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日本育ちのアフリカ少年、星野ルネが見た不思議の国ニッポン

【タレント・漫画家の星野ルネ氏】

【ハラハラ・ランチ】

【未知との遭遇】

【共鳴】

【協力者】

 カメルーン生まれ兵庫県姫路育ち、現在34歳の星野ルネさん(タレント、漫画家)。その生い立ちや日常を、自らユーモアたっぷりに描いたコミックエッセイが注目されている。タイトルはずばり、『アフリカ少年が日本で育った結果』。4歳を前に来日したルネ少年は日本でどんな大人になったのだろうか。

 * * *
 自分にとっては単なる日常が、普通に日本で育った日本人にとってはインプレッシブ(印象的)な出来事であることに気づいたのは、地元・姫路の飲食店で働いていた25歳のときです。

 接客の一環で、店のお客さんに僕が日本で育つ中で体験したエピソードをよく話していました。

 たとえば子供の頃、公園で見知らぬ子たちから「お! アメリカ人やん」「英語しゃべってみて!」とリクエストされ、「アメリカ人じゃなくてアフリカ人」「使う言葉は英語じゃなくてフランス語」と返したらポカンとされたこと。大人になってから、友達が働く日焼けサロンに遊びに行ったら、「お、おにいちゃんはもう焼かんでもエエやろ!」とツッコまれたりした話などです。

 そんな話を聞いたお客さんはみんな大笑いしたり、考えさせられると言ってくれたり、とにかく反応が良く、「もっと広い世界に発信したほうがいい」と言われました。「東京行けば?」「いつ行くの?」と言われているうちにだんだんその気になり、「1回チャレンジしてもいいかな」と思うようになったんです。

 上京し、発信の手段として考えたのはテレビでした。タレント活動を始めましたが、毎日仕事があるわけではありません。そこで、出演時のためにメモとして書き溜めていたネタを漫画にして、ツイッターに投稿し始めたのです。以来、たくさんの人に読んでもらえるようになり、今も1日1作のペースで投稿しています。

 カメルーン人の母と日本人の父の結婚を機に、初めて日本に来たのは4歳になる頃。当時僕には弟1人と妹2人がいて、僕もてっきり彼らと同じ日本とのハーフだと思っていたのですが、実は僕だけ母の連れ子でした。

 小学校に上がった頃、弟や妹との肌の色の違いに疑問を持ち、意を決して「僕だけお父さん違う?」と母に訊いたら、「えっ今気づいたの!?」と逆に驚かれたことがあります。カメルーンでは異父(母)兄弟は珍しくないので、母にとっては大した問題ではなかったようです。

 来日当初はまだ日本語が話せず、保育園では得意だった絵がコミュニケーションツールでした。小学校でも絵においては一目置かれる存在になり、高校くらいまでは、弟や妹を相手に即興漫画を描いて遊んでやったりしました。

 漫画はよく読んでいました。影響を受けたのは『ドラゴンボール』の鳥山明さん。『スラムダンク』の井上雄彦さん、手塚治虫さん、宮崎駿さんなどのアニメにも親しみました。『まんが日本の歴史』も大好きで、武将や戦国時代にも興味を持ちましたね。なかでも徳川家光の話はとても面白かった記憶があります。

 日本史の教科書では大人になった家光しか書かれませんが、漫画では幼少期から描かれているので家光を身近に感じられ、すんなり物語の世界に入っていけました。今回の本で僕の生まれたシーンから始め、幼少期の出来事をたくさん描いているのは、その影響もあるんです。

◆サンコンやゾマホンが与えた影響

 快活に育った僕ですが、まだ日本に外国人が少なかった子供の頃、イヤな思いを全くしなかったわけではありません。当時の有名なアフリカ系タレントといえば、サンコンさんやゾマホンさんなど。本当はとても知的な人たちなのに、テレビでは滑稽な役回りしか割り当てられていませんでした。その影響で、学校などでは面白おかしくイジられることが多かったんです。

 小さい頃は外見(アフリカン)と中身(日本育ち)のギャップでいい思いをしたことはなかったのですが、それがだんだん変わっていったのが中学のときです。

 覚えているのは、部活でバスケットボールの試合に臨んだ時のこと。レギュラーでもないのに、ベンチに座らされました。先輩曰く、僕が座っているだけで相手にプレッシャーを与えられるというんです(笑)。

 関西、特にお笑いの世界には「オイシイ」という概念がありますが、僕自身も、「これはこれでオイシイかな」と思えるようになっていきました。社会人になった頃には、完全に自分の特徴を「燃料」にすることができるようになっていったんです。

 ただ、日本に暮らすマイノリティが全てそうであるわけではありません。カメルーンと日本のハーフである弟や妹たちは、音楽やファッションなどの「カッコいい」分野に進んでいきました。そんな弟から見ると、僕の生き方は「プライドがない」と映るようです。

 外見と中身のギャップを笑いに変えることは、周りにおもねる僕の「弱さ」だと言われたこともあります。でも、僕からすると、逆に弟こそ弱く感じられました。「おまえはそんなのを笑い飛ばす強さもないの?」と。誰しも何かで認められたいと思っていて、その方向性が違うだけの話なのですが……。

 肌の色だけでなく、薄毛、太っているなど、外見をネタにできる人もいれば、触れられるのが嫌な人もいます。大人になるほど、受け入れられるようになっていくと思いますが、子供の頃はそれが難しい。周りに愛がなければ、イジリはイジメになりますから。僕は日本に来た4歳の頃からいい人達に出会えたおかげで子供時代を楽しく過ごせましたが、それは運が良かっただけかもしれない。

「ルネさんと付き合う人が慣れて普通になっていくと、面白いやり取りは減っていくんじゃないの?」と言われるのですが、むしろそれが目的です。

 僕がいま漫画で描いていることは、面白くなくなっていい。面白いということは、イジリやイジメのネタになるし、それは外国人やハーフが日本で普通の社会人として生きていくには邪魔なのです。だから、僕の話で一回笑って楽しんでもらい、慣れて笑われなくなったら僕の漫画は完成だと思っています。

 シンプルに笑われなくなると、コメディアンとしての腕が試されます。飽きられてからが勝負。属性が取っ払われた世界で、表現者としてレベルアップしていきたいですね。

【PROFILE】1984年カメルーン生まれ。母が日本から研究で訪れていた現在の父と出会い結婚。父の帰国に伴い、4歳頃に来日して以来、兵庫県姫路市で育つ。現在はタレント活動の傍らSNSで表現活動を展開している。著書『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』(毎日新聞出版)が話題。ツイッターアカウントは「@RENEhosino」。

●取材・構成/岸川貴文(フリーライター)

●掲載した作品4点は、星野ルネ『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』(毎日新聞出版)より転載

※SAPIO2018年11・12月号

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