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「女性宮家」について考える

2月29日、首相官邸で「皇室制度に関する有識者ヒアリング」がおこなわれた。
女性皇族が結婚後も皇室にとどまるための「女性宮家」創設を検討するためである。
僕は、その第1回目のヒアリングに呼ばれ、意見を述べた。
女性宮家をどう考えるか、そして象徴天皇制をどう思うか、話したのである。



日本という国は、世界でも特異な国だと思う。 学術的にいろいろな見解はあるだろうが、千数百年間、天皇制は続いてきた。 そしてその間、何度も危機はあった。 たとえば鎌倉時代、3代将軍・源実朝の死を機に、後鳥羽上皇が朝廷の権威回復を 狙って、挙兵した。承久の乱である。 だが、逆に朝廷側はあっさり敗れてしまうのである。 普通ならここで天皇家は終わりである。 ところが、京に攻め上がった後の3代執権・北条泰時は、首謀者である後鳥羽上皇らを 隠岐島などに配流したものの、結局は、新しい天皇を即位させるのである。

建武の中興もそうである。 天皇親政の復活を目指した、後醍醐天皇が鎌倉幕府を倒した。 ところが、後醍醐天皇について幕府と戦った足利尊氏と、今度は敵対することになる。 結局、後醍醐天皇は敗れるのだが、尊氏は、負けた後醍醐天皇をそのまま吉野に 逃したのである。 こうして、ややこしい南北朝時代が始まったのである。

昭和になって日本は戦争に負けた。 勝ったアメリカは、昭和天皇を戦争責任者として裁こうとした。 現にアメリカ上院は、その議決までしている。 にもかかわらず、結局、アメリカは天皇制を存続させた。 もし天皇制を廃止したら、日本は内乱になる、スムーズに占領ができなくなる、 と目算をつけたのである。

このように、いろいろなことがありながら、天皇制はずっと続いてきた。 この国の国民が天皇をずっと守ってきた。 国民のほとんどが天皇を支持してきたのである。

日本の歴史を見ると、天皇は象徴だった。 天皇が権力を持ったのは、せいぜい古代と、明治から昭和の前期である。 日本は権力と権威を分けてきた。 だから、今の象徴天皇制も、国民の多くは認めている。 天皇の象徴性はたいへん長く続いてきたのだ。日本の伝統なのである。

日本は、今後も天皇制を続けていくだろう。 ところが、今のままでは、やがて秋篠宮家の悠仁様が天皇になり、 皇位を継ぐべき男子が皇室にいなくなる可能性がある。 だから僕は、天皇制を続けるためには、女性宮家を創るべきだ、と考える。

今、未婚の皇族女性は8人いる。 ただ彼女らがすべて宮家を継ぐべきだとは思わない。 宮家を継ぐかどうかは、選択制にすればよいだろう。 黒田清子様のように結婚されて、皇籍離脱されてもいい。 問題なのは、女性宮家を創った場合、その配偶者をどうするかである。 僕は、皇族に準じる「準皇族」にするのがいいと思う。 というのも、配偶者になると、いろいろと制約が出てくる。

たとえば職業である。 職業選択の自由は、かなり制限されてしまうだろう。 一般の企業に勤めることはとても難しくなる。 だから、準皇族という身分を考えるべきである。しかし、それより問題なのは、女性宮家に子どもが生まれた場合である。 皇統を女系まで広げるかである。 実は、その点については、まだ答えが出ていない。 今のところ、そこまでは話を広げないでおこうとなっている。

女系天皇論に対して反論もある。 明治天皇の玄孫である竹田恒泰さんなどが主張する旧宮家を復活すればいい、 という意見である。僕は、この旧宮家の復活には反対ではない。

そもそも旧宮家とは、日本を占領したGHQが廃止したものである。 天皇家をゆくゆくは断絶させようとしたのである。 そういう事情であるから、僕は旧宮家の復活はあってもいいと考える。 ただし、旧宮家があるから女性宮家を創る必要はない、というのは論理として 矛盾している。

先に天皇制は千数百年間続いた、日本の伝統だと述べた。 その伝統のなかには、8人の女帝がいたのである。 では、なぜ明治以後、女帝がなくなったのか。 それは、明治天皇以降、天皇は軍のトップになったからだ。 明治天皇も大正天皇も昭和天皇も、「大元帥陛下」だったのである。 だから、男子である必要があった。

そもそもの伝統を考えれば、江戸時代以前は女性天皇がいらっしゃったのだから、 今、女性天皇がダメだという理由は見あたらない。 ただし、女系をどうするか、この点については、日本の歴史上なかったことである。 だから小泉純一郎さんは総理のときに、皇室典範に関する有識者会議を設置し、 皇位継承問題を話し合ったのである。 このときは、悠仁様が誕生され、議論自体が立ち消えになった。

今回、女性宮家創設のためのヒアリングに僕が呼ばれることを知って、多くの手紙や 電話、ファックス、メールをもらった。 なかには、直接会って話したいという人もきた。 面白いことに、みなすべて、女性宮家を認めるなと言う。 保守だけではない。左の立場の人も反対する。 彼らは天皇自体を否定するから、わざわざ女性宮家を創ることも反対だという 考えである。

僕は、90年代後半から「日本の戦争」について連載をして、書籍化した。 その際に、天皇についてもいろいろ調べた。 過去の論文などを集めたのだが、ほとんど使えなかった。 90年頃まで、この国では、まともに天皇の研究はできなかったのである。 天皇の研究をすると、あれは右翼だと言われた。 学者たちのほとんどは天皇批判だったのである。 ここにきて、アカデミズムは変わってきた。 天皇について議論ができるようになってきたのである。

なぜ天皇がこれだけ続いたのか、そもそも日本人にとって天皇と何か。 僕たちは、これらの問題にようやく正面から向き合えるようになりつつある。 今こそ、女性宮家や女系天皇などの難しい問題について活発な議論をしていきたい。

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