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【特別対談】白戸圭一×篠田英朗:「アフリカ」から見える「日本」「世界」のいま(1) - 白戸圭一,篠田英朗

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「常任理事国」入りの「蹉跌」

篠田:もう少し具体的に言うと、現在JICA(国際協力機構)の理事長をされている北岡伸一先生(東京大学名誉教授)は国際政治学者で、われわれの大先輩なのですが、2004年から2006年にかけて国連代表部の次席大使をされていました。そして当時の日本は、かなり本気で常任理事国の座を取りに行っていた。

白戸:そうでしたね。私は当時、『毎日新聞』記者としてアフリカに駐在していましたが、この常任理事国狙いの件では、初めて東京本社から取材の命令が来ました。アフリカにいる記者に東京本社の偉い人から命令が来るなんてことは普通ないですが、それがあった。そういう機会でしたよ。

篠田:今にして思うと、当時は今よりも盛り上がっていた。TICADでもアフリカ向けの援助を増やそうとしていました。われわれは経済大国で、実は常任理事国も狙っている、だからアフリカ行かないでどうするのだ、というのが正論でもありました。

 そんな時代に、北岡先生が常任理事国入りの案件を担当するような形で、次席大使として国連に入った。中公新書でそのときの体験記を本にされていますが(北岡伸一『国連の政治力学―日本はどこにいるのか』)、結局なぜ常任理事国を取れなかったのか、いろんな言い方があって……。

白戸:短いバージョンで言えば。

篠田:一言で言えば、北岡先生の総括は、アフリカの票が取れなかったことだ、と。

白戸:そうでしたね。間近で見ていてよくわかりました。中国に全部ひっくり返された。

篠田:アフリカの票が取れなかったことがわかった瞬間、国連安全保障理事会の改革はなくなり、日本の常任理事国入りもなくなった。

 もしアフリカ諸国がそれなりにまとまった形で、あるいはAUのコンセンサスとして、安保理改革の具体案はこれでいいじゃないかと言い出していたら、どうなっていたかわからなかった。ところがアフリカの票が取れなかったその瞬間、常任理事国になれないことが決定したわけです。

 この結果が何を意味するのか。人によっては、ますますアフリカと仲よくしなきゃいけないことがわかった、と言う。われわれはそう総括しますよね。一方では、あんなにODAのお金を使っても、日本にそんなに冷たいならもう撤退するぞ、と言い出す人が出てくる。

 ではどうすればいいのか。いまだにわからないところがある。3本柱の序列3位のからみで出てくるアフリカの位置づけの難しさです。当時と比べて日本が常任理事国になる可能性もだいぶ減りました。それでまた位置づけが難しくなっているところもあるかもしれません。

白戸:こういうことがあると、じゃあ日本はアフリカとつき合うのをやめようと喉元まで出かかりますが、それもなかなか言えない。

白戸圭一さん

 と言うのも、冷戦構造が最後まで残っている東アジアには、アフリカで言えばAU、欧州で言えばEUのような地域機構というもの存在しないからです。ヨーロッパにはもちろんあるし、アフリカの国や米州大陸ですらあるような地域機構が存在していません。だから日本の場合、日米同盟以外の外交というと、国連を舞台にしたマルチ外交しかないという状況になっています。

 そうした中で国連外交を進めようとすると、相手はアフリカしかない。マルチの国連外交を捨て去ってしまうと、日米同盟しか残らない。ところが米国では、ドナルド・トランプのような人が大統領になることもあるわけです。そんな米国だけにぶら下がっているのは日本にとって極めてリスキーなので、そのリスクヘッジという意味での多国間外交はありだと思います。

中国の存在感

白戸:もう1つ、日本の一般的なビジネスマンや普通の市民のアフリカに対する認識を変えたきっかけとして、アフリカにおける中国のプレゼンスの拡大という現実があると思います。先ほど2005年の安保理改革の話をしてくださいましたけれど、当時、私は新聞記者としてヨハネスブルグに駐在していて、国連におけるアフリカ諸国の票を、中国がオセロゲームのようにひっくり返すところを目の当たりにしました。当時の日本人の多くは気がついていなかったかもしれないけれど、私たちはこの時初めて、新しい時代が来ていると気づきました。

 つまり、1990年代の日本は世界1のODA供与国ですから、日本には金の力があった。だから、金をもってアフリカにアプローチすれば、彼らを動かせるかもしれないと思っていた面があった。しかし、現実にはそうではなかったことが、この時わかったのです。

 日本人は「金を出しても言うこときかないならアフリカから手を引くぞ」と言いたいかもしれません。20年前ならば、アフリカの国々は「日本が援助を引いたら困る」と言ったでしょう。しかし、今ならば、アフリカの国々は「どうぞ手を引いてください」と言い出すでしょうね。

 なぜなら、アフリカ開発の資金面の主役が、今では中国になっているからです。日本だけでなく、OECD(経済協力開発機構)のDAC(開発援助委員会)諸国、すなわち第2次世界大戦後の世界の開発の主役の座にあった国々ではなく、中国がアフリカ開発の主役の座にある。だから、仮に日本が「アフリカから手を引く」と言っても、極端に言えばアフリカの国は別に困らない状況になってしまっているわけです。

篠田:そうですね。

白戸:こうした状況には、日本人のナショナリズムを刺激するところがあるように思います。例えば、私が中国のアフリカにおけるプレゼンスの強さについて何かの記事を書くと、そんなに中国が頑張っているなら負けるわけにはいかない、という反応が何年か前までは結構ありました。「日本はもっとアフリカにコミットしろ」という、ナショナリズムに基づいた素朴な反応がありました。

 最近は、日本人の思考はそこからもう一歩先に進んでいると思います。まず、多くの日本人が、人口も中国と日本はあまりに違うし、アフリカに供給できる資金額も中国にはかなわないということを認めていると思います。

 しかし、先ほど篠田さんがおっしゃったように、日本政府としては、マルチ外交の柱を維持するために、アフリカにコミットしなければならない。だけどアフリカから「別に手を引きたければ引いてくださっていいですよ」と言われかねないぐらい、日本のアフリカとの貿易は少なく、援助も少なくなっている。おまけに少子高齢化で日本全体の国力が衰退している。そんな中で、どうやってマルチ外交の主戦場であるアフリカに対する外交を続けていくのかについて、真剣に知恵を絞らざるを得なくなっている。そうした状況の下で出てきているのが、「官から民へ」というキーワードです。政府による援助だけでなく、日本企業にアフリカにもっと投資してもらい、アフリカとの関係を強めようという考えです。

篠田:現状認識としては、そういう整理でいいでしょうね。(つづく)

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