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「放射能は危ない」に偏りすぎたメディアはおかしい―池田信夫氏インタビュー

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現在はエネルギー政策の議論ができる状況ではない


――あれだけの事故でしたので、感情的に「放射能が怖い」という認識が広まっていると思います。東電や政府に対する批判的な感情も相まって、今さら「放射能は安全で、一度に大量に浴びなければ問題はない」という主張は簡単には受け入れがたいと思いますが。

池田氏:経済学でもバイアスが何故起こるのかは、最近研究されています。認知的不協和と言うのですが、「自分が感じていることと違う事実を人は認めたくない」という気持ちがあります。

つまり、自分が危ないと思っている時、「危なくない」と言われても考えを改めようとしない。ある程度知性のある人は、自分の感情がおかしいと判断できる。しかしすり込みを強く受けている人は、自分の感情の方を変えようとしないから「事実が間違っている」と考える。

この状況は、1年くらいはしょうがないかなという感じがしています。チェルノブイリの時は、科学的なデータが不十分でした。だからドイツも30年近く経ってもあの頃のトラウマが抜けなくて、原発反対の世論が定着した。振り返ってみれば、ドイツでチェルノブイリによる放射性物質で発がん率が上がったというデータはまったくないわけです。ロシアでもウクライナでもない。今から考えるとおかしいのですが、あの当時は大変かもしれないとみんな思っていた。

「かもしれない」と思う時は安全側の立場にたちましょう。この主張はわからなくもない。科学的には25年経つと大体半数の人が発症します。晩発性障害でがんが起こるわけです。チェルノブイリでは4000人癌患者が増えると予想されていたので、大体2000人は増えるはずでした。しかし、まったく増えていない。作業員にさえ増えていないんです。チェルノブイリの時の予想が過大だったということは科学的にほぼ明らかなんです。

だから日本は、その時の知見をちゃんとふまえてもう少し冷静な対応をしないといけなかった。しかし、政府の情報管理がめちゃくちゃだった。おまけにNHK以外のメディアが、朝日新聞を先頭としてむちゃくちゃ言っていました。そこら辺をちゃんとしないと、ネットメディアもちゃんとしようがない。それこそ自由報道協会なんていうのは、「わーわー騒いだもんが勝ち」という発想だろうから。

――現状を鑑みた時に、今後も今までのような原子力政策を続けていくのは困難だと思います。一方で、自然エネルギーもすぐに実用化に至ることはない。であれば、今後どのようなエネルギー政策がとられていくのか。池田先生が考えられる「べき論」と「現実的にこうなっていくのではないか」という見通しをお聞かせください。

池田氏:中長期のエネルギー政策をどうするかについて、今話しても仕方ないと思っています。みんな普通の心理状態じゃないですから。むしろ、それはしばらく棚上げにした方がいい。この状態で、エネルギー政策について議論したとしても脱原発、原発反対の方向になるに決まっている。「国民投票やってみたら過半数が反対しました。それで日本の原発をすべて止める」という意思決定を、日本の政治家がするとは思えない。こんな時期にそういう議論をしても仕方ないと思います。

むしろ今は、ちゃんと被災地の人をもとに戻す。除染が必要ならやるべきですが、何兆円もかけて大規模にやる必要はないわけです。とにかく事故の現場を復旧するということが一番大事です。

その次に大事なことは、原発の再稼働です。電力会社の経営も普通に戻す。その原発に危険な点が見つかったのであれば、止める必要はあると思います。しかし、別に特段危ないということが判明したのでなければ、今まで通り原発を運転した方がいい。原発を止めることによって火力を増やすと、その方が健康に良くない。大気汚染も起こるし、それこそ地球温暖化だって起こる。燃料費だけで2兆円ほど余分にかかった、貿易赤字になったといった事実もあるわけです。

エネルギー問題をどうするかという議論が、こういう時に出てくるのはいい事だと思います。しかし、今はエネルギー政策を変更する時期ではない。何故なら、今やると原子力の話ばかりになってしまう。エネルギー全体の中で電力は3割しかありません。3割の中のさらに3分の1です。エネルギー全体の1割しかない話なのに、そこだけを問題にしてエネルギー政策を語るというのは間違っている。原子力か否かという選択を、エネルギー問題の一番大事なところだと思っている事自体がおかしい。

基本的に、エネルギーはいかに安くて良質なエネルギーを持続的・長期的に供給するか、が重要です。それに環境問題などのリスクを伴うのはやむを得ない。太陽光や風力にしても厳密に言えば環境への影響はあるわけですから。環境に対する影響や安全性などと、価格や安定供給ということは、ある種のトレードオフになっています。どらちかと言うと、原子力はリスクの少ないエネルギーだと普通は考えられています。

圧倒的に危ないのは石炭火力です。石炭は、採掘によって全世界で年間1万人以上死んでいると言われています。直接の採掘事故でそのくらい規模です。また、大気汚染で毎年数十万人死んでいると言われています。これはLNGにしたって、大気汚染で数万人死ぬということは変わらない。もちろんこれにも採掘事故はあるでしょう。石油も同じです。石油の方が採掘量が多いですから、リスクが大きいという調査結果もあるくらいです。

化石燃料の方が、地球環境に対する影響も人命に対するリスクも原子力よりはるかに大きい。原子力事故による死者は、先進国では過去50年出ていない。ソ連で事故が起きただけです。石炭火力は毎年何万人も死んでいます。化石燃料というのは非常に汚いエネルギーです。それに比べて原子力の方が相対的にはマシといえます。

もちろん今回みたいなことが起きると、心理的には反原発になってしまうのは仕方がない。しかし、出力と人命に対する被害のリスクを考えてみた場合に、日本では火力の大気汚染で年間数千人規模の被害は出ているでしょう。だから、「生命が大事だから原発を止めましょう」という人がいるなら、石炭火力もLNGも石油も全部止めないといけない。

――安全と安さと環境負荷というものがトレードオフになっており、何かを犠牲にしなければならない。ベストではないかもしれないが、ベターを選ばないといけない。その中で原子力は、こういう事故が起きてもなおベターなチョイスであることは間違いない、ということでしょうか。

池田氏:比較的リスクは少ないと思いますよ。今回は直接的には放射能が原因で死者は一人もでていないですから。

日本のメディアは、あまりにも「危ない」の方向に偏り過ぎ


――著書の中で、今後の主要なエネルギーとして天然ガスに期待できるとおっしゃっています。

池田氏:ええ。原子力を推進しようとは思っていません。原子力でなければ出来ないことというのはそんなにない。かつては「原子力は桁外れに安い」と言われていて、昔僕がNHKにいた頃は、石油か原子力かという話でした。

石油に比べると原子力の方が燃料当たりのコストは安いです。マーケットも安定しています。ただ、石油危機以降の30、40年間で石炭とか天然ガスによる発電が、それぞれ4分の1ずつくらいできてきた。日本の電力構成を見るとそうですね。

化石燃料全体を見てみると、特に天然ガスは最近は新しいものも出てきて価格が下がっています。コストベースで見ると、原子力とあまり変わらないと思います。電力会社がほんとのコマーシャルベースで効率を考えてやると、多分天然ガスが一番でしょう。東京電力は原子力がなくなった分、小さいガスタービンを既存の火力の中に増設していますよね。あれは一ヶ月くらいで稼働できるんです。だから、ガスタービンが小回りも効くし、単価も安い。ガスタービンでいいと思いますよ。長期で見た場合、むこう10年原子力はダメだと思います。こんなことがあっては、電力会社も怖くて建設しないでしょう。また、自治体の了解も取れない。例えば福島に建てるとしたら岩手県と宮城県、茨城県、周りの3県も4県も合意を取らないといけない。そこの全市町村が合意するなんてことは、まあありえないですよね。今、原発を推進しようとする人はいないんですよ。あなたも見たことないでしょう?(笑)

だから「脱原発」なんてまったくナンセンスで、そんなことを議論しても仕方ない。むしろ問題は、「今すぐに再稼働もせず、そのまま廃炉にしてしまえ」とか、朝日新聞のような極端な主張があることです。長期的には寿命の来た原発を止めていくことで減らす。こうした考え方はあるかもしれない。それも今すぐ議論する話でもないと思います。

――池田先生はTwitter上などで、かなり積極的に発言されています。ネットメディアですので、専門外の分野での発言というのは、無用な揚げ足取りなどリスクも大きいと思います。あえて発言を続けられているモチベーションは、どういうものかお聞きしたいのですが。

池田氏:専門家ではありませんが、僕はかれこれ足掛け3、4年くらい、原発訴訟の準備書面を読んできましたので、まったくの素人というわけではありません。ある程度は知っているわけです。今、にわか勉強で騒いでいるジャーナリストの人々よりは知っています。事故が起きた段階では、普通のメディアの人々はみんなドシロウトだったと思います。

なので、「チェルノブイリほどひどい事故ではありませんよ」と言っておかなければ、というくらいの気持ちで始めました。あの頃は、僕のTwitterもブログもものすごいアクセスがありました。普段の倍くらいになったかな。それはみんな、情報に飢えていたからだと思います。正確な情報が出てこないし、とにかく危ないという情報だけ出てくる。僕もそれを見て「さすがにそれはおかしい」と言っただけです。戦うつもりもないし、使命感があってやっているわけでもない。

日本のメディアの情報が、あまりにも「危ない、危ない」の方向に偏り過ぎです。そのバイアスは直さないといけない、ということはある。それから、専門家ではないというのは確かにその通りなんだけれど、じゃあ小出裕章さんが線量基準についての専門家かというとそうじゃない。

彼が知っている放射線の知識というのは、70年代くらいで止まっているんです。1ミリシーベルトが危ないというのが彼の基準です。彼も一応科学者ですから、BEIR委員会というたった一つのところが主張している1ミリシーベルトという基準が根源になっています。それしか出さない。他の世界中の放射線医学の論文を読んでみても、1ミリシーベルトで危ないと書いているのは一つもないわけです。小出さんはそれを知っていると思います。だから他の論文は引用しないわけです。

この問題には原子力関係の専門家と、放射線の専門家の2つのグループがあります。この2つはまったく別の学問です。原子力は工学だけれども、放射線は医学とか生物学です。お互いがお互いについて必ずしも十分に知っていなくて、原子力の専門家は放射線についてよく知らない。放射線の専門家は原子力についてはわからない。

両方とも自分の持ち分については発言するけれども、全体として原子力、原発をどう考えればいいのかということは、彼らはそれぞれの専門でしかないから、うかつなことは言えないわけです。小出さんのように自分の専門外の事まで口を出す人もいますよ。でも元々結論が決まっている。2つの専門分野があって、それを総合したことを言える人はいないわけです。両方の専門家と称しているのは小出さん、武田さんですね。ああいういい加減なことを言う人しかいない。だから両方について素人であっても、武田さんや小出さんと同じようなものです。彼らが言う情報があまりにもバイアスがひどいから、こっちで「普通のデータに基づけばこうですよ」と。そういうことを言っている人も山下俊一さんとか中川恵一さんとかわずかではありますがいます。

大多数の人が、怖くて言わないわけです。僕がブログでこう書くと、ブログにはコメントが来ないけれど、メールがたくさん来る。「おっしゃる通りだけれど、今の状況で発言すると非常に痛い目にあう。匿名で手伝いたい」という申し出がいっぱいあります。

――「御用学者」という言葉もあります。

池田氏:御用学者という言葉もおかしい。原子力工学で国からたくさん研究費をもらっていた研究者も確かにいます。東大の関村さんは事故が起きた時にNHKの中継で「大丈夫だ」と言い続けましたし。僕もさすがにあれはおかしいと思った(笑)。

関村さんが、事故の状況がなんにもわからない12日の早朝くらいに「大丈夫だ」と言い続けている。いやいや、炉内の温度が上がっているとか気圧が上がっているとか大丈夫なわけがない。気圧が上がっているということは、蒸気を出さないといけない。蒸気を出すということはそれ自体で放射線が外に出ますから。もっと怖いのは出さないことです。出さなければ炉内の圧力が上がって、ドーンといっちゃう可能性もある。どっちにしてもリスクはある。

こうした事実を書いたことが、僕の原発事故についての情報発信の最初のきっかけです。流石に関村さんは、御用学者かもしれない。安全PRの政府の代理人みたいなものですから。彼なんかが批判されるのはまだわかる。しかし、山下さんや中川さんはお医者さんですよ。お医者さんは原子力を推進する立場でもなんでもない。なんで彼らがそんなに原発の安全宣言をしないといけないのか?彼らが原発は安全ですと宣伝して、政府から研究費をもらえる可能性はないんですよ。

むしろ「危ない」と言った方が患者さんは増えますよ。「安全だ」というと商売として成り立たないでしょ? まあ商売なわけでもないんだけど、お二人とも公立大学なんだから。何のために安全デマを流さないといけないのか? 理屈が立たないですよ。

――安全デマを流すことに中川氏、山下氏のインセンティブはないということですね

池田氏:中川さんは言っていましたけれど、彼は被災地に行って救護活動もやっているわけです。全然関係なければ、事態の全貌がはっきりするまで黙っているのが一番簡単ですよね。自分がリスクを負いたくなければ。

でもわからないと言っていると、みんな「怖い怖い」という状態になってしまいます。その結果として11万人の人が未だに家に帰れない状態です。中川さんは「家に帰らないことが一番良くないのだから、一日でも早く帰った方がいい」、と意識的に断言しているわけです。

安全デマとかではなくて、被害者の人々にとって、何が一番大事かを考えるということです。もちろん現場に放射性物質が大量に発生しているのならば、帰宅を進めるべきではありません。現実はそうではないので、まずは家に帰って、日常生活に戻すということが一番彼らにとっても大事なことだと思います。それさえ政府が怖がって言わないから、そういう人たちが攻撃されてしまう。民主党政権でこの震災が起こったということが非常に不幸ですね。自民党だと良くも悪くも官僚に丸投げですから、もうちょっとマシだったと思います。今回、官邸と霞が関との間の不信感が非常にひどかった。危機管理として体をなしていなかった。

――安全だと断言するのは今の段階だと勇気がいる。しかし、福島から避難されている方々は不安に思う気持ちが大きい。それを解消してあげるためにもあえて断言する必要がある、ということでしょうか?

池田氏:だから、これは「誰の立場から問題を考えるか」ということです。今11万人の人が家に帰れていないという状況がある。その人たちにとって何が一番良いかを考える。それが大事です。反対派の人たちはとにかく「危ない、危ない」と騒ぐことによって、原発を止めようと考えているのかもしれません。それは邪道です。危ないかどうかという事実関係と、原子力を推進するか反対するかという価値判断は本来別物です。

原発反対派の松田裕之さんなんかも、「今の状況は過剰規制であり、食料品は500ベクレルを100ベクレルに下げるべきではない」と言う。被災地の復興を第一に考えたら、なるべく被災者は帰って農産品を出荷できるようにすべきだ、と言っています。ですが、反対派から見ると御用学者だとか推進派だとか言われてしまう。松田さんなんか推進派じゃないでしょう。その問題は分けなきゃいけない。原子力賛成か反対かという論争は世界的にこの30年ずっとあるからすぐそこに問題がひっぱりこまれてしまう。

それをとにかく切り離して考えなければならない。起きてしまった事故は今さらどうしようもない。その被害をどうやったら一番少なくできるのか。これから考えるとむやみやたらに騒がないで、なるべく11万人の人が早く家に帰れるような段取りをすることが大事だと思います。帰れない場所もあるかもしれませんが、それは東電が賠償するなりなんなりすればいい。何兆円もかけて除染しないといけないと言っていると、ずっと帰れないですよ。

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