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みんな、物事のゴールを探し過ぎ。終わりがあるという思い込みがそもそも間違ってる - 「賢人論。」第76回養老孟司氏(後編)

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解剖学者で2003年に大ベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)の著者、養老孟司先生。1年のうち2~3ヵ月は過ごすという箱根の別荘「養老昆虫館」を訪ねてみると、ゾウムシを中心に中学生の頃から集めているという昆虫の標本箱が四面の壁いっぱいの棚に整然と並んでいた。ここで過ごす間は1日中、国内外で採取してきた虫の標本を作り、電子顕微鏡やカメラで画像を撮影してデジタル図鑑を作っているのだという。そんな養老先生に、昆虫の魅力から、人間の生き方などについて、幅広く話を聞いてみた。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

現代人は自分が自然の一部だということを忘れてる。虫を捕るのはその事実を確認するということ

みんなの介護 昆虫は地球上で最も成功した生物だといいます。その種類は全生物の4分の3を占めると平凡社の世界大百科事典に書いてありました。なかでもゾウムシは最も種類が多いそうですね。先生がゾウムシを専門に集めているのは、そんなところに魅力を感じるからですか?

養老 「虫採りの何がそんなに楽しいんですか?」ってよく聞かれるんだけど、説明するのが面倒くさくて「よくわかりません」って答えてきたんです。仕事というわけではないし、誰かに頼まれてやってるわけでもないですからね。

でも、種類の多さということでいうと確かにおっしゃる通りで、要するに「残りもの」なんです。クワガタとかカブトムシみたいな人気のある昆虫と比べて誰も振り向かないし、種類が多いので未整理でそのままになっている領域が広い。

みんなの介護 昆虫マニアのなかには、新種の昆虫に名前をつけることをモチベーションにしている人が多いと聞きますが、先生もそうですか?

養老 いえ、そうじゃありません。新種のゾウムシは今も京都で捕まえてきたのがいますけど、論文を書いたり、学会誌に申請したりするのはやはり面倒くさくて、決してそのためにやっているわけではありません。

じゃあ何のためにやっているんだって、いよいよ説明しなけりゃならないわけだけど、簡単に言うと、「虫を見ることで自然を観察」しているんです。

虫を知る手段は、形を観察して、種類を分類して、命名するだけじゃありません。生態を知りたいと思えば、食べ物にしている植物のことも知らなきゃいけないし、住処にしている場所の地形や地質なんかも大いに関係しているから、調べていくと、日本列島はどのようにしてできたのかといったところにも考えが及んでいくんです。

要するに、虫は自然物そのものなんですね。虫を見ることをきっかけにして、自然の奥行きや広がりが見えてくる。それが面白いので、こうして飽きずにやっていられるわけです。

みんなの介護 虫を観察した結果、どこまで自然がわかってきましたか?

養老 ほら、すぐそうやって「どこまで」って聞くでしょ?だからこの説明は、面倒くさいし、難しいんですよ。

そもそも、自然にはそういう区切りのようなものがないんです。だけど多くの人は、そんな区切りのないものに付き合うほどの時間がないし、手間もかけたくないので、途中で区切って、その時点の理解で納得しようとする。そして、それ以上のことを見たいとも思わない。

みんなの介護 つまり、わかろうとしても、そこにゴールのようなものはなくて、終わりのない問いをくり返すようなものですか?

養老 そうです。そもそも、終わりがあると考えるのが間違いなんです。

なぜ、幼虫はわざわざ“サナギ”を経るのか

みんなの介護 昆虫のなかには、幼虫から成虫に「変態」する種類がありますね?人間と比べると、あまりの生き方の違いに途方もない思いがします。

養老 簡単に言うと、「幼虫→サナギ→成虫」という段階を経るのを「完全変態」、サナギの時期をすっ飛ばして幼虫が成虫になるのを「不完全変態」、そして脱皮だけで成長するのが「無変態」です。

幼虫と成虫の違いは何かというと、幼虫は食べることが専門で、大人の体を作るために食って食って食いまくる。成虫になると、メスは卵を産み、オスはメスに遺伝子を与える生殖器を得て、ひたすら子作りに励み、その仕事が終わると死んでいきます。

人間だと、食べることと生殖することは、長い人生の中で同時にやっていくわけだけど、虫は「変態」によって期間を分けてやっているんですね。

みんなの介護 生き物として、ある意味で合理的な生き方ですね。

養老 生物の教科書には、「不完全変態の昆虫が完全変態の昆虫に進化した」と書いてあるけど、はたしてそうでしょうかね?

だいたい、サナギという段階があるのが不思議です。サナギは、何もしないでじっとしていて動かないから、誰かに食われちゃってもおかしくない。そのために繭を作ってその中に隠れたり、土の中に埋まって身を守ったりするんだけど、なぜわざわざそんなことをするのか?

僕は子どものころ、チョウのサナギを家に持ち帰ってきて、どうなるかを観察したことがあるんです。すると、サナギの中からチョウが出てくるかと思いきや、ハエが出てきたり、ハチが出てきてびっくりしたんです。蛾のサナギが入ってる繭でも、同じことが起きたときもあった。

つまり、成長の段階で他の虫が寄生して、1つの個体から2つとか3つの個体が出てくるわけです。こういう現象は、大学で生物を研究している人のなかにも嫌う人が多くて、あまり真面目に語られることがないんだけど、そういうことが普通に起こっているのが虫の世界なんです。

だから、あるときから僕は、幼虫と成虫は別の生き物だと考えるようになりました。幼い虫が大人の虫になるんじゃなくて、食うことが専門の虫と、生殖専門の虫が別々に生きているんだというふうにね。

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