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韓国大法院判決(2018年10月30日新日鐵住金徴用工事件)を読む

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■メガトン級破壊力の韓国大法院判決

2018年10月30日の韓国大法院は、「強制動員生還者」の韓国人(遺族)を含めて、1億ウオン(約1000万円)の慰謝料請求権を認めて、新日鐵住金に賠償金の支払いを命じる判決が言い渡しました。

私は、日本がアジア諸国を侵略し、朝鮮に対して不法で過酷な植民地支配をしたものと確信しています。その私から見ても、今回の韓国の大法廷判決はビックリです。

今後の日韓関係に長期間にわたり深刻な悪影響を与えると感じます。また、日本にとっては、韓国との関係にとどまらない大変な影響をもたらすものです。

今まで新聞記事の要約でしか、この判決文がわかりませんでしたが、全文が翻訳(仮訳)されたので、読んでみました。また、当該事件については、大法院は、2012年5月24日に判決を言い渡しており、その差し戻し審の再上告事件として今回判決が言い渡されたものです。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

また、日本の最高裁は、中国人の強制徴用に関して、2007年4月27日「日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民(法人含む)に対する請求権は、日中共同声明5項によって、裁判上訴求する権能を失った」と判決しています。これと読み比べてみます。

■2018年10月30日大法院判決のポイント

核心的争点は、「植民地時代に日本企業に強制動員(徴用)された韓国の徴用工が日本企業に対して、1965年の「日韓請求権協定」にもかかわらず、慰謝料損害賠償請求権を裁判上請求できるか」という点です。

今回の大法院判決は次のように判断します(上告理由第3点)。
(1)本件は、不法な植民支配・侵略戦争に直結した日本企業に対する反人道的な不法行為の慰謝料請求権であり、未払い賃金や補償金を請求しているものではない。

(2)請求権協定は、不法な植民支配に対する賠償ではなく、サンフランシスコ条約第4条(a)に基づく債権債務関係の処理だけであり、植民地支配の不法性に直結する請求権まで含むものではない。

(3)請求権協定第1条により日本が韓国に支払った3億ドルの無償提供及び2億ドル借款は、同協定2条の請求権放棄と法的対価関係にはない。

(4)請求権協定の際に、日本政府は、植民地支配の不法性を認めないまま強制動員被害の法的賠償を否認した。

(5)請求権協定の交渉の際に、韓国が日本に対して8項目に対する補償として総額12億2000万ドルを要求し、そのうち3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定していた事実を認めることができるが、実際の請求権協定は極めて低額な無償3億ドルで妥結し受け取ったものであり、強制動員慰謝料も請求権協定の適用対象者に含まれていたとは言いがたい。

■請求権協定の文言

大法院判決は請求権協定を引用します。請求権協定第1条に3億ドルの無償供与と2億ドルの借款が定められ、第2条1項に次のように定められています。(しかし、大法院判決は両条は対価関係には立たないとします。)。
1. 両締約国は、…両国間及びその国民間の請求権に関する問題がサンフランシスコ平和条約第4条(a)に規定されたことを含め、完全かつ最終的に解決されたことを確認する。

2. (略)

3. …一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益として、本協定の署名日に他方の締約国の管轄下にあることに対する措置と、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権として同日付以前に発生した事由に起因することに関しては、如何なる主張もできないこととする。
さらに請求権協定に関する「合意議事録(Ⅰ)」には次のとおり定めています。
(a) 財産、権利及び利益とは法律上の根拠に基づいて財産的価値が認められる全ての種類の実体的権利をいう

(e) 同条3.によって取られる措置は、同条1.でいう両国及びその国民の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題を解決するために取られる各国の国内措置をいう。

(g)同条1.でいう完全かつ最終的に解決されたことになる両国及びその国民の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題には、韓日会談で韓国側から提出された『韓国の対日請求要綱』(いわゆる8項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがって同対日請求要綱に関しては如何なる主張もできなくなることを確認した。

■2005年の韓国政府公式見解と追加措置

大法院判決は、次のような2005年の韓国政府の公式意見と追加措置を認定しています。(故盧武鉉大統領時代です。)
韓国政府が設置した請求権協定を検討する民官共同委員会を設置し、2005年8月に「請求権協定は、サンフランシスコ条約第4条に基づき韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を解決するためのものであり、日本軍慰安婦問題等、日本政府と軍隊の日本国家権力が関与した反人道的不法行為については請求権協定で解決されたものとみることはできず、日本政府の法的責任は残っており、サハリン同胞問題と原爆被害者問題も請求権協定の対象に含まれなかった」と公式意見を表明しています。
しかし、同時に、この公式意見では次の内容も含まれていました。
○「韓日交渉当時、韓国政府は日本政府が強制動員の法的賠償、補償を認めなかったことにより、苦痛を受けた歴史的被害事実に基づき政治的補償を求め、このような要求が両国間無償資金算定に反映されたと見なければならない」

○「請求権協定を通して日本から受領した無償3億ドルは、個人財産権(保険、預金等)、朝鮮総督府の対日債権等、韓国政府が国家として有する請求権、強制動員被害補償問題解決の性格の資金等が包括的に勘案されたものと見なければならない」
この公式意見に基づき、韓国政府は、2007年犠牲者支援法により、強制動員犠牲者には2000万ウオン、強制動員生還者には80万ウオンを支給しました。

■大法院判決への私の疑問

私は弁護士ですが、国際法の専門家ではありません。ただ、その普通の弁護士がこの判決を読んだときに、次の疑問が生じました。

● 韓国政府の対日要求8項目には、強制動員被害者の精神的肉体苦痛に対する要求も含まれていたことは大法院判決も認めている。にもかかわらず、請求権協定の対象に含まれないといするのは不合理。金額が少ないからという理由は根拠として不十分ではないか。前記「合意議事録(Ⅰ)」の(g)にも反するのではないか。

● 請求権協定は、サンフランシスコ条約4条(a)が債権債務関係の処理であることは間違いないが、請求権協定の文言は、「サンフランシスコ…平和条約第4条(a)に規定されたことを【含め】、完全かつ最終的に解決された」としており、【含め】と明記されている以上、同条約第4条(a)以外の規定されたものも含まれていることは明白です。

それは他の問題、すなわち「韓国の歴史的被害事実」に基づく関係も含まれると解釈するのが自然な解釈でしょう。もし違うというなら、第4条(a)以外の関係とは何なのでしょうか。この点、大法院判決も「そう解釈される余地がないではない」と歯切れが悪いです。

● 大法院判決は、不法行為の慰謝料請求権であることを強調し、この慰謝料請求権は請求権協定の対象外としています。では、賃金請求権等は請求権協定の対象となっており、徴用工は請求できないと判断しているのでしょうか。この点、大法院判決は明確ではないように思います。

しかし、サンフランシスコ条約4条の規定に賃金請求権は含まれるでしょうから、請求権協定の対象となるでしょう。大法院は、この賃金請求権については判決で認容するのでしょうか?(たぶんこの判決の論理の延長では認容できないでしょう)

● 日韓政府の条約であっても、国民個人の請求権を奪うことはできないという判断は、一般論としてはそのとおりでしょう。しかし、その個人の請求権を国内措置として裁判所が判決として支払いを命じることは、上記「合意議事録(Ⅰ)」の(e)の国内措置(当然、国内の裁判制度や判決も含まれる)をとらないとの確認に反しているでしょう。

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