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「シャブ山シャブ子騒動」思考停止のメディア

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■「デイリー新潮」の主張

これら一連の騒動の最中、まるでゾンビのように描かれた薬物依存症者に対し、それを肯定するかのような記事をだしたのが「デイリー新潮」である。(参考:2018年11月15日掲載ウェブ記事)薬物依存症の専門家のコメントではなく、暴力団問題を得意とするノンフィクションライターらの著書から一部抜粋したものを掲載し(注:インタビューではなく単なる抜粋である)、さらには統合失調症や躁鬱病などの精神疾患までことさら危険視するような人権侵害レベルの記述までしている。

またこれもある著書からの抜粋に過ぎないが、「彼らの多くは『他人を傷つけたわけじゃないし、自分で覚醒剤を買って自分で使うのに、ぼくの身体がどうなっても、そんなの、ぼくの勝手じゃないですか』と弁護人に食ってかかるという。」という一部を抜き出し、「薬物依存症者=自分勝手」という実に単純な論理を展開している。

しかし、少年らがこの言葉を吐くことは、薬物依存症の治療や支援に関わるものなら誰でも知っていることで、それだけ薬物依存症者の中には、過酷な成育歴例えば、激しい暴力や虐待、実の親や近しい人からの性虐待、または親が何度も刑務所に入ったり、ネグレクトされるなど、生きていくことが非常に辛く困難な状況下に置かれている青少年がおり、生きることに絶望し、薬物依存という「緩慢なる自殺」という手段を選んでいるのである。ゆえにこの言葉は「自分なんかどうなってもいいじゃないか!」という大人に裏切られ、傷つけられ、誰も信じることができなくなった、少年たちの心の叫びなのである。

そういった薬物依存症の背景や実態も知らず、都合よく文字面だけを切り取って書かれた記事に対しては非常に憤りを感じる。

しかも結論は相も変わらず「『シャブ山シャブ子』問題に注目が集まったこの機会に、改めて覚醒剤の危険性に目を向けるべきだろう。」というものであった。この記事を書いた人は、おそらく自分の頭で考えることをやめ、時代の進化に目を向ける事なく、昭和のままの価値観で止まっていると思われる。仮にもマスコミに関わる人間が、このようにありふれた結論を導き出す事に疑問を感じないのであろうか?まるで、小中学校で地域の警察官が行うおざなりな薬物乱用防止教室のようである。いや警察官ならまだ「それしか言いようがない」という立場も分かる。しかし仮にもマスコミの人間が、十年一日同じことを言い続けて、全く事態が好転していない現実に疑問を抱かないのであろうか?と不思議でならない。

実際は、デイリー新潮が言っていることの真逆で、日本の薬物政策の大問題は、薬物の恐ろしさばかりに焦点があてられ、対策が単なる「脅し」と「見せしめ」「懲らしめ」しかなく、「回復」といった観点が全く示されてこなかったことにある。

▲写真 【東京税関】日本人男性による覚醒剤密輸事件を摘発(平成30年11月2日発表)覚醒剤 約2.355グラムをスーツケース両側面部に隠匿し密輸入しようとしたが税関検査において発見・摘発されたものである。 出典:財務省関税局税関

■日本の薬物政策の問題点

ここまで数々の問題点をあげてきたが、なんといっても最大の問題点は、「華やかな有名スポーツ選手や芸能人であっても薬物の依存症が抜けなければ、同じ運命をたどる。メディアへの登場を許されず、事実上の失職に追い込まれ、配偶者から離婚を迫られ、子供からも遠ざけられる。すなわち家族を失い、無職となり、孤独死やのたれ死にを宿命づけられる。依存症から完全治癒し、何カ月か、何年か後、現実社会に復帰を許されるのはごく少数である。」という日本の闇について触れた部分である。

海外では、薬物事犯であってもリハビリ治療を受け、いくらでも社会復帰を果たしていることを多くの日本人がご存じであろう。ロバウトダウニーJr.やコリンファレル、エミネムなどスーパースターが薬物依存を克服したと告白し、欧米諸国、そして日本人までもがそのことを好意的に受け止めている。しかし何故か日本人は日本人に厳しく、一度でもレールを外れた人間を徹底的に叩き、海外セレブの薬物依存症者は許せても、日本の有名人の社会復帰は許せず、運よく復帰できたとしても、彼らがその経験を語る事はタブーとされるのである。

そもそも日本は社会復帰や再出発が非常に困難な社会である。そのため多くの国民は、恐れや不安にさいなまされ先進国にあって自殺率が非常に高い国となっている。

依存症の治療は、自分を見つめ直すことから始まる。それはとてもつらい作業だ。考えてもみて欲しい、生まれながらにして親や周囲の大人たちに大事にされたことのない自分の姿を直視することがどれだけ辛く惨めなことか、その上薬物に手を出してしまった自分の姿を見つめ直さなくてはならないのだ。恥じている自分から、自分を好きになること、過酷な環境に置かれ、人を信じては裏切られてきた依存症者が、もう一度人を信じて「やり直そう!」と前を向くことは、とても大きな不安がある。だからこそ同じ経験をした、回復した仲間達の支えが必要なのである。

また、社会はその回復を応援するものであって欲しいと強く願っている。日本の薬物依存症者の再犯率はこの10年の間一向に変わらず、いや変わらないどころか微増すらしているのである。

▲図

何故なら、依存症の治療は一筋縄ではいかないとても辛く苦しいものであるのに、社会で排除され、嫌われ、憎しみの目を向けられたのでは、治療の苦しみを乗り越えられる事なく挫折してしまう。回復しても社会で受け入れられないのなら、回復しても仕方がないと考えてしまう。だからこそ日本の薬物政策は今こそ転換すべきであり、欧米諸国の様に「刑罰よりも治療を!」という方向性に向かうべきである。

そして薬物の恐ろしさをことさらおどろおどろしくデフォルメし、実際には有り得ないようなゾンビに描くことは、回復に役立つどころか害悪でしかないことに、特にメディアに関わる人々にはいい加減気がついて欲しいと思う。

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