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また解任「プロ経営者」が根付かないワケ

■3年前にも「プロ経営者」を解任しているリクシル

近年、社外から経営の専門家=プロ経営者を招き、事業戦略の立案とその執行や経営管理全体を任せる企業が増えている。海外で事業を強化している企業の場合、外国人が経営のトップに就くこともある。

ただ、プロ経営者が必ず成果を挙げるとは限らない。新しく迎え入れられた経営の専門家と、生え抜きの役員の間で、意見が対立することがあるからだ。特に、創業家出身の人物の影響力が大きい企業だと、プロ経営者は苦労しやすい。

2016年1月8日、握手するLIXILグループ次期社長の瀬戸欣哉最高執行責任者(右)と藤森義明社長(いずれも肩書きは当時)(写真=時事通信フォト)

10月31日、住宅設備大手のリクシルではプロ経営者の職を解く社長交代人事を発表した。2019年4月までに瀬戸欣哉社長が退任し、山梨広一社外取締役が社長に就任する。解任の背景には、創業家出身の取締役会議長である潮田洋一郎氏の意向があったとみられている。なおリクシルでは3年前にも「プロ経営者」の藤森義明前社長が解任されている。

■「わが国の企業にはプロ経営者は合わない」のか?

このほか最近ではライザップグループでの取締役の担当変更(前カルビー会長兼CEOの松本晃氏がCOOから構造改革担当へ)が話題になった。その他にも、ソフトバンク(後継者候補として招かれた副社長のニケシュ・アローラ氏が2016年に退任)、ファーストリテイリング(2002年、玉塚元一氏が社長に就任するも2005年に退任)などプロ経営者が解任されたケースは多い。

こうした解任劇を目にすると、「わが国の企業にはプロ経営者は合わない」といったネガティブな見方が出てくるかもしれない。しかし、短絡的にそうした結論に至るのは早計だ。プロ経営者の手法が当該企業になじむか否かは、ある程度時間をかけて判断する必要がある。

それよりも重要なポイントは、経済環境の変化に適応して行くためにしっかりした経営能力を持った人材を選ぶことだろう。それがプロ経営者だろうと社内のプロパーの人材であろうと、それが重要な判断基準とは限らない。

■一度就職すれば生涯安泰という「人生の幸福のモデル」

終身雇用や年功序列の考え方は、わが国の企業経営の特徴といわれてきた。多くの人は高校、あるいは大学を卒業した後に企業に就職し、定年を迎えるまで勤め上げることを念頭においてきた。一度就職すれば生涯安泰という考えといってよい。その意味で、わが国の企業文化の中には、終身雇用制度はわが国経済の“人生の幸福のモデル”だったといえるかもしれない。

その背景にあった要因の一つが、経済成長への期待だろう。第2次世界大戦後の復興期から高度成長期を経て、1980年代後半のバブル経済(株式と不動産の価格が急上昇した経済環境)の絶頂期まで、基本的にわが国の経済は右肩上がりのトレンドを維持してきた。企業の業績も、われわれがもらう賃金も上がるのは普通だった。

特定の企業に入り長く務めることで、人々はその恩恵(昇給、昇進、福利厚生など)を享受できたといえる。ある意味、就職さえすれば積極的にリスクを取り資産を殖やそうとしなくてもよかった時代だった。

1979年には、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と題された書籍が出版され、世界的にわが国の企業経営などへの関心が高まった。1980年代後半はバブル景気が過熱する中で多くの人が「未来永劫、株価と不動産価格は上昇する」と先行きの経済成長を過度に楽観した。

■バブル崩壊で崩れたわが国の企業文化

そうした経済環境の中、わが国企業は、組織内部で昇進を重ねた人物の登用によって、経営人材を確保してきた。彼らは、成長戦略の立案などにたけた“経営の専門家”というよりも、部門間の意見調整(根回し)などにたけた“ゼネラリスト型”の人材が多かった。それは、経営はプロに任すべきという米国などの発想とは大きく異なる。

別の視点から見ると、バブルが崩壊するまでのわが国の経済はいい時代だった。企業が積極的に新しい取り組みを進めなくても、相応の業績を達成できるだけの強さがわが国の経済にあった。その環境が、新卒で入社して昇進を重ねたゼネラリスト型の経営者登用を支えた要因の一つと考えられる。

わが国の経済が右肩上がりの状況にある間、終身雇用などの考え方は人々が安心して人生を送るために重要な役割を果たしたと考えられる。

しかし、未来永劫、経済が成長を続けることはありえない。1990年代初頭の資産バブルの崩壊後、わが国経済の幸福のモデルは、従来の機能を発揮しづらくなった。

■極端なまでにリスクを恐れ、現状維持が最優先に

特に、1997年秋以降に深刻化した“金融システム不安”のマグニチュードは大きかった。当時、国内の大手金融機関が相次いで経営破たんに陥った。金融システム不安の発生は、新卒で企業に入社し定年まで勤め上げるという従来の発想が有効ではないとの認識を多くの人々に与えたといえる。

金融システムへの不安が高まると同時に、わが国はデフレ経済(広範な物価が持続的に下落する経済環境)に陥った。デフレは先行きの経済に関する人々の不安心理が強まり、経済全体で需要が低迷することである。

その状況は、経済全体に“羹(あつもの)に懲りてなますを吹く”が如き心理が浸透した状況と例えられる。多くの企業経営者は、バブル崩壊後の資産価格の急落や不良債権問題の深刻化、経済活動の低迷に直面し、極端なまでにリスクテイクに慎重になった。その代わりに、現状維持を優先する心理が強くなった。

■経営者のマネジメント能力は重要性を増している

一方、海外では新興国経済が成長し、技術面でのキャッチアップが進んだ。1980年代にわが国の電機メーカーがシェアを席巻した半導体市場では、韓国や台湾の企業がシェアを高めた。2018年上半期の半導体市場のシェアを見ると、トップ15位にランクインしている日本企業は東芝グループ(東芝と日米韓の企業連合に売却された東芝メモリ)だけだ。

結果的にみると、環境の変化に対して、従来型の経営では十分な改革を進め適応することが難しかった。そのため、経営の専門家である“プロ経営者”を社外から招き、変化への適応を進める考えが強くなってきた。その具体的なものが、海外企業の買収などである。また、ライザップのように企業の事業規模が急拡大する中で経営のリスク管理やコンプライアンスなどを強化するためにプロ経営者の知見を活用する企業も増えている。

わが国企業を取り巻く経済環境が大きく変化するに従い、企業は新しい取り組みを進めたり、リスク管理体制を強化するために専門家の考えを取り入れたりすることが重要になる。そのために、経営者のマネジメント能力が重要性を増すことになる。

■プロ経営者を登用することの重要性は高まっていく

企業経営に関する専門性や経験は、一朝一夕に身につくものではない。組織が大きくなるに伴い財務、コンプライアンス、人材育成をどう進めるかなど経営上の課題は増える。また、IoT技術の普及などによって新興国企業の競争力も高まっている。それは、わが国企業を取り巻く環境変化のスピードが加速化していることを意味する。

その中で企業が成長を目指すためには、効率的に経営資源を再配分していくことが必要だ。社内にその能力を持つと評価できる人物がいればよいが、企業の戦略決定などには経験が必要だ。他の企業の経営再建や業績拡大などで実績を残した専門家=プロ経営者を登用する企業が増えているのは、ある意味では当然のことだろう。

また、わが国企業がシェアを拡大するために海外の企業を買収するに伴い、外国人の専門家が取締役などに登用されるケースも増えるだろう。わが国の企業にとって、プロ経営者を登用することの重要性は高まっていくものと考えられる。

■経営判断の是非とプロ経営者登用の是非は無関係

それに伴い、創業者一族や周囲の取締役などとプロ経営者の意見が食い違うケースも出てくるだろう。その一例がリクシルにおけるプロ経営者の解任や、ライザップでの取締役の担当変更だ。両社の経営判断の是非がプロ経営者登用の是非につながるわけではない。また、この2つの企業の判断が、経営にプラス、マイナス、どちらに働くかは時間をかけて考えていくしかない。

変化のスピードが加速化している中で企業が持続的な成長を目指すためには、専門知識とその実践経験に富む人材の活用が求められていることは冷静に認識する必要がある。プロ経営者の登用は、企業がより長期の視点で成長をめざすための手段の一つだ。

そうした人材を内部から登用できるよう、各企業が人材育成に取り組む必要もある。その上で、社内外の知見を活かし、わが国の企業がより積極的に新しい取り組みを進め、さらなる成長を目指すことを期待する。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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