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中間選挙後の米国―米中関係の行方

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米中対立の背景


周知のとおり、米中間の貿易は不均衡な関係にある。米国の中国に対する貿易赤字は拡大を続けており、2017年には3,757億ドルに達した。これは、米国の貿易赤字全体の46.3%を占める額である。

ただし、いまや米国にとって中国は最大の貿易相手国である(2017年時点で、第2位はカナダ、第3位はメキシコ、第4位は日本)。2017年には米国貿易全体の16.3%を中国が占めるに至っている。中国にとっても米国は最大の貿易相手国である。

なぜ米国と中国は、経済相互依存を深めながらも、対立を増しているのであろうか?

国際政治学では従来、多くの実証的な研究が経済相互依存の紛争対立抑止効果を肯定する結果を出してきた。

経済相互依存は紛争対立を抑止するのか、あるいは助長するのかは、自由な貿易投資を推進している現在の国際社会にとって、非常に重要な命題である。

経済相互依存と国家間の紛争対立との関係は、国際政治学における主要な論点の一つであり、従来、主に二つの立場から対立する見方が提示されてきた。一つは、かつてモンテスキューが述べたとおり「経済的な相互依存の進展は政治的な協力関係を育む」(Viner 1951ほか多数)という見方。この見方は、ヨーロッパの統合、米中の接近、米ソのデタントなどを正当化する考えとして、多くの人間に支持されてきた。一方で、こうした相互依存の協調促進効果を批判する見方も根強く存在してきており、中には「経済的相互依存の進展は、協調を促進するどころか、むしろ政治的な対立を作り出す」(Gilpin 1981など)と主張する者もいる。

経済相互依存下で対立が深まる因果関係については、先行研究および筆者自身の研究から、以下の5つの仮説が得られる。

1.経済相互依存は既存大国と新興大国との覇権争いを必ずしも抑止しえない(Papayoanou1 1996)
2.経済相互依存が対立抑止効果を持つのは民主主義体制においてのみである(Gelpi & Grieco 2000)
3.相互依存は対等な関係ではなく、より依存の低い国は、より依存の高い相手国に対して高圧的になる(Gilpin 1981など)
4.経済相互依存が抑止しうるのは軍事衝突。相互依存にある国同士では、政策決定者が互いに「対立が軍事衝突には発展しない」と予測し合うからこそ、外交的対立が増加する(Gartzke 1998)
5.相手国との貿易によって不利益を受けた比較劣位産業の関係者が、自国政府を強硬姿勢へと動かす(関山2018)

これら5つの仮説は、客観的な状況証拠から見て、いずれも一定の説得力がある。

恐らく現実には、これら全ての因果関係が(その他の因果関係とともに)多かれ少なかれ作用して、結果としてトランプ政権を中国との貿易戦争へと駆り立てたのだと筆者は考える。

では、これら5つの因果関係が正しいとすれば、米中貿易戦争は今後どのように展開していくと考えられるのか、予測してみたい。

直近1〜2年:米中貿易戦争の現状維持


この点、まず直近1、2年の展開を考えるにあたっては、第5の仮説が手掛かりになろう。

つまり、対中関税制裁が、トランプ共和党政権にとっては選挙の支持目当てという事であれば、中間選挙を終えれば、差し当たって現状以上にエスカレートさせる理由はなくなる。

特に、各種の世論調査では、必ずしも対中関税政策が広範な支持を得られていない由であるから、なおさら今後の出方は慎重になろう。

ただし、この貿易戦争によって米国が受ける負の影響が顕在化するには時間がかかる。

むしろ米国では、追加関税を払わされる米国企業・国民(特に中国製部材を扱う企業関係者)にとっては不利益だが、米国政府にとっては追加的な関税収入(単純計算で約300億ドル)という成果が期待しうる。

この追加関税収入で、中間所得者向けの減税(5000万人に年額600ドル減税可能)やインフラ投資(メキシコ国境の壁は総額200億ドル)などを積極的に行うことで、大統領選に向けた支持獲得を狙うことが可能になる。

中間選挙の結果、連邦議会が上下院でねじれたので、向こう2年間は中間層向けの追加減税や予算措置を伴うインフラ整備といったトランプ政権の政策は、議会を通らなくなるだろう。

しかし、恐らくトランプ大統領にとっては、そんなことはお見通しで、「米国民の利益になる政策を実施しようとしているのに、民主党が邪魔をして実現できない」と、全部、民主党のせいにして、大統領選へ突き進むのだろう。

結局、むこう1、2年は、より大きく依存している中国側が何らかの妥協を示さない限り、しばらくは相互に引き上げた関税の維持が続くと予想される。


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