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デュシャンの「便器」を利休の「花入」が迎え討つ「美の競演」- フォーサイト編集部

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 仏像や浮世絵でお馴染みの東京国立博物館にあって何やら異彩を放っているオレンジ色のポスター。「共通点は?」という見出しの下に「竹」と「便器」が並んでいる。はて、何のことやら。

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 そう思った瞬間から、いつもと違う「鑑賞」のはじまりだ。一般に「スゴイ」とされるものを見て感嘆するだけでは、能がない。「本当にスゴイの?」「どこが似てるの?」「そもそもコレって何ですか?」と、あれこれ考えを巡らす。視覚的体験を超えた思索の旅。

 それが同館で開催されている特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」(12月9日まで)の醍醐味である。

衝撃をもたらした「白い便器」

 百聞は一見に如かず。先ずは本展の主役、マルセル・デュシャン(1887~1968)の代名詞をご覧いただきたい。

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 ポスターの白い便器に《泉》というタイトルがついている。思わず笑ってしまうネーミングだが、パカッと割れて中からホンモノの作品が――という展開を期待しても何も起こらないし、「現代社会の矛盾」とかいう便器以外の何かのメタファーになっているのでもない。眉間に皺を寄せていくら眺めても、見たままの作品だ。

 彼は1917年、ニューヨークの展覧会に購入したばかりの男性用小便器を出品した。当時、29歳。フランス北部ノルマンディー地方の裕福な家庭で育った青年は、第1次世界大戦の戦火から逃れ、アメリカに渡っていた。

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 出品の際、「リチャード・マット」という偽名を使ったことがポイントだ。この展覧会は自身が一役員を務める芸術家団体の主催で、「事前審査なしに、どんな作品でも展示できる」という触れ込みだった。なら、本当にそうなのか試してやろうじゃないか、というわけだ。

 本展を企画した松嶋雅人研究員が続ける。

「案の定、主催者側の結論は“展示不可”でした。当時の常識は、芸術家と呼ばれる天才的な人たちが自らの手で描くなり彫るなりした唯一無二の作品こそが芸術である、というもの。彼らにとって《泉》は、衝撃以外の何物でもなかったのです」

 先ず「不潔!」という拒否反応が来て、次に商品を自身の芸術作品として発表するなんて「剽窃だ!」となった。

「デュシャンはこの判断を不服とし、役員を辞任。賛否を巡る論争が巻き起こり、一種の事件に発展しました。その“演出”が今で言う炎上商法みたいなものだったので、誤解されがちですが、彼は何も“オレが芸術界の新たな地平を開くんだ!”とか“アイツらを屈服させて、オレが君臨してやる!”とかいうことを考えていたわけではありません。そういうギラギラしたものは全くと言っていいほどない。彼は単純に自分の思い描く素晴らしい“何か”を表現したい、それを展示室にも飾りたいという一心だったのだと思います」

「恣意性」を排除したレディメイド

 この《泉》のように、大量生産されたモノを新たな芸術として提示したデュシャンは、一連の作品を英語で「既製服」を表す「レディメイド」と呼んだ。

 もちろん、すべての既製品が自動的に芸術作品になるかと言えば、そうではない。レディメイドにおける彼の役割は、数あるモノの中からそれを「選択」し、「タイトル」を与え、芸術として「意味づける」こと。それが従来の「描く」や「彫る」に代わる芸術家側の主体的な行為なのだが、その選択行為に自身の趣味や好みを一切介在させてはいけないとした点が、肝心だ。

「私が思うに、従来の芸術家は言わば恣意的に自身の美意識を作品に込めていました。もちろん、それはそれで素晴らしいのですが、限定された個別的な美とも言えます。そこでデュシャンは既製品の合理的なかたちという、それ自体に意味のないモノを『選ぶ』ことで、恣意性を排除した。さらにタイトルをつけることで本来の用途から切り離し、新たに芸術という意味を与えたわけです。産業革命以降のさまざまな技術革新を経て工業化が進み、狂いなく同一につくられたモノがお店にずらっと並ぶようになった時代だからこそ、生まれた芸術でしょう」

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 最初のレディメイドは1913年作の《自転車の車輪》。パリのアトリエに置いてあったイスに自転車の車輪を逆さにして結合しただけのものだが、何だかオシャレではないか。

「そうなのです」

 と、松嶋研究員が笑う。

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 これはデュシャンがアトリエに置いてクルクル回して遊んでいたもの。瓶をフックに引っ掛けて乾かす《瓶乾燥器》も然りで、レディメイドは彼にとって暮らしを彩るオブジェでした。きっと私の選んだものを部屋や展示室に飾っても、面白くない。彼が選んだものだから、イイ感じなのです。結果的に皆が無意識のうちにイイなと感じている共通の美意識みたいなものを捉えているところが、さすがのセンスですよね」

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