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「晩婚化はなぜ生じているのか」―筒井淳也氏の語る日本人が結婚しなくなった理由

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日本の少子化は「未知の領域」に突入しつつある

―これ以上、少子化が進むと、社会保障などの面でさまざまなデメリットがあると思うのですが。

筒井氏:子どもの数が減るというのは問題です。というよりも、問題かどうかさえわからない未知の領域に日本はいるんです。少子化の影響というのは、経験的にはじつはよくわからないんです。日本ぐらい少子高齢化が進んでいる国は他にないですから。もう先頭をつっぱしっているわけです。もちろん、たとえば経済不況には少子化の影響があると現状では言えないのかもしれない。しかし将来的にはわからないですし、もしからしたらものすごく恐ろしいことになる可能性もある。これを果たして放っておいていいのか、という声は当然出てくる。

―問題かどうかすら現状ではわからない。

将来人口の予測は、数ある予測のうちでも確度が高いものですから、年金の維持可能性の推計などに利用されますし、このように比較的予測しやすい問題というのはもちろんあります。ただ、なにしろ前例がないですから、予想外の問題が現れることも十分考えられます。

少し話が変わるのですが、皆さんに、こういう風に考えたらどうでしょうという提案をさせて欲しいと思います。

どうしても社会保障についての議論では、政府が大きいか小さいかという話しになりがちです。ところが、小さな政府と大きな政府の代表として、それぞれ取り上げられるアメリカでも北欧諸国でも、子育てや福祉に掛かっている資金の総量というのは、じつはほぼ同じなんです。福祉に使うお金が、政府を経由しているかどうか。ただそれだけの差なんです。

そこで問題になってくるのは、政府の大きさではなく、政府を経由して福祉をやるのか、民間を上手く活用することで市場の中で解決していくのか、という点です。どちらにせよ大事なのは結果です。

社会保障の重要な目的のひとつは、人口構成比を健康なものにキープする、つまり、あまり頭でっかちな人口構成にならないようにすることです。その点、アメリカは出生力が高い。移民の影響ももちろん大きいですけど、マジョリティも子どもを生んでいます。それに失敗しているのが、日本とかドイツ、イタリアなどです。いずれもアメリカよりは政府による社会保障支出は大きい国です。つまり政府が大きいかどうかというのと、子どもが生まれなくなっているかどうかは関係ないんです。

政府を活用するやり方だと格差を緩和できますから、もちろん政府活用か市場活用かが無差別であるわけではないです。ただ、さきほどお話ししたとおり、どちらかでも有効活用する制度設計が必要です。

―日本で安心して結婚できる社会をつくるには、どうすればよいでしょうか

筒井氏:同棲も含めてカップル形成がやりやすい社会というのは大事だと思います。婚外子差別など、制度を改めるべきところは早急に改め、他方で雇用の総量を増やし、ミスマッチを減らすことです。

多くの人が陥りやすい傾向として、問題があったときに「万能薬」を求めたがるということがあります。しかし世の中の問題には、根本的な治療薬がないことの方が多いでしょう。そんなものを待っているヒマがあれば、細かいことでもやれることはすべて随時やる必要があるんです。「これもやらなきゃいけない、あれもやらなきゃいけない」というと、「この人本当に問題の本質をわかっているのかな?」と思われてしまうかもしれないのですが、社会問題というのは絶対的なひとつの原因があるわけではありません。複合的な問題があって、はじめて社会問題になる。やれることをパッチワーク的にやっていく必要がある。

たとえば、「製造業ではこれ以上雇用の増加が見込めない」といわれています。じゃあ、そう言われているからあきらめていいかというと、そういうわけではない。アメリカは製造業から金融・ITの方に軸足を移したといわれています。この産業構造の変化によって、雇用の総量はあまり増えなかったといわれているのですが、経済成長をキープしてきたという解釈もある。ところが、最近の動きではアメリカで製造業が復活する兆しもあるんですね。つまり、それに向けた何らかの動きをしてきたはずなんです。

このように、かつてのような成長が見込めないからといって、何もやらなくていいという話にはならないはずなんです。これは本当にパッチワーク的にやっていく必要があって、こちらでも必要なことをやり、あちらでも必要なことをやるという話です。

医療と福祉であまり生産性の向上が見込めないのではないかとわたしは先ほど言いましたが、たしかに目覚しい生産性の向上は見込めないにしろ、比較的控えめなところに水準を設定すればいくらでも改善の余地がある。そういうことはもちろんやるべきです。

―具体的にはどのようなことでしょうか

筒井氏:たとえば、最近医療の分野では、レセプトの電子化・オンライン化という課題があります。これも昔から言われていますが、施設によっては進展が遅いですよね。こういうことは、効率化のためにやらなければいけないと思います。また、遠隔医療というのは将来絶対必要になると思います。在宅医療へのシフトがいま進んでいますから、コストがかからない医療ということで遠隔医療のイノベーションというのは当然必要になります。

また、同じように在宅医療が普及していけば、ケアワーカーがいろんな地域を回ることになります。そうなれば、小さなコミュニティの中にコンパクトに人が住んでいれば巡回しやすい。その意味ではコンパクトシティという構想も長期的には考える必要がある。このように、やれることは、本当にワンサカあるんですよ。

結婚できないこと、子どもを持ちたくても持てないことは、多様な問題の集積です。雇用の問題でもあり、意識の問題でもあり、そしてもちろん教育費の問題でもあるでしょう。当たり前といえば当たり前のことなのですが、わたしは「いくつかの問題の集積なんだ」ということを強調したいのです。

もちろんデータ分析によって「この問題は<比較的>大きいだろう」というような方針を示すことは大事です。しかし万能薬はありません。しばしば「制度を変えないと個々の努力では社会は変わらない」とか、逆に「個々人が変えていく努力をしないと、制度ではものごとは変わらない」とか、そういう言い方がされることがあります。でも両方とも大事ですよね。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

筒井淳也(つつい・じゅんや) 1970年生まれ。一橋大学社会学部卒業、同大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、立命館大学産業社会学部准教授。専門は家族社会学・計量社会学。著書に『制度と再帰性の社会学 (リベラ・シリーズ (8))』(ハーベスト社、2006)『親密性の社会学―縮小する家族のゆくえ (SEKAISHISO SEMINAR)』(世界思想社、2008)など
・BLOGOSページ:筒井淳也










冒頭でも紹介したように、本シリーズでは、読後にユーザーが感じた意見に対する解答記事の掲載を予定しています。コメント欄や議論ページを通じて、寄せられた意見・異論・反論を基に次回のインタビューを実施しますので、議論への積極的な参加を期待しています。

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