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北方領土2島先行で崩れる安倍首相の足下

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■2島返還後も「主権はロシアが保持する」との考え

しかしプーチン氏は翌15日の記者会見で、2つの島を日本に引き渡しても主権はロシアが保持するとの考えを述べた。これまでもプーチン氏は「ロシアと日本のどちらに2島の主権が及ぶかは、1956年の日ソ共同宣言には書かれていない」との解釈を示している。

このように安倍首相とプーチン氏の考えは大きく食い違っている。シンガーソングライターの長谷川きよし氏や作家の野坂昭如氏が歌った「黒の舟唄」と同じように、日本とロシアの間にも「ふかくて暗い河」が流れている。今後の交渉では、そのことをしっかり自覚してかかる必要がある。

■どこまでも安倍首相が嫌いな朝日社説の書きっぷり

新聞各紙は11月16日付の社説で一斉に北方領土問題を扱った。そのなかで、朝日新聞は前述したひとコマ漫画の左横で「拙速な転換は禍根残す」との見出しを立て、冒頭からこう主張する。

「ただし、国境の画定と安全保障がからむ重大な国事である。その基本方針を変えるなら、国民と国際社会の理解を得るための説明を尽くす必要がある」

朝日社説は「ロシアに対する外交方針の転換だ」と指摘し、そうなった経緯や理由の説明を求めている。沙鴎一歩も外交方針の転換との見方には賛成だ。日本政府が「まず2島を優先して返還を求め、その後で残りの2島の返還を要求する。だから4島返還には変わりがない」と弁明したところで、やはりシンガポールの日露会談で分かったのは、日本政府の外交方針の転換である。

ただ朝日社説は返還交渉に日本が成功することよりも、方針転換しても説明しない安倍政権の体質を批判したいようだ。どこまでも安倍首相が嫌いなのだ。この社説が“アベ嫌い”だけから書かれたのだとすれば、大人げない。

■安倍首相の外交を「あいまいな決着」と酷評

そう思って読み進むと、朝日社説は「外交交渉の過程で手の内を明かすのは適切ではない。だが少なくとも今回の合意は、日本政府の方針の変化を示している。歯舞、色丹を優先し、択捉、国後は将来の課題とする『2島先行』方式に、安倍政権は踏み込もうとしているようだ」と書いたうえで、次のように主張する。

「条約を結ぶ際に、『2島返還、2島継続交渉』といったあいまいな決着はありえない。国境を最終画定させない『平和条約』は火種を先送りするものであり、両国と地域の長期的和平をめざす本来の目的にそぐわない」

朝日社説は安倍首相の外交を「あいまいな決着」と酷評する。よほど「4島返還」が正しいと思っているのか。朝日社説には保守的な考えもあるのか。いやいや、安倍首相が嫌いなだけなのだろう。

その証拠に社説の終盤でこう書いている。

「その点でこれまで安倍首相が続けてきた不十分な説明姿勢には、不安を禁じえない」
「首相が残り任期をにらみ功を焦っているとすれば危うい」

“アベ嫌い”がにじみ出ている。

■ロシアが嫌いな産経新聞は「4島返還」を主張

次にロシアが嫌いな産経新聞の社説を読んでみよう。

産経社説は「安倍首相が『2島返還』を軸にした交渉に舵を切ったとの見方が出ている」と書いたうえでこう主張する。

「そうだとすれば、共同宣言以降の60年余り、四島の返還を目指して日本が積み上げてきた領土交渉をないがしろにしかねない」
「合意が、四島返還につながる道筋を示していないのは極めて残念だ。ロシアが、日本は四島を取り戻すという立場を後退させたとみなす恐れがある」

見出しも「『56年宣言』基礎は危うい」「四島返還の原則を揺るがすな」である。産経社説はあくまでも「4島返還」なのだ。その主張はずっと変えていない。だから分かりやすい。

分量も他紙の2倍の1本社説の扱いだ。よほど安倍首相の外交方針の転換が気に食わなかったのだろう。

朝日社説も外交方針の転換を問題視しているが、産経社説と朝日社説とが大きく違うのは、産経社説は安倍首相が嫌いなわけではなく、ロシアという国そのものが嫌いなのである。

■「相手の弱みにつけ込む」のがロシアという国の体質

「先の大戦末期に、日ソ中立条約を破って参戦したソ連が、北方四島を不法占拠した。プーチン氏のロシアが行ったクリミア併合と同じ『力による現状変更』にほかならない」

産経社説がこれまでロシアを批判してきた根拠は、この「旧ソ連の日ソ中立条約を破った参戦」にある。それはロシアという国の体質なのだろう。他国が弱ったところを捉えて攻撃する。相手の弱みにつけ込む。間違いなくプーチン外交もその延長線上にある。だからこそ、日本政府は弱みを見せてはならない。

安倍首相はプーチン氏と深い信頼関係ができているという。しかし中立条約を無視した国の代表だ。プーチン氏はいつ牙をむいて襲いかかってくるか分からない。安倍首相はその辺をどこまで理解できているのだろうか。

■「国の根幹」「先祖」「子孫」という単語を並べる産経

続けて産経社説はこうも書く。

「安倍首相とプーチン氏は『戦後70年以上、平和条約が締結されていないのは異常な状態だ』との認識を示してきたが、それを招いたのは、ひとえに不法占拠を続けてきたロシア側なのである」
「領土は、国民や主権と並んで国の根幹をなすものだ。先祖から受け継いだ領土を守り、子孫に引き継ぐ。不法占拠されている領土は取り戻す。それが今に生きる世代がとるべき立場である」
「色丹、歯舞は四島の面積のうちわずか7%にすぎない。これだけが日本の求めてきた領土返還でないのは自明であろう」

「国の根幹」「先祖」「子孫」という単語が並ぶ。読売新聞以上に保守的な産経新聞だからなのだろう。沙鴎一歩はそこが嫌いなのだが、今回の主張そのものはうなずける。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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