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役員報酬の隠蔽は、ゴーン氏主導か、会社主導か

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「司法取引」はどのように使われたのか

今回の事件では、今年6月の刑訴法改正で施行された日本版司法取引が使われたようだが、それをどう評価するかだ。

司法取引の初適用事案となった、タイの発電所建設事業をめぐる不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)事件では、事業を受注した「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)と、捜査している東京地検特捜部との間で、法人の刑事責任を免れる見返りに、不正に関与した社員への捜査に協力する司法取引が行われたが、この事例では、犯罪によって事業上の利益を得る「会社」が免責されるのと引き換えに、犯罪行為に関わった「社員」の刑事責任を追及する方向での「取引合意」だったことが「想定とは逆」だと受け止められ、世の中やマスコミには評判はあまり良くなかった。

今回の日産の事件では、ゴーン氏の部下と検察官との間で司法取引が成立したと報じられており(11月20日朝日新聞)、下位者と取引をして捜査に協力させることで上位者の犯罪事実を明らかにするという、司法取引の本来の目的に沿う適用と一応は言えるだろう。しかし、この有価証券報告書への虚偽記載の事件について、何が「司法取引によって引き出された供述」なのか、よくわからない。

自宅の提供、家賃の支払等が役員報酬だとしても、それについては客観的な立証が可能であり、特に、司法取引による供述が必要だとは思えない。考えられることは、有価証券報告書に虚偽記載して提出することについての担当者との共謀についての供述だが、それについてゴーン氏の部下と検察官との司法取引が成立したのだとすると、ゴーン氏は有価証券報告書の作成に相当深く関わっていたことになる。

司法取引による供述については、立法時から「引き込み」による冤罪の危険が指摘されてきた。ゴーン氏の犯罪事実立証についても、その恐れがないかを慎重に見極める必要があるだろう。

また、司法取引の初適用事案と同様に、日産が会社として捜査に協力したことの見返りに有価証券報告書の虚偽記載罪についての法人処罰を免れる司法取引が行われる可能性もある。もっとも、金融商品取引法の虚偽記載罪の罰金の上限は7億円なので、会社として起訴を免れることの経済的利益はそれ程大きくはない。法人処罰を免れることで、捜査への協力が評価されたという事実をアピールすることにメリットはあるが、ゴーン氏への正規の方法ではない役員報酬の支払が、会社主導で行われていた事実があるとすると、それについて会社として負うべき責任が、ゴーン氏への捜査協力によって免除されることには違和感を覚えないでもない。

検察捜査・司法判断だけでは「ゴーン時代」を終焉させることはできない

ゴーン氏の認否は明らかになっていないが、常識的にみれば、全面否認、徹底抗戦の可能性が高いであろう。その背景となるのは、経営者の報酬についての「海外基準」の考え方だろう。

一方、西川社長は、昨日の会見で、「日産のV字回復は個人に帰するものというより従業員すべての努力の結果だ。」と述べ、まさに「日本基準」の考え方を強調していた。その西川社長中心の社内調査と連携してゴーン氏を逮捕した検察も、もはや「引き返すこと」はあり得ない。

今後の検察の捜査の対象となっていくのは、事実上、容疑事実とされている2011年以降に限られる。

そういう意味で、重要となるのは、今後日産が設置する調査組織の体制だ。ゴーン氏と、そのゴーン氏の犯罪を検察に持ち込んだ会社幹部らのいずれからも独立した第三者委員会を設置し、中立的・客観的な立場から調査を行うことで、ゴーン氏就任以降、報酬がどのように決められてきたか、そこに会社幹部がどのように関わってきたのかを明らかにし、それを通して、ゴーン氏の役員報酬がどのような形でどのように支払われたのか、その一部が隠匿されたとすると、それは、ゴーン氏主導なのか、会社組織主導なのかを明らかにする必要がある。

ゴーン氏は、「日産が90年代の苦境からV字回復を遂げた」という一つの歴史を築いた。検察捜査と司法判断にすべてを委ねただけでは「ゴーン氏の時代」を終焉させることはできない。そのゴーン経営と会社組織とがどのような関係であったのか、会社幹部はどう行動してきたのかを明らかにしたうえで、全体を総括する必要があるだろう。

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