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香港から届いた匿名の手紙「この男を監視しろ」 中国の報道の自由と香港の現実

写真AC

[ロンドン発]内戦下のシリアで拘束され、3年4カ月ぶりに解放されたフリージャーナリストの安田純平さんは国民の「知る権利」に応えようとしたのか、それとも無謀な計画で日本政府を巻き込み、引いては日本国民のリスクを増してしまったのか。事実を伝えるのには、さまざまな障害が立ちはだかる。

香港から届いた「隣人を監視しろ」という匿名の手紙

アサド政府軍、反政府軍、過激派組織、クルド人武装勢力が入り乱れて戦闘を繰り広げるシリアでなくても、リスクはある。安田さんの身辺で起きた出来事は、かたちを変えて私たちの身にいつ降りかかるかもしれない「知る権利」と「事実を隠蔽しようとする力」の衝突ととらえることもできるだろう。

香港の人権問題を取り上げるサイト「香港ウォッチ(https://www.hongkongwatch.org/)」を運営するロンドン近郊のベネディクト・ロジャーズ氏宅にこの夏、香港の消印が押された匿名の手紙が送りつけられてきた。

ロジャーズ氏宅に送りつけられてきた手紙。自分の写真がプリントアウトされ、「この男を監視しろ(Watch him)」と書かれていた。(本人提供)

「あなたの隣に住むベネディクト・ロジャーズ氏に注意しろ。彼から目を離すな。彼は最近、以下の国や都市に入るのを禁止されている」

中国
ビルマ(現ミャンマー)
インドネシア
マレーシア
タイ
香港
ベトナム
フィリピン
ラオス
韓国

「反体制活動のため、政治革命を唱え、旅行の真の目的を明らかにしなかった。2017年以降、彼は終生、入国禁止になった」

「ベネディクト・ロジャーズ氏は英保守党政権のスパイで、東アジア担当のヘッドだ。単なる人権活動家がどうして英国を含む多くの国々の国会議員と一緒なのか」

「どうか彼に目を光らせてほしい。彼を気遣ってやってほしい。かわいそうな奴には抱擁と冷えたビールが必要だ。どうもありがとう。神のご加護を」。

手紙は近所の人々や母親宅にも一斉に郵送されていた。こうした手紙による脅しはこれまでに6回も繰り返されている。

香港の人権監視のサイトを立ち上げ入国拒否

ロジャーズ氏は香港が英国から中国に返還された1997年から2002年にかけ香港に住み、民主主義の価値を訴えてきた。その頃からトラブルに見舞われてきたが、昨年「香港ウォッチ」を立ち上げると、同年11月に香港への入国を空港で拒否された。

香港ウォッチのサイト

ロジャーズ氏に尋ねてみた。

――手紙を送ってきたのは誰だと思いますか

手紙を送ってきたのは中国共産党か、彼らのために動く人々だと2つの理由から確信しています。

第一に、私の自宅や母親宅を調べるためのリソースが必要です。

第二に、中国の友人によると、近所の人や家族、雇用主を通じて圧力をかける方法は活動家を脅す戦術として中国では一般的なものだからです。中国共産党は国境を越えて同じことをやり出したように見えます。

――今後の活動に影響はありますか

この手の脅しで私の活動を止めることはできません。私を脅そうという試みは逆に私の決意を固くするだけでしょう。しかしながら、こうした手紙が送られてくることは決してうれしいことではありません。

手紙の内容自体はそれほど心配するには及びません。本当に奇妙で馬鹿げています。しかし何者かが私の住所や母親の住所を知っているという事実はとても嫌な感じがします。

これは表現の自由というより脅しです。手紙は匿名であり、私だけでなく近所の人や雇用主、私の母親宛に送られてきたからです。

――香港の人権問題に取り組む理由は何ですか

1997年の香港返還から6年間、現地で暮らした経験から香港のために声を上げようという深い個人的な義務を感じています。中英共同宣言(香港の『高度な自治』を明記しているが、駐英中国大使館は無効を通告)があるので、英国は特別な道徳的で法的な責任があると信じています。

香港では2014年、中国政府の方針に反発した学生を中心に大規模な抗議運動『雨傘革命』が起き、非常に刺激を受けました。しかし、一国二制度の下で保障されてきた香港の自由、法の支配、自治が着実に侵食され、弱められてきました。私はこうした動きに対して声を上げなければならないと信じています。

中国政府は香港の人々と交わした約束を堂々と反故にしています。私は香港の基本的な自由と自治のために関心を高め、主張する組織が必要だと感じています。私個人ではなく、もっと持続可能な形にするため、『香港ウォッチ』をスタートさせたのです。

――現在の香港の状況を教えてください

香港の基本的自由と自治の腐食は日々進んでいます。中国共産党の批判書籍を扱っていた書店経営者が拉致され、民主化を主張する議員や候補者は資格を剥奪され、平和的なデモの参加者は投獄され、政党は禁止されました。

書店経営者が拉致され閉まったままの書店(BLOGOS編集部)

ビザ更新を拒否された英紙フィナンシャル・タイムズのアジア編集長は追放され、出版の自由や表現の自由は深刻な脅威にさらされています。

中国国営テレビの女性記者「お前は嘘つきだ」

9月30日、英中部バーミンガムで開かれた与党・保守党大会でもロジャーズ氏はこんな事件に巻き込まれた。

香港の自由、法の支配、自治の侵害をテーマにした保守党人権委員会と香港ウォッチの共催イベントでロジャーズ氏が「私は現中国政府の香港市民への対し方を懸念している。中英共同宣言でうたわれたコミットメントを尊重し、一国二制度が維持されることを確実にするのが双方の利益になる」と訴えた。

すると国営中国中央テレビ(CCTV)の女性記者がロジャーズ氏に「お前は嘘つきだ。中国を分裂させようとしている。お前は中国人ではない。(香港から来た)他のスピーカーは祖国に対する裏切り者だ」と怒声を浴びせた。

司会役の保守党下院議員が静粛にするよう女性記者に注意したが、応じなかったため退席を命じた。イベントの運営を手伝っていたボランティアの男性が退席を促したところ、女性記者は男性の顔を2回平手打ちにしたため警察に逮捕された。

注)女性の写真は

動画は

「中国メディアを代表して保守党大会を取材するプレスパスを取得、記者としての立場を乱用して私たちの表現の自由を脅かした。これは中国が国境を越えて攻撃と威嚇を強めているサインなのか」とロジャーズ氏は疑問を投げかける。

在英中国大使館は即座に反論した。

「香港の独立を主張するいかなる試みも行動も無駄に終わるだろう。女性記者は単に質問し、自分の意見を述べただけなのに妨害された。これは完全に許容できない。

保守党人権委員会は中国への内政干渉と香港問題をかき回すのを止めて、イベント主催者は中国人記者に謝罪すべきだ」

「中国の警察は批判する人々を違法に誘拐」

英国のシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ」が昨年、香港返還20年に合わせて発表した報告書で中国および香港の現状について次のように指摘している。

・10年前に比べて香港の民主主義と法的権利は大きく後退した

・中国は直接・間接的にいろいろな方法を使って香港の立法プロセス、司法制度を破壊している

・犯罪人引き渡しの法制度が欠如しているため、中国の警察は中国指導部を批判する人々を違法に誘拐する手段に訴えている

・2014年の「雨傘革命」をきっかけに中国は香港で愛国教育カリキュラムを強化しようと試みた。今や香港の若者のうち自分のアイデンティティーを中国人だと考えているのは全体の3.1%

・国境なき記者団の「報道の自由」指標で香港のランキングは2002年の18位から2017年には73位まで下がった

これが中国の「報道の自由」と香港の現実である。事実を伝える勇気が問われているのは危険なシリアだけではない。危機はもう私たちの目の前まで迫ってきている。

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