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米中関係―なぜ経済相互依存の米中が対立するのか

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米中はなぜ対立するのか

2018年7月6日、米国が中国の知的財産権侵害への対抗措置という名目で818品目の輸入品に340億ドル規模の制裁関税を発動し、中国も同規模の報復関税を発動。さらに8月23日には第2弾、9月24日には第3弾の相互関税引き上げへと発展し、対立はエスカレートしてきている(表1参照)。

表1 米中の相互関税引き上げ措置

周知のとおり、米中間の貿易は不均衡な関係にある。米国の中国に対する貿易赤字は拡大を続けており、2017年には3,757億ドルに達した。これは、米国の貿易赤字全体の46.3%を占める額である。

ただし、いまや米国にとって中国は最大の貿易相手国である(2017年時点で、第2位はカナダ、第3位はメキシコ、第4位は日本)。2017年には米国貿易全体の16.3%を中国が占めるに至っている(図1参照)。中国にとっても米国は最大の貿易相手国である。

図1 米中貿易額の推移

(データ出所)米国商務省

つまり、米中は深い経済相互依存関係で結ばれている状態。

この点、国際政治学では従来、多くの実証的な研究が、経済相互依存の紛争対立抑止効果を肯定する結果を出してきた。

それにも関わらず、なぜ米国と中国は、経済相互依存を深めながらも、対立を増しているのか?

そもそも、自由な貿易投資の進展によって、世界全体で経済相互依存が進むなかで、その経済相互依存が紛争対立を抑止するのか、あるいは助長するのかは、非常に重要な命題である。

なかんずく、いまや世界一位、二位のGDPを誇る米国と中国の間で、経済相互依存が本当に対立抑止に効果を持たないのかどうかは、今後の国際社会の行く末に大きな影響があるテーマである。

経済相互依存下の対立に関する5つの仮説

経済相互依存下で対立が深まる因果関係については、先行研究および私自身の研究から、5つの仮説が得られる。

1.経済相互依存は既存大国と新興大国との覇権争いを必ずしも抑止しえない(Papayoanou1 1996)
2.経済相互依存が対立抑止効果を持つのは民主主義体制においてのみである(Gelpi & Grieco 2000)
3.相互依存は対等な関係ではなく、より依存の低い国は、より依存の高い相手国に対して高圧的になる(Gilpin 1981など)
4.経済相互依存が抑止しうるのは軍事衝突。相互依存にある国同士では、政策決定者が互いに「対立が軍事衝突には発展しない」と予測し合うからこそ、外交的対立が増加する(Gartzke 1998)
5.相手国との貿易によって不利益を受けた比較劣位産業の関係者が、自国政府を強硬姿勢へと動かす(関山2018)

仮説① トゥキディデスの罠

第一の仮説は、既存大国と新興大国とは不可避的に覇権争いをするものであり、その覇権争いは経済相互依存も抑止しえないという、いわゆる「トゥキディデスの罠」という説。

ハーバード大学のアリソン名誉教授によれば、過去500年間の覇権争い16事例のうち、20世紀初頭の英米関係や冷戦など4事例を除き、12事例は戦争に発展した。

もし、この仮説が正しいならば、このたびの貿易戦争は、今後続く米中間の覇権争いの序章に過ぎないことになる。

今次の貿易戦争は、中国の知財侵害を名目に発動されたものだが、実際、電気通信やITといった分野の特許申請数では、中国が米国を抜き、世界一位になっている。今後のAIを中心とする第四次産業革命での覇権争い、中国の優位に対する米国の焦りといったものが、今回の貿易摩擦の背景の一つという事は言えるかもしれない。

実際、トランプ政権下において、クリントン政権以来オバマ政権に至るまでの対中融和姿勢は明らかに変化してきている。

ただし、現下の米中関係が、過去500年間の覇権争いで新旧大国が妥協した4事例に続くのか、戦争まで発展した12事例に倣うのかは、現時点で判断できず、10年後、30年後、50年後に歴史を振り返って検証せざるを得ない。

仮説② 民主体制 vs. 非民主体制

第二の仮説は、経済相互依存が対立抑止効果を持つのは民主主義体制においてのみであるという考えだ。

これは、民主主義が確立された国同士では,他の体制を採用する国との関係に比して戦争が起こりにくいとする、いわゆるデモクラティック・ピース論と深く関わる。

マイケル・ドイル(Doyle, 1983)やブルース・ラセット(Russet, 1993)らによれば、民主主義国の間では、

(1)平和的解決を好む規範が共有されていること、
(2)議会での政策決定過程の透明度が高く、海外からも理解しやすいため、相互不信が高まりにくいこと、
(3)同じ価値観を共有する民主主義国は攻撃の大義名分を作りにくいこと、

などを理由に、民主主義国同士では戦争などの全面対立は生じにくいとされる。

一方、このデモクラティック・ピース論の裏を返すと、非民主主義国たる中国に対して、米国は、

(1)平和的解決を好む規範を共有しておらず、
(2)中国の政策決定過程は不透明で不信が残り、
(3)人権問題などで攻撃の大義名分を見出しやすい、

という事になる。

思うに、このような異質な中国に対する米国の敵視というのは、もちろん昨今の米中対立をもたらした直接的要因とは言えないが、少なくとも対立を助長する要因ではあると言えよう。

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