有価証券報告書に関与した取締役は「特別利害関係人」に該当する可能性
さらに重要なことは、この「司法取引」の問題は、明日(11月22日)に開催される予定の日産の臨時取締役会でのゴーン氏、ケリー氏の代表取締役の解任議案の議決に影響を及ぼす可能性があるということだ。
取締役会では、特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができない(会社法369条2項)。
ゴーン氏、ケリー氏の逮捕容疑となっている有価証券報告書の虚偽記載に関与した取締役は、その事実で刑事訴追を受ける可能性がある。仮に、日産幹部と検察との間で、
(a)ゴーン氏、ケリー氏についての内部調査結果を検察に提供する
(b)検察は有価証券報告書の虚偽記載で両氏を逮捕する
(c)逮捕を理由に日産取締役会でゴーン氏、ケリー氏の代表取締役解任決議をする
(d)両氏以外に関与した取締役については虚偽記載について刑事処罰しない(刑事立件しない)
との合意が成立していた場合には、両氏が同事実で逮捕され、処罰される可能性があることを理由に解任することで、有報に関与した他の取締役は自らの刑事責任を免れることができることになる。その場合、(d)が「正式な司法取引」であろうと「ヤミ司法取引」であろうと、「特別利害関係人」に該当する可能性がある。
この点については、当該取締役会で、検察との間でどのような協議が行われているのかについて報告を受けた上、特別利害関係人への該当性について十分に検討した上で議決を行う必要がある。もし、そのような問題を無視して解任決議が行われた場合には、後日、ゴーン氏側から訴訟を起こされ、解任決議の無効を主張された時に、決議の重大な瑕疵とされることになりかねない。
投資資金をゴーン氏の自宅購入に使った「疑惑」について
仮に、有価証券報告書に関与した取締役が、ゴーン氏、ケリー氏の逮捕を理由とする解任の決議について「特別利害関係人」に該当するとの理由で、解任決議に加われないとすると、19日夜の会見で西川社長が、内部調査の結果明らかになったとしている「私的な目的での投資資金の支出、私的な目的の経費の支出」を理由とする解任を行うことも考えられる。
とりわけ、前者については、検察当局が「特別背任罪」の立件を視野に入れて捜査していると報じられており、それを解任理由とすることも十分に考えらえる。
しかし、投資資金で海外の不動産購入を購入し、それをゴーン氏が自宅として使用していたとしても、それが会社法の「特別背任罪」に該当するか否かは微妙だ。背任罪(特別背任罪も同じ)は、「自己又は第三者の利益を図る目的、本人に損害を与える目的」で、「任務に違反し」、「本人に財産上の損害を与えること」によって成立する。自宅に使う目的で投資資金で不動産を購入する行為は、「自己の利益を図る目的」で行われたとは言えるだろうが、「損害の発生」の事実があるのか。不動産は会社の所有になっているのだから、その価格が上昇するか、購入時の価格を維持していれば「財産上の損害」はない。海外の不動産の時価評価なども必要となる。特別背任罪の立件は決して容易ではない。
「特別背任罪への該当性」の問題を別にして、内部調査で明らかになった事実が、ゴーン氏、ケリー氏の解任理由となるのか、という観点からの検討が必要となるだろう。