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Airbnbは、日本の伝統工芸の救世主となるかもしれない

漆に染物、能面、造園、提燈、つまみ細工――。日本には、長年受け継がれている幾つもの技術や美術、工芸がある。

そんな伝統工芸に危機が迫っている。伝統的工芸品産業振興協会の調査によると、生活様式の変化や、安価な輸入品の増大などが影響し、需要が低迷。昭和50年台のピーク以降、生産額は年々下がりつづけているという。企業数、従事者も減少に歯止めがきかない状況にあり、このままでは、日本の伝統工芸品はその多くが姿を消してしまう。

そうした状況の中、日本に救いの手を伸ばす企業がある。民泊で知られている世界最大級の旅行コミュニティプラットフォーマー「Airbnb」だ。「民泊と伝統工芸がなぜつながるか」と疑問に思う人も多いことだろう。もしかするとAirbnb自体もこうなることは予想していなかったかもしれない。

「伝統工芸品を知ってもらう機会が増えたんです」

2018年6月の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行から数か月、Airbnbは、ホームシェアに関する情報提供と新規ホストの育成を目的として、国内10都市を巡る全国キャラバンを開始した。

キャラバンの初回となる京都では、京都で提灯を作る「小嶋商店」の小嶋俊氏、同じく京都で髪飾りや小間物などを作る「京都おはりばこ」の北井秀昌氏、Airbnb 執行役員の長田英知氏が参加するトークセッションを実施。

Airbnbの「体験サービス」(現地に住む人がホストとなり、その地特有の体験をゲストに提供するサービスのこと。Airbnbは2018年7月30日より、この「体験サービス」の提供地域を全国へ拡充している)を提供するホストが自身の体験と、今後のAirbnbに求めることを語った。

Airbnbのキャラバンカー。この車が全国をまわり、Airbnbに興味がある人と、既存ホストがコミュニケーションをとれる機会を提供する

「Airbnbのおかげで、外国の人たちに伝統工芸品を知ってもらう機会が増えました。私はもともと、旅行客に空部屋を提供する宿泊ホストとしてAirbnbを利用していたのですが、そのときに感じたのは、Airbnbを利用して日本に来る人は、『知的好奇心が高い』ということ。そのため、クリエイターの方の割合が高く、私たちのものづくりに興味を持ってくれる人が多くいました」(北井氏)

Airbnb、体験ホストによるトークセッション。左から提灯職人の小嶋俊氏、つまみ細工職人の北井秀昌氏、Airbnb 執行役員の長田英知氏

伝統工芸品の需要が低迷している今、職人達には”新しいこと”を始め、新たな需要を創出することが求められている。経産省も「観光業などの異分野との連携、海外への展開」などを勧め、そこに補助金を出すなどしてサポートしているが、職人にとっては、申請が面倒であったり、なによりこれまでに経験のない挑戦であったりと、なかなかとっつきづらかった。

そこにうまくはまったのが、「人と人」をつなぐプラットフォーム、Airbnbであったというわけだ。これまでの観光客は、指定されたツアーに行ったり、自分の行きたい場所をあらかじめ調べて置いたりと、一定のルート”を辿りがちであったし、そもそも日本人は英語を積極的に話そうとしない傾向にある。これまでの観光客は主要な観光地を巡り、満足して自国へと帰っていた。

しかしAirbnbは、同社の掲げる「暮らすように旅をしよう」というメッセージからも伝わるように、宿泊ホストにお勧めの場所を聞いたり、体験ホストとその地でしかできない体験を共有したりと、現地の人々の暮らしを体験できるようなサービスを提供している。その結果、外国人ゲストとの関わりが増えた職人たちは、自身のものづくりを知ってもらう機会が増えているのだという。

ブレイクスルーに必要な新しい視点

提灯職人の小嶋氏は、まだAirbnbのホストとしての経験はなく、これから体験サービスを提供していく予定。まだホストになるための手続きを終えたばかりで、サービスの開始には至っていないそうだが、同氏はすでに広がる未来を見据えている。

「外国の人たちは、見慣れない提灯を見て、日本人とは変わった視点で評価してくれます。伝統工芸品、というよりはむしろ『芸術品』として見てくれて、実際に購入していく人も少なくない。これまで私たちの提供する提灯は、日本の神社や仏閣、お祭りで飾るものがほとんどでした。でも、その反応を見ていると『もしかすると海外でも売れるのでは』と考えるようになりました。これから体験ホストとなることで、外国人ゲストと交流していくことは、私たちのものづくりにいい影響を与えていくでしょう」(小嶋氏)

小嶋商店では、これまでの提灯のあり方を見直し、提灯にプロジェクターで映像を映し出すといった見せ方の工夫を試みたり、夜の鴨川を散歩する外国人客用に提灯を貸し出したりと、積極的に新たな需要を生み出している。

内外の建築家とのコラボも考えているそうで、「Airbnbがそういった、外国の職人(クリエイター)達と出会える場となれば」と、今後の体験ホストとしての活動への期待を語った。

人と人が繋がり生まれる、小さなオープンイノベーション

日本には、長年受け継がれている幾つもの技術がある。しかし、需要が減少し続けている今、店をたたんでしまったという職人たちは多い。歴史の長さが故、新たな需要を作り出すという視点に切り替えにくいことも原因だろう。

血液循環が悪くなってしまった企業を救うのが、その技術に可能性を見出した異業種、異分野の大学や企業、自治体などとのオープンイノベーションであれば、日本の伝統工芸(ひいては職人達)を救うのは、外国人クリエイターをはじめとした、外からの目線と技術による小さなオープンイノベーションかもしれない。

民泊から始まったAirbnbは今、そこに「体験」のサービスが加わったことにより、眠っていた観光資源に脚光を当てただけではなく、日本の伝統工芸の復興という新たな可能性も見出しつつある。

Airbnbは、日本の伝統工芸を後世に残すキッカケを作り出すかもしれない

これはAirbnbによって紡がれたストーリーの1つにすぎない。Airbnbは人と人をつなぐプラットフォームであるが故に、その地にいる人が、新しい視点を持った人とコミュニケーションをとることによって、課題点の突破口を見出すキッカケとなる。日本でのキャラバンは全国10都市で行われる予定で、まだ始まったばかり。

急速に広がるAirbnb経済圏は、これからも各地に眠るさまざまな資源を掘り起こすキッカケを作り出しそうだ。

Airbnbキャラバンカーは京都(10月26日)を皮切りに、全国10都市をまわる予定

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