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サ高住に必要なのは多様性と役割分担(NHKスペシャル「終の住処はどこに」)

NHKスペシャル「終の住処はどこに」公式サイト

昨日やっていたNHKスペシャルがサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の特集だった。ながら見だったので細かいところは覚えていないのだが、以下のような話だった。

①特別養護老人ホームの入居対象者が原則として要介護3以上となったため、要介護1・2の軽度の要介護者が行き場をなくしており、新たな「終の棲家」としてサ高住に期待が寄せられている。

②要介護度が低くても認知症で手間のかかる入居者が多い一方、収益性確保のため人件費が削られ、サ高住の職員は疲弊している。

③入居者に対する介護報酬は要介護度によるため、要介護度が低い入居者は「採算性」が低く、入居を断られるケースもある。

④要介護度が改善すると収入が減る現在の介護保険制度は問題ではないか。終の棲家はどこにあるのか。

NHKスペシャル | シリーズ 人生100年時代を生きる第1回 終(つい)の住処(すみか)はどこに

印象的だったのは、労務環境改善のために社長に人員増を直談判しようとしたものの、収支がマイナスで人件費抑制をさらに要求されたシーンと、要介護度が軽い入居者に退去を促すシーン。

番組の中ではいろいろな話題が出ていたが、この2つのシーンに今のサ高住を取り巻く問題が集約されているように感じた。

サ高住はあくまで「高齢者向けの賃貸住宅」でしかない

番組ではサ高住を特養と並列において議論していたが、法令上の位置づけが全く異なるものを同じように取り扱うことが、そもそもの不幸の始まりではないかと思う。

特養(特別養護老人ホーム)とは介護保険法に定められた介護老人福祉施設であり、

指定介護老人福祉施設は、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難な者に対し、指定介護福祉施設サービスを提供するものとする

とされている(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号))。

常時介護が必要で居宅での介護も困難な方が対象とされており、同基準には介護職員の配置(看護職員とあわせて入所者3名に対して1名以上)や夜間の配置(ユニットケア型の場合、2ユニットにつき1名以上)などの人員配置や設備の基準など、様々なルールが定められている。重度の要介護者を想定した施設のため、重装備と手厚い配置が求められる。*1

一方で、サ高住は高齢者住まい法に定められた制度だが、「生活相談サービス」と「安否確認サービス」の2つのサービスを提供する高齢者向けの賃貸住宅であるということだけが制度上の要請であり、必ずしも要介護者を想定したものではない。

「サービス付き高齢者向け住宅」の「サービス」とは、この生活相談と安否確認を指すものであり、いわゆる介護保険サービスの付帯は自明ではなく、介護職員の配置も義務付けられてはいない。サ高住のことを「施設」という方がいるが、サ高住はあくまで「住宅」であり、介護保険法上の介護保険施設ではないというのは重要なポイントだ。

"疑似特養"化するサ高住

ただし、今巷で流行しているサ高住は「住宅」とは名ばかりの「施設」であることが多いのは事実だろう。100%自己負担の家賃部分・住宅に付帯するサービスについては採算度外視の低料金で入居者を確保し、介護保険が効く介護部分については併設の介護事業所(デイサービスまたは訪問介護)で効率よく稼ぐ、というのがここ数年のサ高住の「ベストプラクティス」とされていた。常時の介護が必要な要介護者をあつめ、特養と同じようなことをしようとしている。

当初は「重介護が必要な場合は特養へ、自立~軽介護の場合はサ高住へ」という棲み分けを想定していたのに、サ高住が”疑似特養”を目指してきた結果、両社の線引きがあいまいになっている。これが番組の指摘した問題の大本にあるのではないかと思う。

番組では、認知症の方を断る、要介護度の低い方に退去を促すなど、入居者を「選別」することに対してネガティブな取り上げ方をしていたが、私はその捉え方はおかしいと思う。

サ高住はあくまで「住宅」であり、介護の有無も含めて、その内容は事業者の裁量に委ねられている部分が大きい。重度の要介護者だけを受け入れる、医療的ケアが必要な方に対応する、自立したアクティブシニアをターゲットにする・・・サ高住は制度上の要請が少ない分、提供するサービスは異なって当然だ。

認知症も含め、24時間の監視が必要な入居者が多いなら、夜勤人員や監視・施錠設備等、いろいろな体制や投資投資が必要になる。すべてのサ高住が同じことをできるわけではない。逆に、それだけの体制を整えておきながら自立した高齢者だけが入居するとなったら人件費を賄えないし、投資回収もできない。

サービスとしてどこまで責任を負ってやっていくか、それがビジネスとして成立するのか、それぞれの事業者が線をきちんと引いておかないと、事業者にとっても入居者にとっても、お互いの不幸になるだけだろう。「のべつまくなし誰でも要介護の人を受け入れて24時間監視の下介護すべし」というのはあまりに勝手な外野の見方だろう。

また、今のサ高住の料金水準が、提供しているサービスのコストを賄えないほど安いというところも問題の一因だろう。前述のとおり、ほとんどのサ高住は入居者確保のために保険適用外の家賃部分・サービス費部分は低額に設定されており、それによって空いた収支の穴を介護保険サービスの収益で内部補填する構造になっている。肌感覚としては、入居者の年金収入や介護保険施設利用時の自己負担額が料金の目安になっている場合が多いように思うが、現実にそれで必要なコストをまかなえているサ高住は少ないだろう。

結果、要介護度が低い入居者は収益性にダブルで影響がでるため、「重い」人以外は受け入れたくない、となる。構造的に自立~軽度要介護者は行き場がない、という現象が起きている。

サ高住制度の問題というよりビジネスモデルの問題では?

今回、番組が提起した問題はサ高住制度そのものに起因するものではなく、各事業者が「どういう入居者を想定して」「どんなサービスを提供して」「どこまでの責任を負うか」「その対価をどう設定するか」を確立できていないというビジネスモデルの問題と感じた。

すべてのサ高住が24時間スタッフ常駐と手厚い介護をしなければならないわけでもないはずで、低コストでやる代わりに夜間はスタッフ配置しない・一定程度生活が自立してる人に入居を限定するとか、要介護度高い方を受け入れるけど24時間スタッフ常駐できるよう料金を高くするとか、いろんなパターンがあり得る。

サ高住は補助金も充実しており、この5年ほどの間に量的にはかなり充実してきた印象があるが、総じていうとまだまだ”疑似特養”型が多く、質的な多様化が今後の課題と感じる。すべての事業者が一から十まで頑張る、というのではなく、多様なサービスの担い手が登場し、役割分担しながら地域のいろいろなニーズに答えていく、というのが理想的な姿ではないかと思う。

*1:この基準が十分かについては議論あるところだが、今回はサ高住との対比として「重装備」「手厚い」という表現を用いた。悪しからずご理解いただきたい。

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