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正しいことがベストではない、人はなぜ間違えた選択をするのか? - 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

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 先日、「人はなぜ間違えた選択をするのか」という講演をしたので、エッセンスを御紹介します。

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黙っている人の声を聞くのは難しい

 聞こえて来る声だけを頼りに判断すると誤ることがあります。たとえば、大教室で「寒いから暖房を入れて欲しい」と言って来た学生がいたとして、すぐに暖房を入れると他の全員から「暑い」とクレームされるかもしれません。現状に満足している人は、黙っていますから。

 円安の時、輸出企業は儲かっていますが、黙っています。「儲かっている」と言うと労組が賃上げを、下請けが値上げを要求して来ますから。円安の時、輸入企業(輸入原材料を大量に使う企業)は「円安で苦しいからボーナス無し。下請けは値下げして」と大きな声を出します。円高になると、今度は輸出企業だけが困ったと言い、輸入企業は黙っています。したがって、いつでも日本経済は困っているような錯覚に陥りますが、そんなことはありません。 

 農産物の輸入自由化を巡っては、農家は生活がかかっているので必死に反対しますが、国民の大多数を占める農産物の消費者は「輸入農産物が安く食べられたら少しは嬉しいが、賛成運動をするほどではない」と考えて黙っています。そこで、気をつけないと「日本人は反対派ばかりで賛成派は皆無だ」、と考えてしまうかもしれません。

 企業は、客からのクレームで製品を改良しようとします。「壊れた」というクレームは来ますが、「重くてデザインが悪いから買わなかった」というクレームは来ません。そこで、壊れにくく重くデザインの悪い製品が改良版として発売され、ますます売れなくなる、といったことも起こり得ます。本来は、ライバルの製品を買った客に理由を聞ければ良いのですが……。

 黙っている人が何を考えているのか、思いを巡らせて見ることが必要なのですね。言うは易く、行うは難し、ですが。

いない人の声を聞く

 カジノに入ると、店の中の客はだいたい儲かっていて笑顔です。そこで「客に優しい店だ」と勘違いして賭けると、大抵負けます。朝から1000人の客が店に来て、990人は負けて退散し、偶然勝っている10人だけが店の中に残っているのですから、筆者は11人目の勝ち客より991人目の負け客になる可能性が高いですね(笑)。

 同様のことは、起業して成功した人の学生向けメッセージにも言えます。「学生諸君、サラリーマンなんて夢がない。起業して私みたいな大金持ちになろう」と学生に語りかけるのは、例外的に成功した起業家です。多くの起業家は失敗して世の中の片隅でひっそりと暮らしているので、学生たちはその存在にさえ気づかないかもしれません。それは、学生たちにとって危険なことですから、大学教授である筆者は、学生たちに注意を呼びかけています。

因果関係に要注意

 A氏とB氏が似ている場合でも、AがBの親とは限りません。BがAの親かもしれないし、2人は兄弟かもしれないし、他人の空似ということもあり得ますから。これと同様に、AとBが同じような動きをするからと行って、それだけでAがBの原因だと決めるわけには行きません。

 「警官が多い街ほど犯罪が多い」というのは、正しいですが、では警官を減らせば犯罪が減るかというと、そうではありません。犯罪が少ない街は公園を作り、多い街は警官を雇う、ということですから、因果関係が逆ですね。今ひとつ、人口が多い街は警官も犯罪も多いので、人口1000人当たりの警官数と犯罪数を比べるべきだということも要注意ですね。

 株価は景気の先行指標だと言われます。しかし、株価上昇が景気を回復させるわけではありません。投資家たちが景気回復を予想し、企業収益の改善を予想して株を買うので、彼らの予想が当たると景気が株価上昇に遅れて回復することになるわけです。後から生じる事柄の方が原因だというのは珍しいですね。

最初の数字に囚われない

 「利根川は50キロより長いですか?」「では利根川は何キロですか?」と聞かれるより、「利根川は500キロより長いですか?」「では利根川は何キロですか?」と聞かれる方が、人々は大きな数字を答えるそうです。

 途上国へ行くと、10ドルの品に50ドルの値札を付けて、「半額セールだから25ドル」といった売り方をしている店が多数あるそうです。半額だと聞いて「安いから買おう」と即断しないように気をつけたいものです。

 親戚の若者が筆者を訪ねて来ました。「新入社員研修で我が社の製品を売ってこいと言われました。10個買って下さい」とい言われたので、仕方なく2個買いましたが、最初から「2個買ってください」と言われたら1個しか買わなかったと思います。さすがは我が親戚、優秀です(笑)。

 宝石店の入り口に500万円の宝石が置いてあると、店に入った客が5万円の宝石を見て「安い」と感じるのだそうです。あれは心理学者のアドバイスで置かれているのですね。

統計使いに騙されない

 「統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつく」と言われます。よく使われるのはグラフです。たとえば下のグラフで、どの会社の売り上げが一番伸びていると思いますか? Aは1から2、Bは10から19、Cは10から18なので、Aが一番伸びているのです。直感に惑わされないように気をつけたいですね。

 米国軍人の死亡率は米国人の死亡率より低いです。統計は正しいです。軍人で老衰死する人はいませんから(笑)。でも、「だから米軍は安全だ」と言われて信じる人はいませんね。20歳から60歳までの米国人と米国軍人の死亡率を比べないといけませんね。

 「凶悪犯の犯行直前1週間の食生活を調査したところ、98%の犯人が共通して口にしている危険な食品がある事がわかった。直ちに禁止しよう」と言われても、困りますよね。だって、コメですから(笑)。

 「これまでの私の手術は、10回に1回は失敗しています。昨日の手術も失敗しました」という医者と「私の手術の成功率は90%を誇っています。昨日の手術も大成功でした」という医者がいたとして、どちらの手術を受けたいですか?統計使いの話法も、似たような所があるかもしれませんよ。

正しいことがベストな結果をもたらすとは限らない

 正しいことが好きだ、という人は多いですが、過ぎたるは及ばざるが如しです。某大学は教職員や学生の受動喫煙を防止するためにキャンパス内を禁煙にしたところ、皆がキャンパスを出た正門前で喫煙するようになり、かえって通勤通学途上の教職員や学生の受動喫煙が増えたそうです。

 「海の水を一口飲んだら海の水が減る」という主張をする人は、物事の本質を見誤る可能性が高いので、議論の際に迷惑となる事が少なくありません。正しいという点では絶対的に正しいので、反論しにくい所が余計厄介です。

 データに基づかない議論は危険ですが、頼りすぎるのも危険です。データは過去のものですから、データを見てもバックミラーを見ながら運転するようなものです。バブル期に不動産担保貸出を行いたい銀行員が「昨年の我が銀行の不動産担保融資は全く焦げ付いていません。不動産担保融資は安全だから大いに注力しましょう」と語ったとか。これには上司も反論しにくかったでしょうね。

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