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外国人労働力の受け入れは2025年からでも間に合う 拙速な議論は将来に禍根を残す - 島澤 諭 (中部圏社会経済研究所研究部長)

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強まる企業の人手不足感

 日本銀行が先月1日に発表した9月の「全国企業短期経済観測調査(日銀短観)」によれば、中小企業を中心に企業の人手不足感が深刻化している。実際、企業の従業員の過剰感を示す雇用人員判断DIは▲33(マイナスは不足感が強いことを表す)と、バブル期1992年3月以降では最大の水準を示している。

 こうした深刻化する一方の人手不足に対処するため、また、国際競争力の維持を優先し賃上げに消極的な産業界からの強い要請を受け、安倍内閣では、外国人労働者の受け入れを拡大する「入管難民法改正案」を12月10日の今国会の会期末までに成立させ、来年4月1日に導入することを目指している。

 同改正案の目玉は、一定の技能が必要な業務に就く「特定技能1号」と、熟練技能が必要な「特定技能2号」という新たな在留資格の創設である。1号は在留期限が通算5年で家族の帯同は認められないのはこれまでと同様であるのに対して、2号は在留期限を更新でき、さらに配偶者と子どもを帯同できることになる。これまで、高度専門人材に限ってきた外国人労働者の受け入れを単純労働にも広げることになり、さらに2号に関してはこれまでの移民禁止政策から実質的な移民受け入れ政策への大転換とも受け取れる。

外国人労働者に対する漠然とした不安と高まる依存

 一方、国民の間では、全面的な外国人労働者の受け入れに対して、職を奪われるかもしれない恐怖、治安悪化や生活文化の違いからくる様々な軋轢への懸念等から依然アレルギーが強い。また、あらゆる事象を政権批判に結び付け、支持率を上げたい野党は、国民の漠然とした不安に付け込んで、政府の再三にわたる否定にもかかわらず同改正案は実質的に移民に門戸を全面的に開放するものに他ならないとして政権批判に利用し、国民の不安を煽っている。

 しかし、現実には、農業や建設業では技能実習生が、コンビニでは留学生が活躍し、彼ら彼女らなしには現場が回らないほど外国人労働力への依存が進んでいるのも事実だ。厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況」によると、2017年10月末の外国人労働者数は128万人と、調査開始以来、初めて100万人を超えた昨年の108.4万人から+18%増加し、過去最多を更新している。

外国人労働力の受け入れを政争の具とするな

 日本経済の屋台骨を支える中小・零細企業の人手不足に対して早急な対応策が必要な事情も理解できる一方、欧州の移民政策の帰結に鑑みると、たった1カ月程度の議論で事実上の移民受け入れへと舵を切ってしまうのは拙速であるとの批判も説得力がある。

 しかし、外国人を労働力として受け入れるにしても、移民として受け入れるにしても、建前とは言えこれまで外国人の受け入れを全面禁止していた政策の方針転換を図るのであるから、財界の一時的な利益のためでも、政権批判の道具や政争の具とするのでもなく、国民の総意が奈辺にあるのか確かめつつ、政党間で建設的な議論を行うことで、将来に禍根を残さない意思決定を行う必要があることは論を待たない。

 なお、外国人労働力を受け入れるにあたっては、様々な課題があるが、本記事ではそうした側面については一切割愛し、政府や財界が主張するように、現在や将来の日本が人手不足であるとして、どの程度の外国人を労働力として受け入れる必要があるのか、その数を定量的に明らかにすることに焦点を当てていることに留意願えれば幸いである。

将来の人手不足はどれほど?

 法務省は、14日、14業種別の外国人労働力の受け入れ規模(の上限)を国会に提示した。それによると、現時点での人手不足は58.6万人、5年後には145.5万人にまで拡大するとしている。その穴埋めとして、2019年度から5年間で26.3万~34.5万人の外国人労働力の受け入れを見込み、19年では3.3万~4.8万人を受け入れの方針としているようだ。この試算がどのような前提のもとで弾き出されたものであるかについての情報は全くないが、いずれにしても、一定の仮定を置いた上で、具体的な人手不足の数やそれを埋め合わせるのに必要な外国人労働力の数を求めているはずだ。

 本記事では、まず、(1)2017年の年齢別・性別就業率を求め、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口(中位推計)」の年齢別・性別人口に掛け合わせることで、2065年までの就業者人口の推移を求めた。次に、(2)2000年から2016年までの平均経済成長率を潜在成長力とみなし、いわゆる成長会計の手法によって、資本ストック、労働力、生産性の貢献分に分解し、同期間の資本ストック及び生産性の貢献分を将来にわたっても一定と据え置いた上で潜在成長率を今後も維持するのに必要な労働力(就業者数)を求めた。そして、(3)(1)で求めた就業者数と(2)で求めた就業者数の差分を不足する労働力として機械的に算出した1

 その結果は、図1の通りである。2018年時点で6515万人の就業者は、少子化、高齢化とともに2065年には4121万人にまで減少する。一方、1%弱の潜在成長率を維持するのに必要な就業者数は2018年では6570万人強であるが、2065年には6726万人程度にまで増加する。その結果、人手不足は2018年には56万人であるものが次第に拡大し、2065年には2600万人強にまで深刻化する2。要するに、2065年には累計で2600万人強の外国人労働力を導入しなければ、1%弱の潜在成長率を維持することができないのだ。その結果、2065年の労働力の2.6人に1人強が外国人という計算になる。今回の外国人労働者の受け入れをきっかけとして、なし崩し的に日本の国のかたちが変わってしまうとの懸念が根強いのも納得できる。

 以上のような本試算に対して、法務省の試算は、試算の前提が異なるにもかかわらず、足元の人手不足数はほぼ同数となっているが、法務省が示した人手不足の見込み数は14業種に限定されていることもあるからか、5年後の人手不足見込み数は控えめな数字となっている。意地悪な見方をすれば、外国人労働力導入がいかに切迫しているかを示すために足元の数字は大きく見せ、しかし、外国人が増えすぎることに対する国民の懸念を軽減するために将来の見込みは小さく見せているとも受け取れる。やはり、法務省の試算はどのような前提条件を用いてなされたのか、建設的な議論をし、賛成派も反対派も納得できる結論を得られるようにするためにも公表する必要があるのではなかろうか。

 ところで、法務省の提示する足元で58.6万人、5年後では145.5万人という人手不足の水準は、日本の国の形を変えるトリガーを引いてしまうだろう外国人労働力受け入れに関して1カ月弱で是非を決しなければならないほど深刻と言えるのか、疑問を持たれても不思議ではない。


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