
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
【まとめ】
・人気テレビドラマが覚醒剤依存症患者をデフォルメして放送。
・ネット上で話題となり「シャブ山シャブ子論争」と呼ばれた。
・薬物の恐ろしさばかり取り上げ「回復」の観点ない報道は問題。
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■「シャブ山シャブ子騒動」とは
2018年11月7日に放映された、テレビ朝日系人気ドラマ『相棒 Season17』の「シャブ山シャブ子騒動」をご存じだろうか。ドラマの中で、40代女性覚せい剤依存症者がハンマーでベテラン刑事を殴り殺し逮捕されるのだが、取調室でこの女性が幻覚を振り払うようなしぐさをしながら「シャブ山シャブ子です!17歳です!」などと口走るのだ。その上、取り調べをしている刑事が「責任能力を問えない可能性がある。」とまで発言する。
このシーンがTwitterで評判になり、「怖すぎる」「あまりにリアル」と「シャブ山シャブ子」というキーワードが、一時トレンド入りまでした。
これに対し、薬物依存症治療の第一人者である国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生や、私がネット記事で、実際には「あのような薬物依存症者はいない。」「間違ったイメージと偏見を増長する。」と反論すると、この論争が国会の衆議院厚生労働委員会でもとりあげられ、立憲民主党の初鹿明博議員が「このような報道は薬物依存症に苦しむ人達を傷つけ、偏見を増長するのではないか?」と質問し、根本匠厚生労働大臣が「薬物依存症者の偏見是正につとめる」と回答する事態となった。
国会で審議にまでなったことから我々はこれをチャンスと思い、アルコール、薬物、ギャンブルの研究者・支援者で作る「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」より謝罪等を求める要望書を番組宛てに送付した。この要望書提出の動きを朝日新聞が報じると、一部のネット民が我々にバッシングを仕掛けてきたが、すぐに番組プロデューサーが直接電話をくれ、話し合いの場がもたれることになった。その報告記事をネットメディアに配信すると、批判が一気に終息した。これが「シャブ山シャブ子論争」と呼ばれた事の顛末である。
我々の発信に対し、コメント欄などをみるとそのほとんどが批判的なものであり、中には電話やメールで罵倒してくる人もいた。しかし新聞各紙及びネットメディアによる有識者のコラムなどではこの問題の本質が捉えられ、「表現の自由は守られねばならぬが、今回のような社会的にバッシングを受けやすく、偏見にさらされている薬物依存症者などに対しては、いくらフィクションとはいえ番組制作者は配慮すべき。」というものであった。
また、実際に日本民間放送連盟「放送基準8章 表現上の配慮」には、「(56)精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮しなければならない。」との記載がなされている。