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ウォーク・アウェイ運動――アメリカのリベラル派はなぜ嫌われるのか - 西山隆行 / アメリカ政治

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リベラルと民主党から立ち去ろう!――ブランドン・ストラカというニューヨークのゲイの美容師が、自分は嫌悪に満ちたリベラルと民主党を支持することは出来ないため立ち去ることにしたという内容の動画をYouTubeで発表したのが話題になり、「ウォーク・アウェイ運動」がアメリカで展開されている。

かつて自分はリベラルだった、という言葉で始まるビデオで、彼は、人種・性的指向・性別に基づく差別や独裁的思想、言論弾圧を拒絶するために昔リベラルになったが、今では、それとまったく同じ理由からリベラルと民主党から立ち去るのだと説明している。SNSには彼に賛同した人々によって、なぜ自分がリベラルに愛想をつかしたのか、民主党を捨てたのかを告白するメッセージが数多くあげられている。

このウォーク・アウェイ運動は組織だった運動ではないので、彼らの掲げるメッセージは多様である。リベラルに愛想をつかしたという人もいれば、左派に愛想をつかしたので自分と同じリベラル派は民主党から立ち去ろう、という人もいて、ウォーク・アウェイ運動が目指すのが、民主党批判なのか、左派批判なのか、リベラル批判なのかは厳密にはよくわからない。

これは、アメリカにおいてリベラルや左派という言葉の用いられ方がもともと曖昧なことにも原因がある。だが、民主党系の政治家や活動家に対する批判の高まりと、トランプに対する支持の強まりという近年のアメリカ政治の流れを反映していることは間違いない。

日本では、保守という言葉に批判的な人が多い一方で、リベラルという言葉にはよいイメージを持つ人が多い。だが、今日のアメリカでは状況は異なる。ギャラップ社が発表したアメリカ国民のイデオロギー調査によれば、1990年代から今日まで、保守を称する人はアメリカ国民の4割弱、リベラルを称する人は2割程度で、リベラルよりも保守の方が評判が良い。

2017年には自称保守は35%で、自称リベラルが26%に増大したため、ギャラップ社が現在の調査方法を導入して初めて、両者の差が10%未満となった。また、民主党支持者の半数以上がリベラルを称するようになったのは、調査開始後初めてだという。このように、トランプ政権に対する反発もあってリベラル派が勢力を増大させてはいるものの、アメリカではリベラルが良いイメージでとらえられているわけではない。

では、アメリカにおけるリベラル派とはどのような人で、どのようなイメージを持たれているのだろうか。

今日のアメリカ政治で一般的に用いられている意味でのリベラルという言葉は、フランクリン・ローズヴェルト大統領のニューディール政策を実施した人々が自らをリベラルと称するようになったことによって登場した。アメリカでは連邦政府は大きな役割を果たすべきでないと伝統的に考えられていたため、大恐慌が発生してもハーバート・フーヴァー大統領は積極的な策を講じなかった。その方針を転換し、公共事業を実施したり、年金を導入したりするなど、政府機能の拡大を目指す人がリベラルを称するようになった。

第二次世界大戦後、アメリカでは30年に及ぶ好景気が続くことになり、そのきっかけを作ったとされた民主党に対する支持が続いた。大統領選挙で共和党候補が勝利することはあったものの、連邦議会選挙(とりわけ下院)では民主党が共和党に優位していた。その中で、自らの利益関心を実現したいと考える人々は、勝ち馬に乗ろうとして民主党陣営に加わった。1960年代以降には、黒人やエスニック集団、女性、LGBTなど、自らのアイデンティティの実現を目指す人々や、環境保護など新たな価値の実現を目指す人たちが民主党連合に加わり、リベラルを称するようになった。

民主党とリベラル派が優位する時代にあっては、民主党陣営を構成する集団は、拡大するパイを他集団と奪い合う関係に立ったため、必ずしも協調的な態度をとらなかった。また、1960年代に学生運動や第二派フェミニズムの活動家が「個人的なことは政治的なことである」というスローガンを掲げたことに象徴されるように、リベラル陣営で影響力を増大させた人々はアイデンティティの実現を重視した。

アイデンティティの実現を目指す活動では、自らのアイデンティティについて他から介入されることは往々にして想定されない。また、経済的利益とは異なり、妥協は容易でない。これらのことが重なり合った結果、アイデンティティを重視するリベラリズムは、非妥協的な立場をとるようになっていった。リベラル派は、保守派の目には、非妥協的で協調不可能な存在に映るようになっていったのである。

アイデンティティ・ポリティクスを展開する人々の議論やスタイルには、いくつかの限界があると指摘される。

第一に、アイデンティティ・ポリティクスを主張する人々は、多数派に属すると考えられる人々のアイデンティティや利益関心に十分に配慮しないことが多い。マイノリティとされる人々を社会的弱者と見なし、そのアイデンティティと利益関心の実現が追求される。アメリカの多文化主義者はしばしば、マイノリティの文化を擁護するよう主張する一方で、伝統的な主流派文化を白人に有利なように偏ったものと位置付け、白人(とりわけ男性)を既得権益者とみなす傾向が強い。論者によっては、白人(男性)を、マイノリティを無意識のうちに見下す差別主義者と位置づけることもある。

だが、一連のトランプ現象が明らかにしたのは、アイデンティティ・ポリティクスの担い手や多文化主義論者が既得権益者と見なした人の中でも、労働者階級の白人は、自分たちを被害者とみなしていることだった。

彼らは、社会的に成功した白人からは見下され、マイノリティからは積極的差別是正措置という名の逆差別を受け、家庭内では妻に見下されている(製造業の衰退によって、主たる家計支持者としての立場をサーヴィス業に従事している妻に奪われた場合は特に顕著である)という三重の被害者意識をしばしば抱えている。ある論者はこのような労働者階級の白人(男性)のことを「新しいマイノリティ」と呼んでいるが、彼らはアイデンティティ・ポリティクスに代表されるリベラル派の議論の射程には入ってこず、民主党とリベラル派に不満を感じているのである。

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