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若者たちにとって高齢者は幸福な世界を脅かす「難民」

【国会前でデモを行う全共闘世代に若者たちは全く共感できない AFLO】

 欧州では激増した難民にまつわる問題が若者の右傾化を招いていると言われる。日本では、海外からの難民問題はまだ発生していないが、内側に“高齢者”という難民を抱えていると作家の橘玲氏は指摘する。

 * * *

 中東やアフリカからゆたかなヨーロッパに押し寄せる難民は、さまざまな事情から、自分一人のちからでは生きていくことも家族を養うこともできなくなった「かわいそう」なひとたちだ。

 リベラルな社会は、不幸なひとは適切な援助を受ける権利があると考える。難民に住居や仕事、生活保護などを与えれば、彼らは幸福になり支援する側も満足するだろう。しかしすぐにわかるように、こうした好循環が成立するのは難民の数が少ないときだけだ。

 受け入れる難民の数が増えてくると、ひとびとはすこしずつ不安になっていく。治安が悪化するとか、低賃金の仕事を奪われるということもあるだろうが、高度な福祉国家に暮らすひとびとがもっとも恐れるのは、年金や健康保険など自分たちの既得権が失われることだ。

 彼ら/彼女たちがこれまで高い税金を払ってきたのは、老後の安心した暮らしを国家が保障していたからだ。難民救済のためにその約束を反故にされるなら、なんのためにこれまでつらい人生に耐えてきたのかわからない。こうして、世界でもっともリベラルなはずの北欧諸国で移民排斥の「極右」が台頭する。

 日本は(これまでのところ)ヨーロッパのような移民・難民問題を抱えてはいないが、社会保障制度が危機的な状況にあることは同じだ。その理由はいうまでもなく少子高齢化で、これからますます支援すべき高齢者の数は増えていく。その結果、この国の若者たちは高齢者を重荷に感じるようになってきた。

 二十代、三十代と話すときにいつも感じるのは、「どうせ自分たちは年金をもらえないんでしょ」という諦念だ。親や祖父母ならともかく、見ず知らずの老人を養うために自分や家族が犠牲になるのはおかしいと、口には出さないまでも彼らはこころのどこかで思っている。そんな若者たちにとって増えつづける高齢者は、自分たちの幸福な世界を脅かす「難民」なのだ。

 もちろん、日本がジンバブエやベネズエラのような国家破産状態になり、多くの市民が家も仕事も失って路上に放り出されるような事態が起きるとは思わない。しかしその一方で、「人生100年」時代を迎え、いまの二十代や十代、あるいはこれから生まれてくる世代に安心して暮らせるゆたかな老後を約束できるひともいないだろう。人類史上未曾有の超高齢社会は日本の避けられない運命で、人口動態はめったなことでは変わらないのだから、若者たちの不安にはたしかな根拠がある。そんな彼らが、全共闘世代の老人たちといっしょになって国会前で「民主主義を守れ」と叫ぶ同世代のグループに冷淡な視線を向けるのは当然だろう。

●たちばな・あきら/1959年生まれ。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『言ってはいけない』(新潮新書)、『朝日ぎらい』(朝日新書)、『80's エイティーズ』(太田出版)など著書多数。

※SAPIO2018年11・12月号

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