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消費税増税で日本はデフレに逆戻りしないのか? - 中里透氏インタビュー

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――先日(10月15日)、安倍総理から19年10月に予定通り消費税率を10%に引き上げるとの表明がありました。もっとも、この点については、デフレへの逆戻りを懸念する声も聞かれます。そこでまずお聞きしたいのですが、「デフレ」とはそもそもどのようなことなのでしょうか。

そうですね。デフレについてのご質問にお答えをする前に、ちょっとだけ先日の安倍総理の「表明」について簡単にふれておきたいと思います。世の中にいろいろと誤解があるようなのですが、先日の表明によって消費税について何か新しいことが決まったり、19年10月の消費税率引き上げが確定したりしたわけではありません。後ほど詳しくお話しますが、先日の表明をめぐっては安倍総理の閣議での実際の発言と、新聞やテレビで報道されている内容の間には大きなギャップがあります。

そのもとで、ではデフレとは何なのかということになると、この点については2つの見方があると思います。ひとつは、デフレを「物価の持続的な下落」ととらえるものです。これは2001年4月の「月例経済報告」(内閣府)で採用されたもので、政府の公式文書などでは、デフレはこの意味で用いられています。

もっとも、「デフレ不況」という言い方があるように、デフレは景気が悪いことというニュアンスで用いられることがしばしばあります。この両者が混在して用いられることが、「デフレ」や「デフレ脱却」をめぐる議論において大きな混乱が生じるもとになっていると思います。

――デフレは一般的に「良くないもの」「避けるべきもの」と受けとめられているようですが、これはなぜなのでしょう? デフレは本当に悪いものなのでしょうか?

デフレが強く意識されるようになったのは、「失われた10年」ということがさかんに言われるようになった頃からなので、経済が停滞しているという印象と相まって、デフレは「良くないもの」「避けるべきもの」というように受けとめられている面が多分にあると思います。

もっとも、かつては「良いデフレ」という議論もあって、「諸外国に比べて物価の高い日本で、物価が下がるのはよいことなのではないか」、「モノの値段が下がるのは、技術革新によって生産性が向上した結果なのだから、別に問題はないのではないか」ということが主張されたこともありました。

たしかに給料がこれまでと同じで、モノの値段だけが下がってくれれば、生活は楽になりますから、「デフレはよいこと」ということになるかもしれません。でも、賃金が下がって節約志向が高まり、売れ行き不振から企業が製品の価格を下げるというようなことがあると、悪循環が生じて「デフレスパイラル」の状態になってしまうおそれもあります。

債務、借りているお金の元本の金額は、物価が下がってもその分減額されるといった契約にはほとんどなっていませんから、物価が下がると実質的な債務の負担が大きくなってしまいます。この意味でもデフレは大きな問題を引き起こすおそれがあるということになります。

「物価が下がるときには、その分だけ金利も低くなるので、大きな問題は生じないのではないか」という見方もあるかもしれませんが、ここでネックになるのは、名目金利を大幅なマイナスの値にすることはできないということです。「実際にマイナス金利が導入されているではないか」という指摘があるかもしれませんが、マイナス金利といっても、実際にマイナスにできる範囲には限度があります。

このように、名目金利がほぼ0%までしか下げられない中で、物価の下落が続くと、物価を調整した場合の実質金利が高止まりして、設備投資などにマイナスの影響が生じる可能性もあります。物価が下がることを前提にすると、商品の購入を先延ばしすれば、その分だけ同じ商品を安く手に入れることができますから、デフレのもとでは耐久消費財などの買い控えが生じてしまうという見方もあります。

このようなことがあるため、デフレは歓迎すべきことではなく、むしろ克服すべき課題とされてきたわけです。

――さきほど、「失われた10年」という話がありました。最近では「失われた20年」という言い方もあります。1990年代以降の日本経済を振り返ってみると、どのようなことが言えるのでしょう。

最近は世の中の雰囲気や気分が少し変わりましたが、しばらく前までは日本の経済について、停滞している、低迷しているという印象が強くもたれていたと思います。「失われた10年」や「失われた20年」という議論は、こうした中で出てきたものです。バブル崩壊後の日本経済の停滞をどのようにとらえるかをめぐっては、生産性の低下など供給サイドを重視する見方と、財政金融政策の誤りなど需要サイドを重視する見方がありました。後者は現在の「リフレ派」の源流ともいえるものです。

もっとも、経済が総じて停滞する中にあっても、ミニバブルのようなことが観察された局面もあるわけで、「失われた20年」と一括りにしてしまってよいかは議論の余地があると思います。

アベノミクスがスタートする前、多くの人が抱いていた日本経済のイメージは、経済が停滞して雇用も不安定、モノが売れなくて物価も下がり気味というものだったと思います。

たしかに基調としてはこのようなことが特徴としてあったと思いますが、それでも期間によって、経済状況や時代の雰囲気にはかなり違いがありました。バブルがはじけた後も、94年あたりまでは、いまの不況は循環的なもので、しばらくすれば景気は回復し、地価や株価も上昇して、もとの状態に戻ることができると思われていたところがあります。

でも、このような認識は95年に大きく変わります。1月には阪神淡路大震災が起こり、3月には地下鉄サリン事件が発生しました。円高が進んで4月には円が戦後最高値(79円75銭)を記録します(図表1)。8月には兵庫銀行と木津信用組合の経営破綻が起きます。兵庫銀行は戦後初の銀行倒産となりました。

図表1 為替レートの推移(東京市場17時時点のスポットレート・月中平均)

(資料出所)日本銀行

明けて96年の通常国会は「住専国会」と呼ばれました。このことからもわかるように、この頃から不良債権問題が日本経済の重しとして強く意識されるようになります。97年11月には三洋証券・北海道拓殖銀行・山一證券と金融機関の破綻が相次ぎ、98年の日債銀(日本債券信用銀行)と長銀(日本長期債券信用銀行)の一時国有化へと続く金融システムの不安定化が起きました。

ちょうどこの頃から物価が弱含んで、消費者物価指数でみてもデフレが定着することになります(図表2)。その後、小泉内閣のもとで不良債権処理が進展し、2003年5月の「りそなショック」を機に株価が反転します。ここまでが「失われた10年」の経過です。

図表2 消費者物価指数の推移(年次)

注:1997年と2014年の消費税率引き上げの影響は調整せず、そのまま表示している。 (資料出所)総務省「消費者物価指数」より作成

その後はというと、08年9月のリーマンショックまでは緩やかな景気回復が続き、デフレも次第に和らいでいきます。07年の秋から08年の夏にかけては、新興国の経済成長に伴う世界的な資源価格(食料・エネルギー)の高騰の影響で、日本でも食品や日用品などの値段が上がり、デフレというよりむしろ物価の上昇をどのように抑えるかが重要な政策課題となりました。08年8月に福田内閣のもとでとりまとめられた経済対策(「安心実現のための緊急総対策」)では、物価上昇への対応が対策の柱になっています。

このように、ようやくデフレからの転換が見込めるようになった矢先にリーマンショックが起き、需要の急速な収縮が生じて、日本経済は再びデフレと景気の低迷に悩まされるようになります。11年3月の東日本大震災がそれに追い討ちをかけました。こうした中、円高が進行して11年10月に戦後最高値を更新します(75円54銭)。

 12年9月の自民党総裁選で安倍候補が「大胆な金融緩和」を掲げ、12月の総選挙(衆院選)でも金融政策のあり方が選挙の大きな争点となった背景には、デフレと円高に苦しむ日本経済という構図がありました。

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