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震災からの1年を振り返る

今日で、東日本大震災が発生して1年になります。この震災で命を落とされた方々に、哀悼の意を表します。

この1年は本当に様々なことがあって、あっという間だったなというのが正直なところです。ここで簡単にですが、私の関する「食」を通じて振り返ってみます。

初期の頃の物不足


震災当初は、本当に様々な物資が不足していました。一時期はスーパーやコンビニの棚も本当にガラガラになっていました。その原因は、作れなかったことと、運べなかったことでした。

地震によって、道路をはじめとする交通網が寸断されるとともに、大規模な停電や断水が起こりました。停電は徐々に回復しましたが、電力使用量を十分にまかないきれず、計画停電が実施されていました。そのため、食品を製造するための原料が無い、食品の原料があっても、容器が無い、電気が来ないため製造ができないといった理由で食品の製造は滞りました。

また、出荷する製品があっても出荷できないという事態も発生しました。食品の倉庫が地震で被害を受け、出荷できなかったケースがそれです。

さらに、工場そのものが被災して製造できないケースもありました。三陸などの水産加工業だけでなく、首都圏の臨海部でも液状化などで大きな被害を受け、再開までに数ヶ月を要した工場もありました。

「フードチェーン」という表現をしますが、本当に食品製造は絡み合った巨大なシステムだということを実感しました。

放射性物質による汚染と暫定規制値


これまでも何度か書いてきたのですが、今回の原発事故による放射性物質汚染に対する対処は、かなりうまくいったと私は考えています。特に、初期のヨウ素汚染に対する対処については、いち早く出荷や流通を制限したことによって、消費者の内部被曝は最低限に抑えることができました。これは、そうした対策がとられなかったために大量の被曝を招いたチェルノブイリ事故後の状況とは明らかに異なります。1年が経過した現在では、きのこや水産物など一部の食品を除いては、ほとんど放射性セシウムは検出されていません。その結果、4月からは食品の基準も暫定規制値の5分の1に設定することが可能になりました。しかし、概ね安全な状態であるといっていい食品の状況も、消費者に理解され安心してもらえては言えないようです。

リスクコミュニケーションの不足


原発事故によって政府への信頼が失われていたのは事実かもしれません。しかし、政府の側に「政策を理解してもらおう」という強い意志はあったのでしょうか?暫定規制値に限らず、食品の安全基準というのは安全と危険の境界線ではありません。また、多くの場合、基準は現実では考えられないほど多量の摂取を前提として設定されているため、現実の摂取量とは開きがあります。そのため、仮に一時的に基準を超える量を一時的に摂取したとしても健康に影響をあたえることはほぼありません。しかし、そうしたことへの粘り強い説明が欠けていたように思えます。そうした発言を、世間の矢面に立って続けていたのは唐木英明氏を始めとしたごく一部の方々だったと思います。しかし、そうした方々は御用学者・御用記者などと批判を受けてしまいました。

私は唐木氏の行った科学的な説明は必要だったと考えています。唐木氏が一人で科学的な説明と不安に寄り添う役目を同時にこなす必要もなかったと考えています。科学的な説明と不安に寄り添うことはリスクコミュニケーションの両輪であり、それは一人でこなす必要はなく、テレビ番組なりリスコミの現場では複数のゲストによって分担して担えばよいわけで、それをテレビの司会なりファシリテーターなりが上手にまわせばいいのではないでしょうか?

4月からの新基準についても、リスコミでは不信の声が上がっていたようです。新基準が運用されれば終わりではなく、あらためて地道にリスクコミュニケーションを行っていく必要があります。

安全宣言(とかそれに類するもの)


この1年、安全宣言が行われた後に、基準値越えの食品が見つかり、かえって不信を招くといった事例が繰り返されたと思います。

私は、あるタイミングにおいて何らかのアナウンスを行うことは一概にダメだとは思いません。そうした対応を求める声も少なからずあります。しかし、そのやり方については再考したほうがよいと考えています。

食品の検査はサンプル検査である以上、どうしても検査の網をすり抜けるものは出てきます。ですから、安全宣言において、だからすべて安全というのではなく、「今後も検査等の確認は十分に行っていくとともに、問題が発生した場合には迅速に対応する」といったことも併せて発信すべきだと考えます。その分、歯切れは悪くなるかもしれませんが、現時点で、どのような方法でどの水準までの確認がとれたのか、今後の体制と対応について明言する方が誠意があるように私には感じられます。

震災はある意味時期が良かった


食品への放射性物質の汚染は、おそらく最小限ですみましたが、それは震災の起きた時期も影響しているなと考えています。

3月という時期は、稲作がまだ始まってはいない時期です。そのため、放射性物質の農作物への被害は、初期のヨウ素による葉物野菜と、その後のセシウムによる果樹やきのこへの被害が主でした。特にセシウムについては葉や樹皮からの移行によって果実や茶葉などへの汚染が目立ちました。一方で、根からの吸収は限定的であったためコメへの被害は限定的でした。

しかし、もし放射性物質の放出が田植えのあとだったらどうだったでしょう?例えば6月11日に地震が起きていたとします。その場合、福島から関東にかけて広い範囲で稲が放射性物質にさらされ、コメへと移行していなかったとも限りません。だとすれば、23年度産のコメは多大な被害を受け、今ごろは新基準への移行など土台不可能だった可能性もあり得ました。また、暫定規制値を下回るにしても、もっと高い数値の食品を継続的に摂取せざるを得ない状況が発生していたかもしれません。

次の1年へむけて


とにかく、水産業を始めとした被災地の食品産業が少しでも早く復興するとともに、福島を中心とした東日本の食材への偏見が少しでも解消することを祈っています。

また、微力ながら被災地の方々が誇りをもって美味しい食べ物を届けて下さることを応援していきたいと考えています。

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