"リスクの伝道師"山崎です。本ブログでは、毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月は11月9日~11日まで福島市で開催された第31回日本リスク研究学会年次大会にて、「食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション・タスクグループ」の研究成果として、リスク認知バイアスに対するリスコミ手法の開発と効果検証について発表しましたので、ご報告したいと思います。まずは、あいかわらず食品添加物のリスクについて、科学的に誤りが満載の不安煽動記事が週刊誌に掲載されたようですので、以下でご覧ください:
◎「食卓の危機」警鐘キャンペーン
海外では食べることが禁止されている「日本の食品」リスト公開
(女性セブン, 11/29・12/6合併号)
https://www.shogakukan.co.jp/magazines/2092112118
週刊新潮さんに10週連続で、加工食品の安全性に関する不安煽動記事が実名入りで掲載された際には、われわれSFSSもその社会への悪影響を懸念してファクトチェックを敢行した(事実検証した疑義言説3つがすべて「レベル2:不正確」でミスリーディングとのレーティングとなった)が、今回の女性セブンさんの記事は、食のリスクをもとにファクトチェックすることすら困難であると判断した。なぜなら、この記事には食品添加物の摂取量に関する記述が皆無だからだ。ヒトがある化学物質にどれだけ暴露されるかを議論しないで、人体への健康リスクが大きい(=危険)と主張している時点で、とてもまともな科学情報とは言えないことは明白だ。
・消費者の誤解は量の概念の不足から(2018年7月27日)
長村 洋一(鈴鹿医療科学大学 教授)
http://www.nposfss.com/cat7/consumer.html
・毒か安全かは量で決まる(SFSS理事長雑感/2013年9月10日)
http://www.nposfss.com/blog/poison.html
上記の長村先生の論説記事を読んでいただければ、一般消費者が食品添加物の健康リスクを誤認してしまう最大の原因は「摂取量の観点」が欠落しているからだと考察されている。今回の女性セブン記事のライターさんも、おそらく社会部系の記者さんで食の安全に係るリスクが摂取量に依存することをご存知ないのだろうと察するところだ。すなわち、ある食品添加物が加工食品に入っているというだけで危険だという「ありなし論」を展開されている時点で、厳しくいえば食のリスクを語る資格はないと言わざるをえない。
しかし、一般消費者も同じように食品添加物が入っている時点で健康に良くないと勘違いしている方々が多いのも事実で、これはいくつかのリスク認知バイアスが起因しているものと疑われる。リスク認知バイアスの中でもっとも典型的なものとして「確証バイアス」がある。すなわち、消費者は「危険重視の本能」があり、危険情報の方を信じる傾向にある。一度「食品添加物は危険」という判断を行うと、それが先入観になり自分の判断の正しさを証明する情報ばかりを集めて、そうでない情報は拒絶するという「確証バイアス」に陥り、さらにその先入観が増長されるのだ。
・食品添加物のリスコミのあり方(2018年1月22日)
唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団)
http://www.nposfss.com/cat7/risk_communication_of_food_additives.html
われわれは、日本リスク研究学会において「食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション・タスクグループ」を結成し、社会心理学で報告されている種々のリスク認知バイアスに対してのリスコミ手法開発を試みている。とくに今回、福島市で開催された日本リスク研究学会年次大会では、この「確証バイアス」に対するリスコミ手法を開発し効果検証したので、その概要をご報告したい。この「確証バイアス」を補正することができれば、消費者の食品添加物に対するリスク認知バイアスを解消することができる、すなわち消費者が自らリスクの大小を正しく認識できるようになる(リスクリテラシーが向上する)可能性が広がるものと考えた。
◎SFSS活動報告
第31回日本リスク研究学会年次大会 にて研究成果を発表しました!
http://www.nposfss.com/cat1/sra_japan2018.html