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米国とトルコはサウジ記者を見殺しにした

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トルコのサウジアラビア総領事館での記者殺害事件。この事件では2つの組織が得をした。ひとつはトルコ政府だ。事件のおかげで対米関係が改善し、経済的窮地を脱しつつある。もうひとつは米国の情報機関だ。サウジはトランプ政権と近く、事件は政権にダメージとなった。危機管理コンサルタントの丸谷元人氏は「トルコと米情報機関は協調していた可能性がある」と指摘する。その根拠とは――。(後編、全2回)

トルコのメディアが入手したサウジアラビア人記者失踪に関与したとされるサウジ国籍の15人(写真=AFP/時事通信フォト)

トランプ政権はトルコに厳しい経済制裁を仕掛けていた

今回のジャマル・カショギ記者殺害事件では、サウジアラビアや米国だけでなく、震源地であるトルコにも目を向ける必要がある。

事件の情報がトルコから大量に出てきた背景には、トルコがサウジと多くの面で対立関係にあること以上に、同国の対米関係が極度に悪化していたという事実がある。

近年、欧米から距離を置き、ロシアに接近していたトルコのエルドアン政権では、16年にクーデター未遂事件が発生した。トルコ政府はこれに米国が関与したと断定。CIAのスパイと疑う米国人牧師アンドルー・ブランソン氏を逮捕して拘束していた。

これに対し、トランプ大統領は自らの最大の支持母体であるキリスト教福音派に属する同牧師の解放を要求したが、それをトルコが拒否したため、トランプ政権はトルコに対して厳しい通貨戦争や経済制裁を仕掛けた。そのためトルコ・リラが暴落。もともと過熱気味だった同国の経済を極度に悪化させることになった。

そんなトルコにとってみれば、今回の事件の情報公開は、敵対するムハンマド皇太子のみならず、その皇太子と緊密な関係を持ちつつ自国を経済的に追い詰めてくるトランプ政権に対する痛烈な反撃となった。

その証拠に、トランプ大統領は慌ててポンペオ国務長官をトルコへ急派したが、その直前にトルコ政府がくだんの米国人牧師を突如釈放したことで、トランプ政権は対トルコ経済制裁の解除を示唆するほど態度を軟化させている。トルコ政府は、事件を契機とした鮮やかな情報戦によって、経済的窮地から一気に脱しつつある。

CIAはカショギに警告せず「見殺し」にした

このような離れ業をトルコが単独でやってのけたとは、にわかには信じがたい。そこで考えられるのが、トルコが事件前から、米国内の反トランプ派エスタブリッシュメント層と協調していた可能性だ。

このことは、米情報機関が事件の直前にムハンマド皇太子がカショギ氏の誘拐を命じる通信を傍受していたにも関わらず、それを同氏に伝えなかった、と事件発生後の早い段階で広く報じられている点からもうかがえる。

米情報機関は歴史的にワシントンのエスタブリッシュメント層と関係が深く。新参者のトランプ政権に対してはロシア疑惑の捜査を進めるなど強く反発してきた経緯がある。

つまり米情報機関は、カショギに対し危険が迫っていると警告せずに「見殺し」にし、そこから一大スキャンダルを演出した可能性がある。そうすることで、ムハンマド皇太子の権威失墜とサウジ旧体制派の復権、さらにサウジの支配権をトランプ政権から一気に奪還することを企図したというわけだ。

殺害現場の“盗聴”はトルコだけで行ったのか

トルコにとっても、今回のカショギ氏殺害事件を通じて米国の反トランプ派に協力することは、対立するムハンマド皇太子を追い詰めるのみならず、トランプ政権による経済制裁取り下げという一石二鳥を狙える。そうした利害の一致を見て取ったと考えれば、トルコが元々CIAのスパイとして拘束していたはずの米国人牧師を、このタイミングであっさりと釈放して米国に帰国させたことにも合点がいく。

一方で、アップルウォッチを通じて得られたとトルコが主張する事件の音声情報について、欧米の大手メディアが現時点でその入手方法を強く疑う論調を出してはいないのは不可思議だ。

トルコが得たカショギ氏殺害の音声情報が、アップルウォッチではなく、サウジ領事館内部に仕掛けられた盗聴器によるものだった場合、トルコは国際法で禁じられている在外公館に対する盗聴監視活動を行っていたことになり、国際社会から強い非難を受けることになる。しかし現時点でトルコはなぜか「守られて」いるのである。

そう考えれば、この盗聴もトルコが単独でやったのかどうか疑わしくなる。もちろん、根拠のない推測は禁物であるが、この盗聴が最初から米情報機関と共同で行われた可能性がある。

もし、上記の仮説が正しければ、今回のカショギ氏殺害事件は米国エスタブリッシュメント層とトルコ当局による合同の秘密作戦であり、ムハンマド皇太子はまんまとその罠に引っかかったことになる。

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