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ゾゾ前澤"世界中からアートを集めるわけ"

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■アートを盛り上げるパトロンという存在

【秋元】子どものころから、クワガタやキン消し(キン肉マン消しゴム)などを集めるのが好きだったようですから、やはり集めること自体が好きなのでしょう。ただ、一点一点吟味して自分の気に入った作品を購入しているところをみると、単に収集欲を満たすためだけではなく、むしろ、もっと知りたいという知識欲のほうが強いような気がします。

【前澤】それはあるのかもしれませんね。好きな作品だとそれをどんな人が制作したのかを知りたくなりますし、その作家を知ればその作家の作品の中で一番いいものがほしくなります。ミュージシャンと一緒ですよ。このアーティストがいいとなれば、自分にとってマスターピース(傑作)を探したくなります。ジャン=ミッシェル・バスキア(ハイチ系アメリカ人の画家。88年27歳で死去)も、ものすごくたくさん観ましたけど、2017年5月に購入したブルーの作品(「無題」)こそが、僕にとってまさにマスターピースだったんです。

【秋元】よくわかります。間違いなくあの絵はバスキアのトップクラスの作品です。直島のアートプロジェクトや国吉康雄のコレクションで知られるベネッセが、やはり90年頃にバスキアの2メートルを越える作品を購入していますが、1988年に亡くなっていますが、それから間がない2年後に、すでに2億円近い値段で取引されています。それから30年弱で61倍です。あれだけの金額で買った勇気には心底敬服します。

【前澤】ありがとうございます。

【秋元】これにより美術界の人間はみな前澤さんという存在に一気に注目しました。どれくらいのコレクションをもっているのかとか、どういう考えで美術品を集めているのかというのはもちろんですが、それだけではありません。美術史をみると、どの時代にも芸術を理解し、芸術家を支援し後援するパトロンがいて、大きな役割を果たしてきました。日本だと岡山県の大実業家である大原孫三郎さんやベネッセ創業者の福武總一郎さんがそうです。今後は前澤さんもパトロンとして美術界の発展に力を貸してくれるのではないかと、期待の目でみているのです。

【前澤】自分ではそんなたいそうな意識はないんですよね。申し訳ないです(笑)。アートだけを取り出して美学・美術史的に評価するようなことは得意ではないですし、文化の啓蒙だとか、社会のためなどといった大義名分が伴うような文化活動にも、あまり興味がないのです。

【秋元】私が15年間一緒に美術をやってきたベネッセの福武さんも、前澤さんと似ている点がありました。彼も、自分は慈善活動でやっているのではないとよくいっていました。他のコレクターと比べてどうのこうのというのもなかった。彼にとってコレクションは、自分の哲学の反映だったのだと思います。私は前澤さんに、美術界を応援してくれとはいいません。ただ、前澤さんの思想や哲学が前面に出るような関わり方を、今後も美術を通してしていってほしいと、切に願っています。

【前澤】がんばります(笑)。

友人と一緒にときどき「ぐい呑み」会を楽しむ。一口で「ちょっとした高級外車が買える金額」だという。(撮影=宇佐美雅浩)

■アーティストってみんな変人ですから

【秋元】前澤さんはもともとミュージシャンで、バンド活動もされていました。それとアートのコレクションとは何か関係がありますか。

【前澤】特別に意識するようなことはないですね。しいて言うなら、アートも音楽も、そしてビジネスも、好きなことを徹底して突き詰めている、という点でしょうか。

【秋元】では、美術作品と向き合うときの気持ちのありようは、どんな感じなのでしょう。

【前澤】作品によっても違うし、日によっても違うと思いますよ。

【秋元】でも、気に入った作品の作家は追いかけるのですよね。いまだと誰ですか。

【前澤】アメリカでいえば、ロサンゼルスのマーク・グローチャンやジョナス・ウッドとか、最近だとマーク・ブラッドフォードとか。ジェフ・クーンズも好きなアーティストで、よく会ったりもします。あとジョー・ブラッドリー。ヨーロッパだとアントニー・ゴームリーとかアンセルム・キーファーとか。名前を挙げた人は全員スタジオまで会いにいきました。

【秋元】作品もそこで買うのですね。

【前澤】いいものがあれば。もちろん彼らの作品はオークションやセカンダリーマーケット(二次市場)でも買います。そこにこだわりはありません。

【秋元】作家の人間性が作品に表れると思いますか。

【前澤】そこは、正直いってよくわかりません。というか、作家自身もよくわからないのではないですか。会うたびに深い話をするというわけでもありませんし、深い話をしてもきっと意気投合できる気はしませんね。アーティストってみんな変人ですから(笑)。でも、それはそれでいいのです。その人というよりその人が生み出す作品が好きなのです。

■アートとは、生活を彩り、暮らしの中にある風景

【秋元】私のように美術にどっぷり浸かってしまうと、作家と作品を分けるのは逆に難しい気がします。作品を、作者の精神的な産物として受け止めているようなところはありませんか。

秋元 雄史『直島誕生』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【前澤】いえ、僕が観るのは色や形やバランスですね。そういう意味では、写真も家具も洋服も見方は同じです。深読みして作品単体に必要以上に意味をもたせるのは、あまり好きではないんです。

【秋元】バスキアはいま2点おもちですね。たとえば80年代の主要なアートを集めて、時代の空気のようなものを表現してみようという思いはありますか。

【前澤】ないです。ただ、バスキアはまだほしい作品がたくさんあるので、それらを一つひとつ買っていけば、その結果として80年代のものが集まったということはあるかもしれません。

【秋元】なるほど、あくまで結果として集まることもあると。

【前澤】美術館や展覧会だと、観せるときに歴史や背景といった意味づけがどうしても重要になりますよね。でも、僕は、好きなものをただひたすら買い集めて、それをみんなで共有して楽しむだけなので、余計なことは考えないし、その必要もないです。

【秋元】まあ、美術館というのは一種の教育装置ですから、どうしてもああいった展示の仕方にならざるを得ない。あれが正しい飾り方かといわれたら、そういうわけでもないのです。

要するに、前澤さんにとってアートというのは生活を彩るものであり、暮らしの中にある風景のようなものなのですね。

【前澤】まさにそのとおりです。大量生産されたものじゃなくて、一点モノや大事に受け継がれてきたものと暮らすことで、それをつくったり、描いたりした人に思いを馳せることができます。

■環境と建築とアートがうまく調和する場所

【秋元】個人の美術館構想もおもちだとうかがっています。それはご自身の中ではどういう位置づけになるのですか。

【前澤】生活空間の延長というくらいの感覚です。毎日そこにいたいとは思わないけども、週に一回くらいそこに行くと新鮮な気持ちになれる。そういう場所のひとつですね。

【秋元】これまで感動したり影響をうけたりした美術館はありますか。

【前澤】デンマークにあるルイジアナ近代美術館のジャコメッティ(スイス出身の20世紀の彫刻家)がある空間はすごく好きです。遠くに池や木々が見えていて、その前に歩く人があって、さらにその前に「ヴェニスの女」のシリーズがあるという、抜け感のある展示の仕方が実にかっこいいのです。

【秋元】ルイジアナ近代美術館は、現代アートのプライベート美術館の草分けですね。ひとつひとつの作品へのこだわりがありますし、私邸から公開型の美術館へと発展していったいい例ですね。環境と建築とアートがうまく調和している非常に美しい美術館だと私も思います。

【前澤】あの場所は、本当に楽しいです。

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前澤友作(まえざわ・ゆうさく)

ZOZO社長

1975年生まれ。早稲田実業高校卒業後、バンドの活動の一環として渡米。98年スタートトゥデイ(現ZOZO)設立。2004年ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を設立。公益財団法人現代芸術振興財団会長。世界的なアートコレクターであり、2017年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを受勲した。 秋元雄史(あきもと・ゆうじ)

東京藝術大学大学美術館館長・教授/練馬区美術館館長

1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒。1991年、福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。瀬戸内海の直島で展開される「ベネッセアートサイト直島」を担当し地中美術館館長、アーティスティックディレクターなどを歴任。2007年から10年にわたって金沢21世紀美術館館長を務めたのち、現職。

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(ZOZO社長 前澤 友作、東京藝術大学大学美術館館長・教授/練馬区美術館館長 秋元 雄史 構成=山口雅之 撮影=宇佐美雅浩 取材協力=スターダイバー)

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