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性犯罪で13年間服役し出所した男性の訴えは社会に受け入れられるのか

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再犯防止に取り組む法務省(筆者撮影)

 性犯罪、特に児童への性犯罪をめぐっては、出所者の情報を公開しろとか、GPSをつけろとかいう声が渦巻いているように見える。2017年、刑法も一部改正され、厳罰化の動きも強まっている。

 そんななかで2018年9月下旬に懲役13年の刑期を終えて旭川刑務所を満期出所した樹月さん(仮名)の話をここで取り上げよう。再犯防止のプログラムを受講した彼が出所後、13年ぶりに復帰した社会の中で更生にどう取り組み、厳しい社会の現実にどう向かっていくのか。それをフォローし、ここで随時お伝えすることによって、性犯罪をめぐる問題について、多くの人に一緒に考えてほしいと思うからだ。

 樹月さんは出所後、家族のもとへ連絡したものの、3日間だけ泊まってよいがあとは出て行ってほしいと言われ(現実はこんなふうに厳しい)、9月18日に東京へ、そしてその後、大阪へ移った。その東京滞在中の9月19日に、既に性犯罪で10年以上服役して出所している山川さん(仮名)、ソーシャルワーカーの斉藤章佳さんと座談会を行った。こういう座談会そのものが異例だが、月刊『創』(つくる)11月号に掲載したその内容を、今回、ヤフーニュース雑誌に全文公開することにした。そしてそこで話された事柄を樹月さんらがどう実践していくのか、今後フォローして報告することにする。

 最近は、性犯罪についても厳罰だけではだめだとして法務省の推進で刑務所に再犯防止のための治療プログラムが導入されているが、樹月さんも山川さんもその受講者だ。法務省の調査では、10年以上前に導入されたそのプログラムR3は、相当の成果をあげていることになっているが、本当にそうなのか。性犯罪で重罰を科せられた出所者2人と、性犯罪の加害者臨床に立ちあっていることで最近注目を浴びている斉藤さんとの対話というのも極めて貴重な機会といえる。

 ちなみに、その治療プログラムは2004年に起きた奈良女児殺害事件を機に導入されたものだ。私は奈良女児殺害事件の小林薫元死刑囚(既に執行)とは、彼が死刑判決を受けるまでの半年間、『創』に手記を連載したことがきっかけとなって約1年間、深く関わった。その彼の事件を契機に導入された治療プログラムがどういう実態で、出所した当事者が自身の経験に照らしてその効果をどう受け止めているのか聞いてみたいと思った。

 性犯罪者はいま、日本ではまさに社会の敵として、へたをすると社会の中で集団リンチにあいかねない雰囲気だから、こんなふうにメディアに登場して発言をすること自体、異例と言える。樹月さんがなぜこういう状況の中で敢えて発言しようとしたかというと、性犯罪者を刑務所で罰するだけでなく、性犯罪治療のために社会システム、例えば薬物依存に対する互助組織ダルクのようなものを性犯罪についても作らねばいけないのでは、と考えたためだ。

 その樹月さんたちの座談会の全文や治療プログラムの具体的中身などは、この記事の末尾にそれぞれ掲載ページのURLを明示し、関心ある人にはそのページをたどっていただくことにする。座談会などは長文にわたるので、以下ここでそのエッセンスのみ紹介しよう。

 その後、樹月さんはどんな生活をしているかといえば、予想されたことだが、大変困難な状況に直面している。何せ13年間も刑務所にいたわけだから、パートや派遣の仕事であっても仕事に就くのは困難だし、生活保護も受給までに時間がかかる。パソコンもスマホもない生活だから、仕事や住まいを見つけるにも困難を極める。

 大手マスコミは、事件が発生した時、逮捕まであるいは裁判までは報道するが、その後についてはほとんどフォローしない。本当に犯罪の再発を防止するためには、刑務所に行った犯罪者がその後どう更生に取り組んでいるのか、この社会の再発防止の仕組みが果たして機能しているのか、ということこそ大事なのだが、その実情はほとんど報道もされず知られてもいない。特に薬物依存や性犯罪のような再犯が問題になる犯罪ではそうした取り組みは欠かせないのだが、その面では日本社会は大きく立ち遅れているのが現実だ。

 実際、樹月さんのケースを例にとれば、出所時の所持金は約30万円、刑務所や行政からのサポートもほとんどなく、「あとはご自由に」と放り出されている。よく調べると、自治体などで出所者への支援システムが多少出来ているところもあるのだが、それはほとんど更生をめざす人間が自分で調べ、努力しないと機能しない。そうしているうちに更生の困難さから再び犯罪を犯してしまう者が少なくない。性犯罪者にGPSをつけろという議論もよいが、その前に出所者が再び犯罪に走らないような取り組みをまず社会が行う必要があるのではないか。

樹月さんが出所土産にと持参した自身が作った刑務所作業品/筆者撮影

 そんな疑問を抱きつつ、実際に樹月さんのような出所者がどう生きていくことができるのか、追跡レポートをこれから続けようと思う。樹月さんの希望もあって、彼の出所後の生活については映像記録にも残そうと、私が紹介して某テレビ局にも追いかけてもらっている。何しろやってみないと先はわからない。樹月さんが途中で挫折すれば、彼を追いかけること自体無意味になってしまうかもしれない。

 まずは、その樹月さんが出所からわずか4日目に行った座談会の主な内容を下記に紹介しよう。全文を読みたい人はこの記事の末尾にあるURLのページにアクセスしてほしい。

出所後、13年ぶりに母親と踏み込んだ話をした

篠田 樹月さんは性犯罪で13年間服役して4日前に出所したばかりですが、外の世界はどんな感じでした?

樹月 建物とかも変わってますし、社会全体の雰囲気が違います。やっぱり全然違うなという印象です。

篠田 出所して実家のお母さんを訪ねたわけですが、ご家族はどういうふうにおっしゃっていたんですか?

樹月 13年間、不和というかほぼ断絶の状態が続いていたんです。私が、刑務所を出て「帰ってもいいか?」と言っても「3日間泊まるだけなら」という感じでした。ですが、帰って話をして少し変わりました。

 私にとっても、初めて母と正面から向き合った3日間でした。そういう中で私が13年やってきたことも説明し、昔と比べればある程度変わってきているというのが母にも伝わったらしいんです。初めて母との関係が雪解けしたという感じになりました。

篠田 すごいね、それは。服役中は手紙のやり取りはしてたんですか?

樹月 母自身は私のことを信じてなかったというか、もうこの子とは関わりたくないということで、中身のあるやり取りはできなかった感じです。

篠田 親はもう「見捨てる」に近い状況だったということ?

樹月 見捨てたいんだけども親だから見捨てられないというジレンマはあったと思います。だからといって積極的に手を出したらまた裏切られるだろう、その時の痛みがわかってるから手も出せない。

篠田 これから社会復帰するにしても大変だと思うけれど、いま性犯罪に対して世の中にものすごい逆風が吹き荒れてることは知ってるわけですね。性犯罪を犯した人に人権保障などいらないとか、GPSをつけろとか、個人情報もさらしてしまえという人もいます。

樹月 知ってます。だから出所して、マスコミで発言もしていこうと思っているのですが、家族としては協力できないと言われました。

篠田 そりゃそうですよね。家族としてはマスコミには絶対にさらされたくないでしょう。

樹月 私自身には、性犯罪の再犯をなくすための社会的な活動を今後していきたいという思いがあって、その話も母にしました。もちろん母にすればとんでもない話なわけですけど、それでも少なくとも「ああそうか、この子はそういう思いでここまでやってきたのか」ということはわかってくれた。だからようやく雪解けが始まったというところなんですね。

篠田 樹月さんとしてはこの1~2年の性犯罪に対する世の中の逆風ってどう感じていますか?

樹月 社会の逆風……当然だろうなって気はしますね。こういうふうになるのはむしろ必然というか、これまで私も含めてですが、加害者がきちんと本当のところを語ってきていないと思うんですよ。そのことのツケがここにきてるだけだろうな、という思いがあるんです。ただ逆に言うと、『創』に手記を出させてもらったりして、きちんと語れば理解してもらえることもわかってきた。そこの転換をしていかなくてはいけないと思います。》

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