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「偏差値が高い子だから、自由のなかでも自律できる」は「偏差値差別」ではないか

教育ジャーナリストの大先輩である小林哲夫さんの記事の指摘が興味深かった。優秀な学校ほど制服や校則がなく、自由から自律を学び、自ら考えるようになるという話。

●「校則なし」「制服なし」の高校と東京大合格率の意外な関係とは?

これに関連して、前々から感じていることを、思考実験的に書いてみる。

「優秀な学校ほど校則がゆるい」という話をすると、すぐに「それは学力(≒偏差値)の高い子だからできること」という反論がある。必ず。しかしそれこそ「偏差値差別」ではないか。

かつて小林さんに直接聞いたことがある。私にとって「目から鱗」の話だった。拙著『地方公立名門校』から引用する。

「学生運動の影響を受けて、当時全国で高校紛争が起こりました。名門私学や各都道府県の一中・二中に相当する、優秀な生徒が集まる学校には、政治意識が高くきちんと理論武装して学校と渡り合うことのできる生徒が一定数いました。その結果、彼らは自由を獲得しました。でもそれより偏差値的に『下の学校』になると、簡単に鎮圧されあるいは懐柔され、ますます学校に管理される傾向が見られました。私はすごく『下の学校』に通っていたのですが、私服で学校に通う同世代の高校生たちを見て、コンプレックスを感じました。“知性が足りなくて勝ち取れなかった自由”を見せつけられているような気がしたからです。思えばあのころから、偏差値が低いと与えられる自由も制限されてしまう、いわばそんな社会通念が広まったのではないでしょうか」(小林さん)

自分たちの権利を主張できる程度に学力が高い子たちは自由を勝ち取ることに成功した。結果的に「偏差値の高い学校は自由」という状況になったのであって、おそらく「偏差値が高い子だから、自由のなかでも自律できる」のではなく、その状況に見慣れてしまった私たちが勝手に偏差値の高さと自律性を結びつけるようになったのではないかというのが、私のいま抱いている仮説である。

ちなみに、東大合格者数ランキングトップ4位までの男子校なかで、1位の開成だけ制服があるのは、開成では高校紛争が激化しなかったからだ。全国の高校で紛争が起きていたちょうど1969年にたまたま学校の目の前に西日暮里駅ができた。交通の便も良くなり、学校も荒れていない。そこで開成は優秀な生徒を集めることに成功し、トップ進学校の座に躍り出たという経緯がある。

いままで制服や校則で縛られていた子供たちを突然自由に解き放ったら、その直後にはいったん混乱が生じるだろう。自由の扱い方に習熟していないのだから仕方がない。しかしきちんとしたプロセスさえ踏めば、混乱が生じるのは最初だけで、時が経てば問題のない範囲に収まるはずだというのが、私が話した現場の教員たちの大方の意見である。

「偏差値が高い子だからこそ自律できる」という言説は、「偏差値の低い子は自律ができない」と言い換えられる。「ペーパーテストの点数なんて人間の能力のごく一部を表しているにすぎない」とよく言われる一方で、偏差値による人間性の否定がまかりとおっているのである。

偏差値によって学校の価値だけでなくそこに通う子供たちの素行までを決めつける。その“教育”効果は絶大だ。「お前は泥棒だ」と言って育てれば子供は立派に泥棒に育ってくれるというように、大人の“期待”通りに子供は育つ。「偏差値の低い学校に通っているお前たちは規則で縛ってやらないととんでもない髪にしてくるだろう」と言って育てれば、子供たちは“期待”通りに育つ。

この社会では、12歳や15歳時点でのペーパーテストの点数で、「君は自律ができるひと」「君は自律ができないひと」というレッテルを貼っている可能性がある。それによって青春時代に得られる自由や自己肯定感にまで格差が生じるのであれば、その格差が子供たちの人生に与える影響はおそらく、学歴フィルターがもたらす影響よりも甚大だ。

もし学力的な偏差値が一定以上でないと自律ができないというのであれば、大多数の民衆は自律ができないということになり、そもそも民主主義社会など成り立たない。

と言うと、「だから実際、民主主義が十分に機能していないのではないか」という反論も聞こえてきそうだが、可能性は2つある。1つはやはり一定以上の学力の人間でないと自律ができないがゆえに社会として民主主義が機能しないという元も子もない話。要するに民主主義は最初から幻想だったということである。もう1つは、大半のひとが「どうせお前には自律ができない」という呪文をかけられてしまっているがために民主主義を放棄しがちになっているだけという可能性。

後者である可能性が高いと私は思う。

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