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【読書感想】試験に出る哲学 「センター試験」で西洋思想に入門する

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 専門書にはついていけないけれど、わかりやすすぎる「超訳」みたいな本だと「この哲学者は、本当にこんなことを言っていたのだろうか?」と不安になってしまう、そんな僕みたいな人間にうってつけなんですよこれ。
 センター試験の問題となると、「解いてみようかな」という気にもなりますし。
 流し読みできるほど簡単ではなく、同じところを二度三度と読み返し、頭をひねりながら、読む前よりも「哲学者の考え方」が少しだけわかったような気分になれるんですよ。
 本当は、これを入り口にして、『ソクラテスの弁明』とかを読むべきなんでしょうけど(薄い本なので、若い人はぜひそうしていただきたい。僕も一度は読みました)。

問:ベーコンは、正しい知識の獲得を妨げるものとして四つのイドラを挙げた。次の会話において、「劇場のイドラ」に囚われていると読み取れるのは誰であるか。(1)~(8)のうちから一つ選べ。

妹(中学生):たまたまテレビをつけたら、大学の先生がしゃべってたわ。なんだか面白くて、最後まで見ちゃった。その先生はねえ、プラトンという哲学者を研究してるんだって。そして、イデアというものが存在しているって言ってたよ。お兄ちゃん、プラトンやイデアなんて知っているの?

兄(高校生):プラトンというのは、有名な古代ギリシアの哲学者だよ。イデアってのは、一口で言うとねえ、事物の本質としての理念的な実在、とでもいうとこかな。倫理の時間に習ったよ。

母:お兄ちゃんは、事物の本質としての理念的な実在なんて偉そうに言うけど、わかってんのかな。ところで、その大学の偉い先生、本当に自分でもイデアが存在すると思っているのかしら? わたしたちのふだんの生活では、イデアなんて意味があるとはとても思えないわ。

妹:じゃあ、お母さん、プラトンは間違っているの? お父さんはどう思う?

父:お父さんは、イデアかどうかは知らないけど、なにか理想的な本物の世界というのは、あってもおかしくないと思うよ。

母:そう思うのはお父さんの性格からじゃないかしら。昔から何事も理想化しないと気がすまない性分だったからね。

兄:お父さんもイデアみたいなものはあるって言うし、倫理の教科書や高校の先生の説明もわかったな。やっぱりイデアはあるんだよ。

母:そうかしら。

妹:みんなの話を聞いてたら、なんだかよくわからなくなっちゃった。せっかく面白い考え方だと思ったのに。

(1)妹  (2)母  (3)兄  (4)父
(5)父と妹  (6)母と兄  (7)父と兄  (8)母と妹

(1999年 センター本試験 第3問・問3)

 センター試験って、こんな問題が出題されているのか……
 倫理を選んでなかった僕には「劇場のイドラ」という言葉がすでに意味不明なのですが、問題についての解説がこのあとに書かれていて、フランシス・ベーコンが挙げた四つの「イドラ」(人間の精神をとりかこんでいる先入観や偏見)について、まとめられているのです。

 一つ目の「種族のイドラ」とは、人類という種族が共通にもつもので、視覚や聴覚といった感覚をそのまま信じ込んでしまうことをいいます。たとえば、星が小さく見えるから、星の大きさも見たままのサイズだろうと判断してしまうのは、見たものはそのまま信じるという「種族のイドラ」が入り込んでいるからです。
 二つ目の「洞窟のイドラ」は、個人の性格や経験、育った環境、受けた教育などによって、狭い見方に陥ってしまうことをいいます。洞窟のように狭く閉じた集団の価値観を絶対視してしまうことも、洞窟のイドラにあたります。
 三つ目の「市場のイドラ」は、コミュニケーションのなかで生じる言葉の誤用や不適切な使用がもたらす先入観です。流言やデマを信じたり、抽象的な概念をもてあそんだりする際に、市場のイドラは生じます。
 四つ目の「劇場のイドラ」は、芝居や演劇を真実だと思い込むように、伝統や権威、誤った学説や理論を無批判に受け入れてしまうことで起こる先入観です。偉い学者が言っているからきっと本当だろうと、自分で情報を吟味せずに鵜呑みにしてしまう人は、劇場のイドラに囚われていることになります。
 こうした先入観を排し、実験や観察を通じて真理を探究する――帰納法や経験を重視するベーコンの哲学は、イギリス経験論の祖となって、ロックやヒュームに引き継がれていきます。

 これを読むと、この「四つのイドラ」を完全に排除することができる人がいるのだろうか……という疑問がわいてきます。
 そして、「倫理」では、こういう問題がセンター試験で出ているということに驚きました。
 「倫理」って、暗記ではなくて、読解力がかなり問われる科目なのですね。

 では、精神はどのような仕組みで成長するのでしょうか。それを説明するのが、ヘーゲルの代名詞ともいえる「弁証法」です。
 ヘーゲルの弁証法は、一般的には「正ー反ー合」と説明されます。ある主張(正)に対して、それに反する主張(反)が対置され、その両者を高い次元で統合する(合)ことが弁証法です。そして、この「合」の部分(矛盾を統合すること)を「アウフヘーベン(止揚)」と呼びます。
 ヘーゲルは、植物の成長を例にとって、弁証法のイメージを次のように描き出しました。

 つぼみは、花が咲くと消えてしまう。そこで、つぼみは花によって否定されると言うこともできよう。同じように、果実によって花は植物の偽なる定在と宣告され、その結果植物の真として果実が花に代って登場することになる。(『精神現象学郎(上)』樫山欽四郎訳、平凡社ライブラリー、18ページ)


 つぼみ(正)は、つぼみであることを否定されて(反)、花になる(合)。同様に花(正)もまた、花であることを否定されて(反)、果実になる(合)。この例が示すように、弁証法で重要なポイントは、あらゆる事物は、否定を原動力として発展していくということにあります。
 精神の成長も同じです。単に、リンゴや赤色ということを知らない幼児は、リンゴを見ても、「ものがある」としか思いません。その段階から、「赤いリンゴがある」と知覚できるようになるためには、「ものがある」という素朴な感覚を否定しなければならないのです。

「難易度を五つ星で表すならば、星二つか二つ半」で、こんな感じですから、けっこう歯ごたえはあるんですよね。でも、こういうのを自分なりに咀嚼してみることが、哲学を学ぶ醍醐味でもあるのでしょう。

ソクラテスの弁明 クリトン (岩波文庫)

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