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「晩婚化はなぜ生じているのか」―筒井淳也氏の語る日本人が結婚しなくなった理由

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カップルは”安定した雇用の数”だけしか成立しない

―では、婚姻率を上げるためには、どのような政策が必要なのでしょうか

筒井氏:一番大きいのは経済成長です。安定した雇用を確保していくのが一番手っ取り早い。経済を成長、安定化させて雇用を確保する。もうひとつ、社会学的な観点から重要だと考えられることとしては、労働市場のミスマッチがあります。この不況のなかでも、労働需要のある業種や職種はあります。一番人手不足なのは医療分野。それから福祉、いわゆる介護職というのは比較的人手が不足しやすい。

逆に人が余っているのは製造業とか建設業です。これらの業界は求人倍率が非常に低い。ようするにその業界で働きたいと希望している人は多いが、受け皿の求人がない。そうすると、製造業や建築業界を希望している人たちを医療や福祉の分野にまわしていくしかないのですが、これは上手く行かない。スキルの転換が上手く行かないということもあるのですが、最大の原因はやはり低賃金です。

じつはこの労働市場のミスマッチと、先ほどからお話ししている結婚のミスマッチというのは連動している部分があるんです。「雇用が供給されないと結婚が減る」と先ほど指摘しましたが、その逆の影響もあるんじゃないかと思うのです。つまり、「結婚がないと(特定の職種に)労働力が供給されない」ということです。

福祉業界では、製造業や建設業ほど安定した所得は望めません。福祉業界で働いている男性がいたとして、その男性の昇給がどれくらい見込めるのか、どれくらい安定しているのかを考えると、女性側としてもなかなかその男性と結婚する決断はできないかもしれない。働いている本人も結婚できるのかなと不安を抱くはずなんです。実際、社会福祉法人なんかで働いている男性の離職率は高いんですね。女性より男性の方が離職率高い。つまり、ここじゃなく他のところで働かないと自分は結婚できないと思っている可能性が高いんです。

では、なぜいままでそういう職が成り立ってきたかというと、基本的にはパートタイムの女性が働いていたからです。パートタイムの既婚女性は賃金が安くてすみます。なぜなら旦那さんが稼いでいるからです。ということは、いわゆる低賃金労働が成立するためには、他方で配偶者あるいは親が安定した所得を稼いでいる必要がある。要するに、安定した職の数だけしか、不安定な職には労働力が向かないはずなんです。それ以外の、安定所得を持つ人が同一世帯内にいないのに非正規職にしか就けない人が増えると、社会全体が不安定化します。

昔は、夫が働いていたら、奥さんの方はパート、最近で言えば派遣というかたちで企業が求めているような非正規の職を埋めることができた。いまは未婚の女性あるいは未婚の男性がそこに進出してきている。そこであてにしているのは、配偶者ではなく親の所得です。実家に住んでいないと、はっきりいってパートではやっていけない。いわゆるパラサイトシングルということになる。これは結婚しているパートの女性とは違って将来親の方が先に所得がなくなりますので、潜在的には不安定になるはずなんです。これも変えていく必要がある。

―つまり、安定した雇用の数だけしかカップルは生まれないということですか?

筒井氏:そうです。そして「安定した雇用」の数しか不安定な雇用には労働力が生まれません。それはそうですよね。夫だろうが親だろうが、同じ世帯に安定した所得のある人がいるから、自分は低賃金労働でもつづけられるわけなので。そうすると、安定した雇用が減れば、結婚が減り、したがって非正規・低賃金職への労働供給も小さくなる。福祉業界が低賃金であるかぎり、こういった問題は継続するでしょう。

―少子化が進む中では、福祉産業の方が産業としての成長性が高いんじゃないかという意見もありますが。

もちろん福祉産業では大きな雇用が見込めるし、まだまだ成長の伸び代はあるでしょう。ところが、福祉産業に製造業や建築業と同じレベルでの生産性を期待できるかというと、難しいと思うのです。基本的に福祉は対人的なサービスです。対人サービスは効率化しにくい分野です。人を減らすと、サービスの提供ができなくなるか、提供するサービスの質が低下する。そして効率化しにくいということは、同じ労働力で稼ぐお金が相対的に少なくなる、ということです。すると、かつて製造業が日本を引っ張ってきたときにみられたような所得上昇効果を、福祉の分野に求めるのは難しいだろうと考えられる。

じゃあ諸外国はどうしているかというと、アメリカやカナダにはフィリピンなどの東南アジアからの移民が比較的安価なケア労働者として入ってきています。女性は市場でこのサービスを入手して、自分はキャリアを積んでいくことができる。また、スウェーデンなどの北欧の国では、政府が女性を雇用することで、賃金を引き上げている。その際、他方で民間の競争力を高めることで歳入を確保しようとします。他で稼いで、政府が介護職に比較的安定した賃金を確保するというやり方です。ケア労働市場を成立させるためには、このふたつのやり方があります。大雑把に言えば、グローバルな市場からケアサービスを調達するか、政府が供給するか、です。もうひとつは、日本のように安定した所得のある夫を持つ主婦にやってもらうというやり方で、これは家族による福祉の供給です。

この3番目のやり方はつづきません。安定した雇用の数だけしか、潜在的に不安定な雇用に労働力を提供できないわけですから。じゃあどうするか。移民を受け入れるか、政府が比較的手厚く雇用してあげるのか。後者の方法、つまり政府が介護職なり福祉の賃金を引き上げて、男女の賃金格差を減らしていくやり方をとった場合には、市場を活用して他の分野で経済を活性化させる必要があります。イノベーションが望める分野をどんどん伸ばしていくしかない。スウェーデンはそれやっていますよね。

日本のシステムのほころびは、せっかくある市場と政府の仕組みを両方ともうまく活用できていないところにあるんじゃないかと思うのです。「家族と企業による福祉」から、「市場と政府による福祉」にうまく転換しないと、少なくとも少子化にともなう問題は解決できません。

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