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落合陽一は日本のムダとムラを壊す救世主

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「とても聡明で頭が切れる」。作家の猪瀬直樹氏は、落合陽一氏をそう評価する。「現代の魔法使い」として世間の注目を集める落合氏はどこがすごいのか。落合氏との共著『ニッポン2021‐2050 データから構想を生み出す教養と思考法』(KADOKAWA)を出した猪瀬氏に聞いた――。

落合陽一氏(左)と対談する猪瀬直樹氏(右)。

■落合くんは常に言葉を使って伝えようと努力している

――猪瀬さんは落合さんのどこを評価しているのですか。

ひとつは言葉の新しさです。たとえば「アップデート」や「デッドロック」といったコンピューター用語を使った言い回しをしますね。落合くんはテクノロジーの言葉やレトリックを使うので新鮮で次の時代が開かれたようなみずみずしさを感じさせます。彼が古い言葉を使う人であればここまで若い人たちに支持を得ることは難しかったのではないでしょう。また理系の人たちからみれば、自分たちの発想を社会に橋渡ししてくれるようにも思うのではないでしょうか。

そして彼は常に言葉を使って伝えようと努力している。たとえば落合くんと僕の対論集『ニッポン2021-2050』(KADOKAWA)で、彼は「介護のテクノロジー化の可能性」についてこう述べています。

<こうした話をすると必ず「いや、人の温もりが大切なんだ」という反応があります。たしかに「人間とロボット(AI)、どちらにお世話してもらいたいですか?」と聞くと、そういう反応になる人は少なくありません。ロボットやAIといったテクノロジーが、いまの被介護者にとってはなんだかよくわからないものに聞こえるからです。

けれども「それでは、ウォシュレットと、おじさんにお尻を拭いてもらうのは、どちらがいいですか?」と聞くと、この質問に対しては多くの人が「ウォシュレット」と答えます。生活の接点に即して具体的にイメージできるように落とし込んで伝えられれば、新しいテクノロジーを受け入れてもらうのはそう難しいことではありません>

■じゃあどう解決できるか、に前向きに注力する

相手が自分の言葉が理解できないとなったときに、ふつうは嫌になります。まあ彼も嫌になることはあると思いますが、そこで放棄せずに「ならどうすれば伝わるか」を考える。今いろんなところで「分断」という言葉が叫ばれていますが、話し合いを放棄すれば終わってしまう。年長者が理解を示さないという問題があったとして、じゃあどう解決できるか、に前向きに注力する。

言葉で伝わりにくい部分は実際にやってみせます。軍人の山本五十六は「やって見せ 言って聞かせて させてみせ 褒めてやらねば 人は動かじ」という言葉を残していますが、その精神ですね。

最近は息子さんの口唇口蓋裂について、治療の推移を逐次公開しています。その理由について、Twitterにこう書いていました。

弊息子に関しては,親のエゴと社会性だから後で了承を取るしかないんだけど,写真載せてるかには明確な目的があって.
僕は口唇口蓋裂児の父になったときに数時間パニクったので,ネットで検索可能な行動事例が父親の視点とともにアーカイブされていると当事者に救いになると思ったからなんだよね.

治療過程のモデルケースを見せることで、後に続く人のヒントを示すことができる。動くだけでなくモデルとして常に見られ方を意識しているのも彼の魅力だと思います。

■採用条件は「何かひとつでも落合陽一に勝てるものがある」

――猪瀬さんは落合さんの人柄にも強く惹かれているそうですね。

落合陽一氏

山本五十六の言葉にあったように「褒めてやらねば 人は動かじ」という点を理解しているのだと思います。眼差しがすごく優しい。多少厳しいこと言っても、それを包み込むような本質的な優しさがあります。特に学生からはすごく慕われているようですね。

彼は自分の研究室で学生や研究者を採るときの条件の一つとして「何かひとつでも落合陽一に勝てるものがあること」を挙げていると聞きました。それは「バトミントンがうまい」といったことでもいい。何かひとつ誇りを持てる長所があることで、自負を持ってコミュニティに参加できることが大事だ、と。

それはダイバーシティ(多様性)と言い換えることもできるかもしれません。多様性とは「誰でもただ平等に扱う」ということではありません。それぞれの違いを認識し、その違いに敬意を持つことが重要なのです。

落合くんはオーケストラと組んで「耳で聴かない音楽会」を開いています。耳が聞こえない人でも音楽会を楽しめるように、光や振動でオーケストラを再現しようと試みていました。僕はその発展形である「変態する音楽会」のチケットを買って観に行きました。「楽器」のひとつとして映像が「演奏する」というもので新鮮な体験でした。

■いまの日本社会に2021年以後のビジョンがない

――落合さんとの共著を出すことになったきっかけは?

落合くんとの出会いは2016年の年末でした。たまたま特急列車の席が近くて声をかけてくれたのです。そこから折に触れて対談する機会があり、彼がアーティストであると同時にテクノロジーを使って社会をよくするために動き回っている本当の働き者であること、そして近代の行き詰まりという問題意識を共有していることがわかりました。そこで「じっくり日本の近代について一緒に考えないか」といって誘ったのです。

僕は常々、日本の近代の行き詰まりを打破したいと考えてきました。それは「ムダ」(非効率)と「ムラ」(利益集団)という言葉に象徴されます。落合くんは同じ問題意識をもつだけでなく、いまの日本社会に2021年以後のビジョンがないことを危惧していました。

未来を描くには現在がどのようにできあがってきたかを知ることが不可欠です。そのため共著では、僕が日本の「近代」の構造と自分自身が取り組んできたものを示し、落合くんがデータやテクノロジーの動向から未来のビジョンを示す。それらを通じて、近代を乗り越え、未来を創るための発想や生き方のヒントになる本になればと考えました。

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