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「晩婚化はなぜ生じているのか」―筒井淳也氏の語る日本人が結婚しなくなった理由

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社会学者の筒井淳也氏(撮影:野原誠治)
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現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。第3回目のテーマは、「日本人はなぜ結婚しなくなったのか」。世界でも類を見ない速度で進む少子化の原因である婚姻率の低下、晩婚化の進行はなぜ起こっているのか。この疑問を、立命館大学准教授を務める社会学者の筒井淳也氏に聞きました。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

※本シリーズは、毎月第2水曜日にSYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載し、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を第4水曜に掲載するという方式を採用しています。記事へのご意見は、コメントフォームおよび議論ページにお寄せください。締め切りは3月19日(月)正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は28日(水)を予定しております。

晩婚化の原因は”いい男”がいないから


―「結婚」というと「なんとなく恋愛の延長」という捉え方をしている人も多いと思います。まず筒井先生の考える「結婚」の定義を教えてください。

筒井淳也氏(以下、筒井氏):結婚と恋愛の一番の違いは、結婚には複合的なメリットがあることです。まずあげられるメリットとしては、メンタル面での満足を得られること。これは、もちろん恋愛関係においても可能ですが。配偶者にさまざまな相談に乗ってもらったり、悩みをきいてもらったり、たんに一緒にいるだけでも幸福度はあがります。結婚すると一時的にであれ幸福度はぐっと高まる。その後わりとすぐに下がるんですけど、じつは(笑)。

でもデータを見ると、配偶者への満足度は、配偶者がどれくらい悩みを聞いてくれるかに強力に関係しています。結婚がメンタルなサポートを安定的・継続的に供給してくれるのなら、それは大きなメリットでしょう。

もうひとつは経済的な安定。これはとくに女性にとっては、いまだに日本では大きい。男女によって結婚の意味がまったく違うのが、日本の結婚の姿です。女性にとってはどうしても生活の安定ということを考えてしまう。

これに対して、男性側からみた結婚のメリットとしては、「家事サービス」の提供があげられます。配偶者に子どもの面倒、親の介護を引き受けてもらう。欧米社会ではすでに比較的平等なかたちで負担されるようになっていますが、国際比較をすると日本は男性の家事参加、育児参加が最低レベルなんです。データのとり方にもよりますが、おとなりの韓国より低いといわれている。結婚の意味が、男女で非対称的になっているのが日本の結婚の姿ですね。

―若者の中には、「結婚することにメリットなんかあるの?」と思ってしまう人も多いと思うのですが

筒井氏:結婚は「メンタルなサポートの安定供給源としては、比較的効率がいいやり方だ」、というのがわたしの考えです。そうじゃないやり方、たとえば複数の友人関係によってお互いにサポートしあうというやり方もあってしかるべきだと思いますが、じゃあそれが結婚に取って代われるかというと、そこまで強力な仕組みにはならないと思います。これはまだ仮説に過ぎないのですが、「比較的長期間つき合っている、相手の事情がわかっている間柄であれば、アド・ホックな付き合いよりも、それだけ効率的に相手を支えることができるのではないか」と思うのです。

メンタルな満足と同時に、もうひとつわたしが結婚のメリットだと考えているのは、保険の機能です。自分が倒れたときに誰が自分を支えてくれるのか。兄弟はおそらく自分の家族や配偶者を支えるので精一杯。親は先に死にます。このように考えていけば、やはり配偶者に最終的な安心を求めたくなる気持ちは、とくに50、60代になれば大きくなると思います。若いうちはとてもそうは思えないでしょうが。

―先ほど、日本のというお話でしたが、海外と比較した場合はどうでしょうか?海外ではシングルマザーが増えていたりですとか、法的に結婚していなくても子どもがいるケースも多いと思うのですが。

筒井氏:ヨーロッパ、アメリカでは比較的同棲が多いですよね。スウェーデンでは結婚しているカップルよりも、同棲のカップルの方が多いといわれているぐらいです。自分の両親が結婚していないというのはごく普通の状態です。もちろん文化の違いもあると思いますが、婚外子に対する法的な差別がないというのが一番大きな理由です。

同棲の意味も国によって微妙に異なる部分があります。アメリカでは、どちらかといえば、結婚の前段階という意識が強い。「結婚の前にとりあえず同棲してみよう」「それで安定しているようなら結婚しよう」という考え方が多いのです。ヨーロッパでは、結婚の代わり、結婚か同棲かどちらか選ぼうという考え方が相対的に多くて、同じ同棲といっても少し意味が違う。少子化という観点からいえば、婚外子が出生力を支えている面が非常に強いので、人口学者の間などでは、「もう同棲を増やすしかない。婚外子差別をなくすしかない」という意見も出ています。

―日本では「婚姻率の低下=出生率の低下」と考えることができると思います。日本人が結婚しなくなった理由を教えてください。

筒井氏:これは教科書的な話になるんですが、誤解されているところもあるので、体系的にお話しさせてください。

少子化の原因はまず大きくふたつに分けることができます。ひとつは晩婚化。もうひとつは、結婚しても子どもを生まなくなっているということ。このふたつの要因があるのですが、大きいのは晩婚化です。現在までの日本の少子化の原因は8割がた、晩婚化で説明できるのではないかといわれています。

では、なぜ晩婚化が進んでいるのか。この疑問については、ふたつ対立している学説があります。ひとつはミスマッチ。これはいわゆる「結婚しようにもいい男がいない」という問題です。「いい男」というのは見た目のことではなくて、「安定した将来を見込める男」という意味です。安定した所得を見込めるような職についている男性がどんどん減っている。要するに、根本原因は経済だとする説です。安定した雇用を経済が提供できていないことによって、男性側も結婚に踏み切れないし、女性側も「コイツとは結婚できない」「相手がいない」となってしまう。これが「ミスマッチ仮説」です。もうひとつは女性が高学歴化し、キャリアを追求できる職についた場合に、結婚が仕事の妨げになるので結婚しなくなっている、という説です。これは「機会費用仮説」ですね。

このふたつ、どちらが原因なのかということがよく議論されています。先日の日経新聞では、女性の高学歴化を背景にした機会費用、女性の社会進出が問題なのではないかという記事が載っていました。メディアでは比較的、機会費用仮説が取り上げられることが多いと思います。しかし、じつは日本に関しては、そうではないという実証研究が多いのです。つまり、ミスマッチが最大の原因だと考えられます。

―経済状況が悪化した結果、従来の結婚、女性が男性に安定した職を求めるという前提が崩れているということですか。

筒井氏:そちらの方が日本の晩婚化の原因をよく説明していると思います。じつはアメリカでもミスマッチ仮説の方が説得力があるといわれている。日本ではそれほど大きな差はないのですが、アメリカでは高学歴女性のほうが早く結婚しているという実証研究があります。なぜかというと男性側がそういう女性を探すからです。つまり、男性が自分の生活を安定させてくれる女性を探すわけです。

―日本の場合は、男性側に心理的抵抗が強いと思うのですが。

筒井氏:アメリカでは女性の高学歴化が、結婚を促進させる要因になっている部分もあります。しかし、日本ではそうならない。ひたすら男性の雇用が不安定化することの悪影響しか出てこなくなっているわけです。

―日本的な労働慣習が原因になっている部分もあるのでしょうか?

筒井氏:ミスマッチが起きた際に、それを緩和できる条件が諸外国にはあると思います。先ほど申し上げたように、たとえば女性が稼いでいれば結婚の条件が整った、と考える人がそこそこいる。迷っているなら同棲という選択肢もある。ところが、日本の場合、景気が悪化して条件に合致する「いい男性」が少なくなったときに、女性側が「安定した職についている」という条件を満たしていれば結婚できるかというと、それができない。その結果、景気の悪化の要因が直接的に影響してしまいます。

ではなぜ、稼ぎのある女性と不安定な雇用についている男性が結婚しないのか。もちろん面子もあるのでしょうが、「怖い」から、というのもあるでしょう。現段階では女性側が稼いでいるとしても、「多分将来辞めさせられるだろう」「将来出世できないだろう」という予感がどうしてもある。そうすれば、結婚に踏み切れない。やっぱり「あなたがちゃんと稼ぐようになるまで結婚できない」というふうになってしまう。ところが、アメリカ、ヨーロッパではそこで結婚、あるいは同棲して子どもをつくってしまう人が少なくとも日本よりは多いわけです。

―日本の場合は、やはり「女性の出産」というのがキャリアの分断要因になっていると考えられます。育児休暇などの制度で後押しされているとはいえ、不十分な部分があるのでしょうか?

筒井氏:大企業に限られてはいますが、日本は制度面での「育児休業」というのはじつはかなり充実しています。しかし、休業を取得して復帰した後がつづかない。その後辞めてしまう。

そもそも、女性は結婚する前の離職率も高い。なぜかと言うと職場の扱いが違うからです。結婚や出産を機に離職するというのが、よく言われることなのですが、じつは結婚前にどんどん女性は会社を辞めている。その理由は「仕事がつまらない」からだと思います。「どうせ将来、会社はわたしに重要なポストを与えないだろう。それならば、いまのつまらない仕事に耐える理由はないだろう」、と考えてしまう。そういう予期があるかぎり、どうしても女性の方が先に仕事を辞めてしまう。

一方、育児休業の後はどうか? 職場に復帰した後に辞めてしまうのは、これは簡単で、「非常にきつい」働き方をさせられてしまうからです。それは至極当たり前の話で、男性的働き方を女性はできない。もっと正確な言い方をすれば、夫婦の両方が男性的な働き方をすることは不可能なのです。どちらかがパートなどでなければ家事も育児も厳しい。海外の場合は労働時間が短く、休暇も取りやすい、比較的柔軟な働き方をしている。それに対して日本は窮屈な働き方をしている。

というわけで、いま徐々に欧米で生じつつあるのは、育児休業などの整備によって女性が男性のように働けるようになったというよりは、男性の働き方が女性化している、ということです。逆にそうならないと、女性の社会進出は進まないんです。

―「ワークライフバランス」という言葉が浸透して久しいと思いますが、現実の働き方はなかなか変化しません。

筒井氏:これも同じ問題なんですよね。「出産・育児期だけ休業を保証すればそれでいいだろう」という考え方ではダメなんです。「育児休業とったよね、じゃあとはバリバリやってもらう」というのは無理なんです。子どもがいる女性は、夜10時11時までは働けない。じゃあ夫が子どもの面倒をみてくれるかというと、夫もそういう時間まで働いているから不可能です。夫婦がふたりとも男性的働き方をするというのは無理です。この問題を解決するには、労働時間を短くする規制を本気でやるしかない。ところが、政府も監督官庁も本気にならないですよね。

また、これは皆さんうすうす感づいていると思うのですが、「100%満足する仕事をしよう」と仕事の完成度を高めすぎる働き方をしているかぎり、労働時間は減らないでしょう。また、もうひとつの原因として、日本の働き方というのは「仕事単位」ではなく「人単位」で動いている。仕事を割り振るというより、人が中心になって仕事を動かしている。そうであるかぎり、休暇もとりづらいし、残業も減らない。

このやり方は、たしかになかなか変えられないです。しかし、時間がかかると思いますが、変えなければならないタイミングにきていると思います。   

―晩婚化の原因を精神面の変化に求める言説もありますよね。いわゆる男子の「草食化」といった捉え方です。

筒井氏:若い人の意識が変わってきているのは、これは間違いないです。結婚しなくてもそれほど非難されないようにはなってきていますから。昔は「結婚しない」ということは、即「人生オワッタ」みたいな感じでした。自分の親の代とか見ていると非常に不思議じゃないですか。「なんでこの男と結婚したんだろ」みたいな、見た目や性格にこだわらない結婚をしていた(笑)。いまでは考えられないですけど。それは「結婚しない」よりは良かったからです。ヤサシクなかろうが、多少クサかろうが、どんな相手だろうが結婚するしかない。でも、いまは他の選択肢がありますから。そうした価値観の変化はあると思います。

また、「カップル文化」がないというのは日本ではよく言われていますよね。欧米では「カップル単位」じゃないと人間扱いされないみたいな部分があります。たとえば、何が何でもパートナーを連れてパーティーにいかなければいけないといった場面です。ああいうプレッシャーはないですよね、日本では。そういう意味では「草食化」しやすい下地はあるのかもしれません。

しかし社会学者の多くは、あまりそこに注目しません。というのは、そういう価値観の変化があったとしても、価値観そのものに介入することはできないからです。雇用制度などとは違って、社会政策で変えられるものではないですからね。

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