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【民主主義インタビュー】自由、民主主義、多国間主義を守るため、アジアのリーダーシップは不可欠 / ハッサン・ウィラユダ(インドネシア元外相)

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人権侵害には、内政干渉の原則

 ところが、アジアの国々の多くは、この普遍的価値を必ずしも共有していません。アジアにはアジアの価値観があるという理屈です。また、内政不干渉を挙げ、人権に関する議論は国内で済ませてしまう、国外の干渉が入ってくることを許さないという傾向があります。

 私は、これまでアジアの国々に対してまず「人権とは何か」ということを訴えてきました。先ほど言いました、平等、自由など、民主主義で保障されている自由にはどのようなものがあるのかを皆に分かってもらうと同時に、特に「内政干渉の原則」について説明を重ねて参りました。1993年に、「人権に対する侵害があった場合、それは国際問題である」という判断がされました。というわけで、先ほど工藤さんがおっしゃったことに繋がっているのですが、「人権」というのは普遍的な価値、世界規模の問題です。例えば、他国で人権侵害が起きていたら、私たちはそこに目を向けなくてはならないですし、人権侵害が起きているということを声高に訴える必要があります。

工藤:今の話が私の非常に大きな関心で、人権なり民主的な価値というのは、政治体制の違いではなく「人類の財産」だと思っています。ですから国連憲章にも書かれている。国連の方とこの問題を議論したときに、「確かに国連憲章にある人権とは民主主義そのものである」と彼らは認めたのですが、しかし今の国連は、違う政治体制の人がいるので、世界に大きく広めることはできないと言われました。ですから「民間でやってほしい、我々はサポートしたい」と言われたのです。

 そして2つ目の関心ですが、これは答えがないかもしれませんが、中国のデジタル技術の飛躍的な発展をみると、個人の情報を管理していく技術がかなり一般化して、それを世界に普及し始めています。つまり、個人情報が管理され、「個人の自由が制約されている社会」というものが世界の中で広まる傾向が出てきた。この問題を我々はどのように考えればよいでしょうか。

中国国民は、パンのみで生きる?

ハッサン:答えはないのですが個人的なコメントです。人権と民主主義の間には、非常に近い関連性があります。やはり、民主主義でない政府が、人権を促進して保護する例はほとんどないです。中国のような国では、個人情報が管理されているだけではなく、市民の生活も政府によって管理されています。また、表現の自由や結社の自由などのその他の権利についても非常に制約されている社会です。また、選挙権についても、中国の場合は共産党の党首を中国の人々が選ぶのではなく、党内で選んでいきますので、そのような自由も人々は持っていません。確かに中国の経済は目覚ましい発展と遂げていて、中間層の人数も非常に増加しています。ただ、中国国民が食べ物に不自由せず、教育の水準が上がってくれば、次に人々が望むのは、間違いなく「さらなる自由」を求めることではないでしょうか。パンだけでは人々は生きていけないものだからです。人間というのは、ある程度満たされたら必ず自由を望むものです。

工藤:民主主義の危機に直面し、民主主義に関する様々な問題を考える機会が増えました。国連の問題も含め、今まで議論してこなかった様々な問題を話し合うタイミングに来ていると思います。

ハッサン氏:ジュネーブで勤務していた時に、国連の方とはたくさんの協議を行ってきました。私の結論としては、「民主主義がなければ人権は無し」ということです。当時インドネシアは軍事政権でした。私は1989年に、インドネシアで人権に関するナショナル・コミッション(全国委員会)を設立すべきであると主張し、設立を主導しました。軍事政権時代のことでしたが、設立することができました。

工藤:人権の問題は1つ大きく考えなければならない問題だと今感じました。

人権と民主主義は同時に推進すべき

ハッサン氏:2008年には、ASEANに人権委員会をつくるべきだと主張し、私はそのリーダーを務めました。しかし、人権の保護・促進だけでは意味がなく、やはり、人権と民主主義は同時に推進しなければならないものだと感じます。インドネシアでは確かに民主主義への転換はうまくいきましたが、ASEAN諸国においては決してそうではありません。時間もかかりますし、忍耐も必要です。

工藤:今私たちが考えなければならない論点を整理した方がいいのではないかと思ったのです。日本の中では、民主主義を機能させるための様々な制度的改革をしなければならないし、多くの国民が問題意識を共有しなければならない。「民主主義」というものをもう1度しっかり考えるべきであると思っています。人権や普遍的価値、これらの保護と促進として、国連の役割はなにか、議論しなければなりません。今、マルチラテラリズムな仕組みが危機にある中、一国主義はナショナリズムになる危険があります。やはり「マルチラテラル」と「民主主義」の2つの問題を真剣に皆で考えなくてはならないと感じました。

ハッサン:その通りだと思います。マルチラテラリズムを守ることが、世界的には民主主義の保護の要です。

工藤:民主主義や多国間主義について、国際的に皆で話し合い、協力する場が必要です。ありがとうございました。

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