートニーは公開書簡を発表し、EUの著作権指令第13条の支持を表明した。

その2カ月後、最新ソロ・アルバム『エジプト・ステーション』のプロモーションに明け暮れる中(アルバムはソロとしては36年ぶりに全米チャートでNo.1に輝いた)、マッカートニーは、ニューヨークのコンサートに限り、ストリーミング生中継すると発表した。その結果、閲覧件数は400万以上。YouTubeとの提携による限定配信だった。

音楽業界と世界最大のストリーミングサービス企業との、矛盾に満ちた関係をあらわす一例だ。

かたやYouTubeは日々、全世界でとんでもない数のオーディエンスを音楽へと誘っている。YouTubeのログインユーザー数は月間18億人。レコード業界が発表した統計によれば、そのうちの85パーセントはYouTubeで音楽コンテンツを視聴していると言う。Spotifyが全世界に抱える音楽人口の、ほぼ8倍だ。

その一方で著作権の価値、すなわちミュージシャンがオンラインでの人気からきちんと稼げる権利、を守ろうと奔走する人々にとってYouTubeは依然として鼻つまみ者だ。たとえばアメリカレコード協会(RIAA)は、YouTubeからアーティストやレコード会社へ支払われる額は、ストリーミング1回あたりの平均額としてSpotifyが支払う金額の1/7だと主張している。RIAAらは、こうした不均衡を「バリューギャップ」と呼んでいる。

YouTubeも最近になって、こうした批判に積極的に対応するようになった。今月初め、Googleは調査報告書を公開し、YouTubeは9月末までの12カ月、広告費として音楽著作権所有者に18億ドルを支払ったと主張した。先ほどのSpotifyとの比較でいうと、スウェーデンに拠点を置く同社がアーティストおよび代理人に現在支払っている額のおよそ半分に当たる。

この18億ドルという数字は、YouTube独自のデータに基づけば、前年比およそ2倍(80パーセント増)となる。

なんとも印象的な、将来に希望が持てる数字ではないか。ただ、大手音楽レーベルではこれをフェイク・ニュースだと見ている。

三大レーベル(ユニバーサル、ソニー、ワーナー)の代弁者である国際レコード・ビデオ制作者連盟(IFPI)は、Googleのデータが「自分たちの統計と一致しない」と主張している。IFPIのデータによると、2017年に全動画ストリーミングサービス(大部分がYouTube)から得られたアーティストおよびレーベルの収入は、総額8億5600万ドルで、「Googleが主張する数字の半分以下でしかなく、アメリカ人は1人あたり年間で1ドルも払っていないことになる」。

分かりやすくいうと、YouTubeは毎月10億人の音楽ファンにリーチするが、その結果アーティストやレーベルに支払う額は1年で10億ドル強。一方でレコード会社を中心とする音楽業界は、YouTubeが抱える膨大なオーディエンスを大事に思ってはいるが、YouTubeが支払いをピンはねしていると考えている。

さてどちらの言い分を信じるか? YouTubeが真実を語っているのか否かは、この先数カ月で明らかになるだろう。

ポール・マッカートニーの話に戻ろう。彼の公開書簡は、YouTubeを「音楽業界の生態系を脅かす存在」としてあからさまに糾弾している。夏に欧州議会が、いわゆる「ヨーロッパ著作権指令」と呼ばれる新たな重要法案の表決を行った際には、マッカートニー氏自身自ら議員たちに呼びかけた。この著作権指令法には、物議を呼ぶ条項が含まれている。それが第13条だ。

第13条により、今後YouTubeにアップロードされたコンテンツが著作権を侵害した場合、YouTubeが法的責任を問われることになる。現行の法律では、ヨーロッパでもアメリカでもYouTubeはいわゆる「免責条項」によって保護されている。すなわち、仮にユーザーの1人が、たとえばカーディ・Bのアルバムを不法にアップロードしても、YouTube自体が罪に問われることはない。

だが9月12日、YouTubeは痛恨の一打を浴びせられた。Googleの必死のロビー活動にも関わらず、欧州議会は第13条および著作権指令を可決したのだ。法令は年内にもEU法に完全に組み込まれる見通しだ。支払い金額に関してYouTubeとレーベル側の意見が食い違うように、第13条に対する見解も双方で大きく異なっている。

音楽業界のロビイストは第13条に大賛成だ。レーベル側はついに、YouTubeと音楽ビジネスに対する公正な金額交渉ができるのだから。だが目下Googleは、第13条の可決がインターネットの崩壊につながると吹聴して回るのに大忙しだ。またレコード会社に対しても、現代の音楽産業が崩れてしまうとメッセージを発信している。

「我々も第13条の目的は支持していますが、欧州議会の今回の改定法案は意図せぬ結果をまねき、何十万人という人々の生活に甚大な影響を及ぼすでしょう」。YouTubeのスーザン・ウォシッキーCEOは今月初頭、新聞への論説記事の中でこのように述べた。

彼女の主張によれば、ミュージック・ビデオの著作権所有者が複数におよぶ場合(たとえば3~4人の作曲家による共作など)、YouTubeは第13条によって負わされる法的責任を免れるべく、そのビデオをブラックリスト化せざるを得ない場合があると言う。ウォシッキー氏は、YouTubeで57億回再生され、史上最大のヒットを飛ばしたルイス・フォンシとダディー・ヤンキーの「デスパシート」を例に挙げた。

「録音権や出版権など、複数の著作権が(「デスパシート」には)介在しています」とウォシッキー氏。「YouTubeは、複数の著作権所有者と動画の使用権およびロイヤリティの権利を結ぶことになりますが、それら所有者の存在が明らかでない場合もあります。不確かな状態では、我々としても第13条が定める賠償責任を避けるために、このような動画をブロックせざるを得ないでしょう」

ウォシッキー氏の主張は、音楽業界の著名人も支持している。デフ・ジャムや300 Entertainment、ワーナー・ミュージック・グループなど、数々のレーベルを運営するライアー・コーエン氏だ。レコード業界歴30年を誇る彼は、2016年にYouTubeの音楽ビジネス・グローバル担当に任命された。

コーエン氏は、第13条によってリミックスやカバー曲、中でも「ファンによるトリビュートソング」がYouTube上から駆逐されてしまう、とレコード会社に警告した。この手のタイプのコンテンツは、彼曰く「音楽業界の強力なプロモーションツール」であるが、法律的にみれば、本来の著作権を侵害している。

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