- 2018年11月14日 08:43
値下げ議論きっかけに岐路に立つ携帯3社、ドコモを悩ますNTTグループの呪縛
KDDIとソフトバンクは追従せず、すでに還元済みと主張
ドコモ施策はMVNO接続料にも影響、通信ビジネスは転換期
携帯3社の2018年3月期上期の決算が出そろった。各社増収増益を果たした順調な決算だが、背後には政府による「通信料4割削減」という圧力が迫っている。その中で、NTTドコモが4,000億円規模のユーザー還元と銘打って通信料削減に乗り出した。それに対する2社は、既存プランによってすでに対応している点をアピールする。改めて各社の現状を探ってみたい。
ドコモ、半期利益を吹き飛ばす4,000億円の値下げ
ドコモは10月末の決算会見で、吉澤和弘社長が「携帯料金を2~4割値下げする。総額4,000億円規模のユーザー還元となる」と表明した。料金プランの詳細は今後検討するとしており、来年第1四半期に提供を開始する。

この新料金プランについて吉澤社長は、菅義偉官房長官による「携帯料金4割値下げ」の要請に対する影響は否定する。ドコモでは、まず4,000億円というユーザー還元のターゲットがあり、結果として2~4割という数字になった、と話す。
つまり、結果として「4割」という数字になったが、あくまで”たまたま”と位置づけたいようだ。このタイミングになったことについても、「スマートフォン利用者の拡大で、料金が分かりにくいなどの要望が高まっていた」と説明する。こうしたニーズの高まりで新料金の検討を行っており、タイミングとして政府要請と一致したのだという。

もちろん、携帯各社は民間企業であり、政府が料金に口を挟む根拠は薄い。そのため、ドコモとしても自主的な対応という建前は必要だ。料金値下げに対するニーズの高まりも事実だろうし、後述するように2社が分離プランに取り組んでいるので、新たな料金プランの検討を続けていたのも間違いないだろう。
それが今のタイミング、しかも来年第1四半期提供という状況での発表になったのは、政府要請への対応と見ていい。ただ、4,000億円という値下げ規模は、上期の純利益4,071億円が全て吹き飛ぶレベルであり、かなり思い切った施策だ。
加えてドコモは、5Gネットワーク構築のため2019~23年度で1兆円の投資を計画しており、値下げとともに大幅な減益に繋がる。こうした点が投資家に嫌われた形で、ドコモの株価は急落した。2021年度には売上5兆円、23年度には営業利益9,900億円台に回復することを計画しているが、利益の大半をはき出し、復活まで数年をかけた計画は、市場の理解を得られたとは言いがたい。
ドコモの背後に見え隠れするNTTの影
ここで見え隠れするのがNTTの影響だ。ドコモの株式は、親会社のNTT持株が63%強所有している。そしてNTTの株式の約35%を保持しているのは国だ。もともと、グループとしてドコモに対するNTTの影響力は大きく、その意向を無視できないドコモにとって、大幅な減益要因となる今回の新料金プランを勝手に進めることは難しい。
ドコモの発表でNTT自体の株価も急落したが、そうしたインパクトを踏まえても、政府の意向がNTTに流れてドコモの判断に影響したことは十分考えられる。しかも政府は10%への消費税増税を控えており、有権者に対して増税インパクトを抑え、政権の得点を狙いたい状況にある。
直接的な影響力の行使というよりは、間接的な忖度に近いものもあっただろう。大幅な減益を想定しながら、ドコモは継続的な増配を計画しており、株式を所有する国への影響を最小限にしようとしているようにも見える。
KDDIとソフトバンクは分離プランで還元済みと主張
これに対するKDDIとソフトバンクの2社は、すでに分離プランを提供したことによる値下げを実施したという認識だ。分離プランは、購入した端末代金に対して通信料金の割引を実施する「月月割」などを適用しない代わりに、通信料金を従来より下げたプランだ。
KDDIの場合、昨年の段階でピタットプラン、フラットプランの2つの料金プランを提供している。11月の決算説明会で高橋誠社長は、これを含めて、これまでに3,000億円規模のユーザー還元を果たしていると説明する。

ソフトバンクはウルトラギガモンスター+の提供によって、分離プランへの移行を図った。11月の決算説明会で孫正義社長は、大容量を前提としたウルトラギガモンスター+で「ギガバイト単価は世界で最も安い」と胸を張り、さらに付随するSNSや映像サービスなどの通信を無償化する「動画SNS放題」で総トラフィックの43%をカバーしているため、「実質的に4割値下げしている」という認識を示した。
ソフトバンクは、グループのY!mobileでも一部に残る端末代金へのサポートをなくして値下げをする方針だ。またソフトバンクでは国内通信事業の人員を4割削減し、新規事業などに配置転換することでコスト効率化を図り、さらなる値下げにも対応できるようにするという。

分離プランでは、端末購入にともなう通信料金の割引が発生しないため、さらに端末販売は減る見込みだが、通信キャリアにとっては、端末販売にともなうコストが減少し、利益に貢献する。ユーザーから見ると、高額なハイエンド端末が買いづらくなる代わりに、毎月のキャリアへの支払額は減少する。端末価格が安いSIMフリー端末を利用するなどすれば、ユーザーの支払う総額は従来よりも下げることはできるので、ユーザー側も支払額を減らすための工夫は必要になるだろう。
通信ビジネスの転換期? MVMO料金への値下げ波及は?
こうして各社が値下げを図ると、「格安スマホ」などと政府が推進したMVNO事業者へのインパクトも大きくなる。ドコモではMVNOに対する接続料は順次下がっており、値下げとは無関係に決まることを強調しているが、算定基準への影響は出てくるだろう。するとさらにMVNOの料金が下がることも期待できる。ただ、これに関しては未知数で、MVNOの淘汰は進むことも予想される。
携帯電話料金は、シンプルにすると個別のニーズに沿わないとしてバリエーションが求められ、複雑化するとシンプルさが求められる、といった歴史を繰り返している。スマートフォンユーザーの増加で単純明快な料金プランへのニーズが強くなるため、当面はシンプルな料金プランが求められるだろう。デフレ脱出に苦戦する日本経済の下では、値下げ圧力も強い。
ドコモの新料金プランが具体的にどうなるかはまだ決まっていないが、値下げをしながらインフラの維持、災害対策、5G構築といった必要なコストをカバーし、さらに成長が期待できる領域への投資をするだけの利益を確保する、という設計が必要となる。
5Gに対する多額の投資と新規ビジネスの拡大による収益の拡大を、主力ビジネスの利益を失った状態で進めなければならないという、難しい舵取りをドコモがどう乗り切るのか。今後も動向が注目される。
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