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天皇陛下手術から私たち国民が学びたいこと~なぜ「主治医」はいなかったのか?

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2012年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2月18日、東京大学医学部付属病院で行われた天皇陛下の心臓パイパス手術が無事終了しました。東京大学の心臓外科チームに加えて、順天堂大の天野篤教授を加えて手術を行うという組織の枠を超えた「連携」。そして、宮内庁病院の侍医、循環器 内科、心臓外科という各科専門医師の「協同」。さらには、病状をきちんと理解し、現代医療を合理的に受け入れた天皇陛下の「自律」的判断があってこそ の手術の成功でした。

しかし、一連の報道の中で、この「連携」「協同」「自律」という医療再生に必要不可欠な概念を的確に報道したメディアは皆無に近かったようです。

組織のしがらみを超えてベストな連携がなされた

2003年より始まった「新臨床研修医制度」以前は、医師は出身大学の大学病院で初期研修を受けていました。この場合、大学医局の結束は高まりますが、その一方で「他大出身者にはやり方を教えないし、全て自分の大学で治療する」という派閥主義がまかり通っていました。私は研修医時代に、ある有名な先生から「東大のスパイには手術を見学させない」と言い渡されたことがあります。また、開業してからも、近隣の医師から「自分の診療所に通院している患者さんは、(自分の出身である)○○大学に紹介することが決まっているので他の病院の紹介をするな」と申し入れられたこともあります。

これらは、本来あってはならないことです。良い技術はお互いに見せ合って、より良くするべく相互が切磋琢磨するべきです。患者さんがどこで治療を受けるかは医師の出身大学ではなく、「どこでベストの治療を受けられるか」に基づいて決められるべきです。

心臓バイパス手術自体は、国内で年間に1万5000件ほど行われています。もちろん東大病院スタッフだけでも施行可能な手術です。しかし、歴史的な手術において、東大のメンツやプライドではなく「何が一番ベストか」を考え抜いて、大学という組織の枠を超えた「連携」により執刀医師は決められました。組織のしがらみを超えてベストな連携がなされた手本と言って良いでしょう。

現代医療では「主治医」という概念はなじまない

手術後の医師団の記者会見で、記者から「退院まで誰が主治医か」という質問が出ました。それに対し、東大の小野稔・心臓外科教授は「『主治医』はなじまない。主治医チームだ」と返答しました。報道では手術にばかりスポットが当たりがちです。

しかし、実は、早すぎず、なおかつ陛下のお体に重要な事態が起こる前で手術のタイミングを決定することは、手術と同じくらい難しいのです。2011年2月に動脈硬化が診断されて以降、金沢一郎・皇室医務主管を中心とした侍医団は、万一のトラブルにも対応できるように勤務体制を変更して、どのタイミングで検査と治療を行うかについて、細心の注意を払っていました。また、術後管理をきちんと行い、術後合併症を防止するには、術者と心臓外科チームだけではなく、永井良三・循環器内科教授率いる循環器内科チームとの協同作業が不可欠です。

一連の治療は、執刀医、心臓外科医、循環器内科医、そして侍医チームの協同作業で行っているのです。これらのいずれか1つでも欠けては万全の治療とは言えません。さらには、24時間態勢でのフォローにおいて、1人の「主治医」が全てを対応するには現実問題として不可能です。

現代医療においては、全ての権限を持ち、全責任を負う「主治医」というものは事実上存在しません。それぞれの得意分野の「協同」作業としてチームとして医療を行うことこそが、一番患者にとってメリットのある医療のやり方なのです。

病状と治療法のメリットデメリットを理解して選択する「自律」

チームの中で、侍医にできることは、万一に備えてすぐに治療できる体制にしておくこと、循環器内科医にできることは投薬治療の効果と限界について説明すること、心臓外科医ができることは手術のメリットとリスクについて説明することです。各専門医に相談することはもちろん必要です。しかし、最後に手術を受けるのか投薬で経過を見るのかを、話を聞いた上で決めるのは天皇陛下自身になります。

このように、受け身ではなく、自分自身で病状と治療法のメリットデメリットを理解して選択する患者の「自律」性が医療において一番大事です。 天皇陛下は78歳で、なおかつ前立腺がんのホルモン治療中でした。公務をこなすために手術を受けるという覚悟は並大抵の物ではありません。手術の決断をした陛下の覚悟と「自律」こそ、実は一番賞賛されるべきことなのではないかと思います。

「連携」「協同」「自律」は医療だけの話ではない

メンツやプライドにこだわらず、医療を受ける人にとって何がベストかを考えて組織の枠を超えて「連携」を行うこと。1人で全てがカバーできない以上、1人の主治医ではなく専門医がチームを組んで「協同」で治療を行うこと。

そして選択肢を考え抜いて自ら決断を下す「自律」。

これらは、医療のみならず他業種の方たちにとっても学ぶところが多いはずです。

天皇陛下の覚悟に応えるためにも、我々国民は「連携」「協同」「自律」の大切さを再認識し、それぞれの現場でベストを尽くしたいものです。

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