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タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

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「ランニングシューズを切って、義足に貼る」が当たり前?

そもそも、義足用のソール開発に力を入れている企業というのはグローバルで見ても少ない。義足を必要とする人は多くいる一方で、切断箇所や筋肉量の違いなど、個人個人によってのニーズが異なるために、高ロットでの生産ができず、なかなかビジネスとして成り立たないことが原因だという。では、秦選手の使用していたソールには具体的にどのような課題があったのか。

「これは秦さんに限らず、ほとんどのパラアスリートに当てはまることなのですが、それぞれが個人に最適化されたツールを使えていないという課題がありました。もともと、多くの種類が市場に出回っているわけではないので、パラアスリート向けの『高品質な製品』自体が少なく、モノによっては、開発されて数十年経っている”最新モデル”もあります」(鳥山)

驚くべきことに、世界大会で活躍する秦選手のような人であっても、ランニングシューズを買って、ソール部分を切り取り、義足に貼り付けて使っていたのだとか。そのように「売られているものを転用して使う」というパラアスリートは少なくないそうだ。

「当たり前ですが、ランニングシューズのソールは、義足を必要とする人向けに開発されたものではありません。地面と接触した際にかかる力は違うし、耐摩耗性が求められる箇所も異なります。秦さんは以前、雨の中でのレースで、『滑るのが怖くて、思い切って走ることができなかった』という経験をしたそうです。そうした意見を聞き、どんな状況であっても安心して走れるようなソールを開発したい、と考えるようになりました」(小平)

タイヤ開発のノウハウを詰め込んだソール開発

しかし、いくら「地面と接するモノ」だからといって、タイヤとソールで求められる技術が一緒だとは思えない。どのようにブリヂストンの持つノウハウをソール開発に適応させたのか。

「はじめはゼロからの挑戦でした。そもそも、『義足のソールに求められることって何? 』という疑問からのスタートなんです。勉強の日々でしたね。どうにか当社の技術を活用できないか、と考え、まずは走る際にかかる力を測るために、タイヤ開発に使用する測定器を使って圧力測定を行いました」(小平)

圧力測定時の様子。ランニング時、ソールへの力のかかり方がどう変化するかを調査した

ほかにも、使用した後の摩耗部分の分析などを行い、グリップ力を上げつつ摩耗を抑えられるソールはどのようなゴム材料・溝形状にすればよいかをひたすら考えたそう。

さまざまなデータから見えた課題に対して「どうブリヂストンの技術を適応させれば良いか」と考え、試行錯誤を重ねた後に、ようやくソールを開発。2017年4月、初めて秦選手に新ソールをつけた義足で走ってもらうことになった。

「私たちのソールで走ってみた秦さんには『全然違う! 』と、すぐに気に入っていただきました。その1カ月後には早速、新ソールで大会にも出場していただきました。その大会もあいにくの雨だったのですが、確実に滑りにくくなっているとのフィードバックをいただき、手応えを感じました」(小平)

小平さんや鳥山さんは、秦選手と密にコミュニケーションを取りながら、フィードバックを元にソールの改良を続けた

さまざまな領域での技術活用も視野

そのレース以来、秦選手は変わらずブリヂストンが開発したソールを使い続けている。現在のソールは2代目で、2017年に開発したモデルから、パターンと材質を変更しているそう。

しかし、いくら製品の改良を実現したと言っても、事業化につなげられなければ、同社の「パラアスリート支援」は一過性のものになってしまう。同社は今後、この取り組みをどのように続けていく予定なのか。

「秦さんとの協力によって生まれた技術が将来、当社製品のブレイクスルーにつながる可能性はあると考えています。将来的には、さまざまな領域での技術の活用も視野に入れております。ですが、何よりこの取り組みは、当社がグローバルメッセージとして掲げる『CHASE YOUR DREAM』を体現するもの。

CHASE YOUR DREAMとは、ブリヂストンが、さまざまな困難を乗り越えながら「夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えていく」という想いを表現したメッセージ

そのため、必ずしも『将来的なリターン』を求めてこの活動をやっている訳ではありません。私たちの取り組みが社内外に広がり、当社の『夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えたい』という想いに触れていただき、一緒にオリンピック・パラリンピックを応援してくれる仲間を広げていくことを目指しています」(鳥山)

「2020東京」まで1歩ずつ、2人3脚で

現在、すでに秦選手用の最新ソールは完成しているそうだが、まだまだブリヂストンの挑戦は続く。

「最新モデルは、秦さんの要望を満たし、かつさまざまなデータから考えられる問題点を解決した自信作。しかし、パラリンピックまではまだ時間があります。今後も本人のフィードバックをもとに、より改良を続けていきたいです」(小平)

パラアスリートと一緒に夢を追い続けるブリヂストン。今回紹介したのは、同社の秦選手との取り組みだけだが、それに限らず、ほかにも多くのアスリートを支援しているそうだ。

オリンピック・パラリンピックでもっとも日の目を浴びるのは選手。しかし、その周りには、選手たちを支えている多くの人たちがいる。来る2020年、パラリンピックでは、選手の義足や車椅子などにも注目し、そこに隠れた技術の背景を想像してみるのも楽しみ方の1つだ。

ブリヂストンと秦選手の挑戦をこれからも応援したい

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